日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

妊娠期・授乳期の乳癌は予後が不良か (疫学.予防・予後との関連・ID41570)

CQ43 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(141-143ページ)
エビデンスグレード Limited-no conclusion(証拠不十分) 妊娠期乳癌が予後不良とは結論付けられない
Probable(ほぼ確実) 授乳期の乳癌の予後が不良であることはほぼ確実である。

背景・目的

 妊娠期・授乳期乳癌は比較的稀であるが,出産年齢の高齢化により,その頻度は徐々に増加傾向にある。これら妊娠関連乳癌は進行した状態で診断されることが多いため古くから予後不良であると考えられてきた。しかし,年齢,進行度を妊娠と関連のない乳癌と比較した場合,妊娠関連乳癌の予後は必ずしも不良とはいえないとする報告も散見される。本項では妊娠関連乳癌の予後についてEBMの手法に従って検討した。

解 説

 妊娠関連乳癌は,妊娠中あるいは出産後1年以内,または授乳中に診断された乳癌と定義されている。妊娠関連乳癌に共通してみられる特徴としては,腫瘍径が大きいこと,進行した病期であること,リンパ節転移が高度であること,ホルモン受容体陰性の割合が高いことなどが挙げられている(二次資料①②③参照)。そのためか,妊娠関連乳癌の予後は悪いといわれてきたが,症例数が少ないこともあり,大規模な研究やエビデンスレベルの高い研究を行うことが困難であった。本書2013年版でも参考文献はすべて個々の症例対照研究であった。

 しかし,この問題に関しては2012年に3,628例の妊娠関連乳癌と37,100例の妊娠と関連のない乳癌を含む30の研究のメタアナリシスが発表された1)。それによると妊娠関連乳癌は関連のない乳癌に比較し有意に乳癌死亡のリスクが高く〔pooled hazard ratio(pHR):1.44,95%CI:1.27—1.63〕,HRの多変量解析でも妊娠関連か否かは独立した乳癌死亡関連因子であった(pHR:1.40,95%CI:1.17—1.67)。また,妊娠期と授乳期に分けて検討すると,妊娠期乳癌の死亡リスクのpHRは1.29(95%CI:0.74—2.24)で有意ではなく,授乳期乳癌の死亡リスクのpHRは1.84(95%CI:1.28—2.65)であり,有意に高かった。妊娠関連乳癌では同様に乳癌再発リスクも有意に高かった(pHR:1.60,95%CI:1.19—2.16)。2010年10月~2012年10月の文献検索におけるその他の個々の症例対照研究はすべて妊娠関連か否かが年齢,Stageを合わせてもなお独立した乳癌死亡関連因子または乳癌再発関連因子と結論付けていた2)~5)

 一方で今回の文献検索における症例対照研究は3件あった。1件は妊娠期乳癌(授乳期乳癌は除く)では年齢,Stage,組織学的グレード,ホルモン受容体発現状況,HER2発現状況,組織型,化学療法の種類,トラスツズマブ使用の有無,ホルモン療法有無,放射線療法有無などの治療関連因子も含めて補正した場合,妊娠と関連のない乳癌と比較して5年無再発生存率,全生存率に有意差はないと報告した6)。1件は妊娠関連乳癌の死亡率は年齢,診断年,Stageで補正した場合に妊娠と関連のない乳癌のそれと比較して有意差はないと報告した7)。しかし,本報告では出産後1年以内に診断された授乳期乳癌の死亡率は際立って高かったことが追記されていた。さらに,もう1件は妊娠中に化学療法を受けた妊娠期乳癌の5年無再発生存率(72% vs 57%;p=0.0115)と5年全生存率(77% vs 71%;p=0.0461)は年齢とStageで補正した場合,妊娠と関連のない乳癌のそれらと比較してむしろ有意に良好であったと報告した8)

 日本人の研究は過去に2件9)10)であった。1件9)は日本乳癌学会(研究会)の研究として1988年に開始された192例の症例対照研究で,妊娠関連乳癌は,病悩期間が長いこと,腫瘍径が大きいこと,血管侵襲,リンパ節転移が高度であること,ER/PgR陽性率が低いことが報告された。5年,10年生存率は対照群よりも有意に低く(それぞれ p<0.0001),その傾向はリンパ節転移陽性症例,Ⅱ,ⅢA期で顕著であった。他の1件10)は単施設からの43例の症例対照研究で,腫瘍径で合わせた場合に妊娠関連乳癌はリンパ節転移が多く,さらにリンパ節転移陽性例では妊娠関連乳癌のほうが全生存率で劣っていた。

 2012年のメタアナリシス1)では妊娠期乳癌の予後は妊娠と関連のない乳癌と同等で,授乳期乳癌は予後不良と結論付けられるが,同時期に行われた近年の個々の症例対象研究も同様な結果を導き出したものが多い。一方で妊娠期,授乳期にかかわらず妊娠関連乳癌であること自体が予後不良因子であるとする報告も散見される。

 以上より授乳期乳癌の予後が悪いことはほぼ確実と考えられたが,妊娠期乳癌については積極的治療介入によって妊娠と関連のない乳癌と同等もしくはそれ以上の治療成績が修められており,予後不良とはいえないと判断した。これらの理由は依然として諸説紛々としており,今後の研究成果が待たれる。

 妊娠関連乳癌の診断は極端に遅れることが多々あり,これが予後不良の一因になっている感は否めない。妊娠,授乳中の女性に対しては産婦人科医や助産師との連携を深めて,乳房の変化を観察することの重要性を教育,啓発し,できるだけ早い段階で乳癌を診断できるように努めることが重要である。

検索式

 2013年版に引き続きPubMedにて,Breast Neoplasms,Pregnancy,Lactation,Breast Feeding,Prognosisのキーワードを用いて2012年10月以降の文献を2014年12月に検索した。該当54件のうちタイトルと抄録から3件を選択し原文査読の結果,この3件を採択した。

参考にした二次資料

① ‌Han SN, Van Calsteren K, Heyns L, Mhallem Gziri M, Amant F. Breast cancer during pregnancy:a literature review. Minerva Ginecol. 2010;62(6):585­—97.

② ‌Loibl S, von Minckwitz G, Gwyn K, Ellis P, Blohmer JU, Schlegelberger B, et al. Breast carcinoma during pregnancy. International recommendations from an expert meeting. Cancer. 2006;106(2):237—46.

③ ‌Molckovsky A, Madarnas Y. Breast cancer in pregnancy:a literature review. Breast Cancer Res Treat. 2008;108(3):333—8.

参考文献

1) Azim HA Jr, Santoro L, Russell-Edu W, Pentheroudakis G, Pavlidis N, Peccatori FA. Prognosis of pregnancy-associated breast cancer:a meta-analysis of 30 studies. Cancer Treat Rev. 2012;38(7):834-42.
→PubMed

2) Ali SA, Gupta S, Sehgal R, Vogel V. Survival outcomes in pregnancy associated breast cancer:a retrospective case control study. Breast J. 2012;18(2):139-44.
→PubMed

3) Moreira WB, Brandão EC, Soares AN, Lucena CE, Antunes CM. Prognosis for patients diagnosed with pregnancy-associated breast cancer:a paired case-control study. Sao Paulo Med J. 2010;128(3):119-24.
→PubMed

4) Johansson AL, Andersson TM, Hsieh CC, Cnattingius S, Lambe M. Increased mortality in women with breast cancer detected during pregnancy and different periods postpartum. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2011;20(9):1865-72.
→PubMed

5) Azim HA Jr, Botteri E, Renne G, Dell’orto P, Rotmensz N, Gentilini O, et al. The biological features and prognosis of breast cancer diagnosed during pregnancy:a case-control study. Acta Oncol. 2012;51(5):653-61.
→PubMed

6) Amant F, von Minckwitz G, Han SN, Bontenbal M, Ring AE, Giermek J, Wet al. Prognosis of women with primary breast cancer diagnosed during pregnancy:results from an international collaborative study. J Clin Oncol. 2013;31(20):2532-9.
→PubMed

7) Johansson AL, Andersson TM, Hsieh CC, Jirström K, Dickman P, Cnattingius S, et al. Stage at diagnosis and mortality in women with pregnancy-associated breast cancer(PABC). Breast Cancer Res Treat. 2013;139(1):183-92.
→PubMed

8) Litton JK, Warneke CL, Hahn KM, Palla SL, Kuerer HM, Perkins GH, et al. Case control study of women treated with chemotherapy for breast cancer during pregnancy as compared with nonpregnant patients with breast cancer. Oncologist. 2013;18(4):369-76.
→PubMed

9) Ishida T, Yokoe T, Kasumi F, Sakamoto G, Makita M, Tominaga T, et al. Clinicopathologic characteristics and prognosis of breast cancer patients associated with pregnancy and lactation:analysis of case-control study in Japan. Jpn J Cancer Res. 1992;83(11):1143-9.
→PubMed

10) Makita M, Sakamoto G, Namba K, Akiyama F, Iwase T, Sugano H, et al.[Study of breast cancers during pregnancy and lactation]. Gan No Rinsho.1990;36(1):39-44.
→PubMed

乳癌診療ガイドライン

PAGETOP
Copyright © 一般社団法人日本乳癌学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.