日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

心理社会的介入は乳癌患者に有用か (疫学.予防・心理社会的サポート・ID41580)

CQ44 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(144-146ページ)
エビデンスグレード Limited-suggestive(可能性あり) 原発乳癌および転移乳癌患者ともに,心理的な効果は一部に認められるが,効果の持続は短期間にとどまる。
Limited-no conclusion(証拠不十分) 生存期間の延長をもたらすという十分な根拠は認められない。

背景・目的

 乳癌患者は病気のあらゆる段階において,さまざまな心理社会的苦痛を受けることが報告されている。したがって,それらの苦痛を軽減する方法が長年にわたり試みられてきた。精神科的な薬物療法は有力な手段の一つであるが,心理社会的なサポート介入も期待されている。こうした心理社会的介入の有効性について検証を行った。

解 説

 本書の2013年版以降,システマティック・レビューが3件,新たなランダム化比較試験が26件選択された。このうちランダム化比較試験については,すべてが原発乳癌を対象としたものであった。介入内容として最も多かったのは,ヨガや瞑想を含むマインドフルネスに基づいたストレス軽減法で10件,以下,グループ介入が5件,電話やインターネットを用いた介入が3件などであり,アウトカムの多くは感情状態やQOLであった。しかし,依然として個々の研究が多く,結果が大きく異なる報告や質の高い報告は認められなかったため,今回は追加採用しなかった。したがって,今回は新たに採用したシステマティック・レビュー3件を加えた,システマティック・レビュー7件,ランダム化比較試験2件の計9件を選択した。

 2013年にアップデートされた転移乳癌患者への心理的介入に関するランダム化比較試験のCochrane Databaseのシステマティック・レビューでは1),10件の原論文が選択された。介入方法は,7件がグループ介入,3件が認知行動介入であった。これらの研究から得られた心理的効果や痛みに対する効果は限定的なものにとどまる。心理的効果は複数の研究で認められたものの,その効果の持続は数カ月しか認められなかった。また,これらの研究においては介入期間やアウトカム指標がさまざまであり,方法論的な脆弱性も認め得られることから,効果の評価には注意が必要であると結論付けられている。さらに,心理介入による5年生存率の延長は認められなかった(オッズ比:1.03,95%CI:0.42—2.52)。2004年に報告されたメタアナリシスにおいても2),やはり生存期間の延長は認められなかったが,本研究の対象は8試験すべてを合わせても1,062人にとどまり,多数例での解析がなされていない点に留意する必要がある。

 上記のシステマティック・レビュー2件が取り扱った対象は主に転移乳癌患者であるが,乳癌の診断後あまり時間を経ていない患者,あるいは早期乳癌患者に対する有用性の検証もなされている。Naamanら3)が行った,全病期の乳癌患者を対象とした心理的介入の効果に関するシステマティック・レビューでは,不安の軽減(効果量:-0.40,95%CI:-0.72—-0.08),抑うつの軽減(効果量:-1.01,95%CI:-1.48—-0.54),QOLの改善(効果量:0.74,95%CI:0.12—1.37)においていずれも中程度の効果が認められたが,さらなる臨床試験での追試が推奨されている。Forsら4)は,1999~2008年に報告された18件(心理教育6件,認知行動療法7件,心理社会的サポート5件)のランダム化比較試験をレビューしたが,QOLや感情状態の改善において,いずれも短期的な効果であったと報告している。Taylorら5)らは,心理社会的介入の性的問題に対する介入効果を報告した15件のランダム化比較試験をレビューし,心理教育の限定的な効果を報告しているが,介入効果を明らかにするためには,方法論的により洗練された研究が必要であると結論付けている。Andersonら6)が行った,227人の術後乳癌を対象とした心理的介入(週1回4カ月間+月1回8カ月間の小グループによる心理・行動学的介入)の効果に関するランダム化比較試験によると,介入群では再発(HR:0.55,95%CI:0.32—0.95,p=0.034),乳癌死亡(HR:0.44,95%CI:0.22—0.86,p=0.016),全死亡(HR:0.51,95%CI:0.28—0.93,p=0.028)ともそのリスクが減少していた。本研究は,術後の早期乳癌患者を対象に心理社会的介入の生存期間に対する効果をみた最初の報告であり,今後の再現性の検証が必要である。今回採用した2件のシステマティック・レビューは,マインドフルネスに基づいたストレス軽減法とヨガに関する効果をみたものである。前者7)は9件(ランダム化比較試験は2件のみ)の研究をレビューし,ストレスに対する有効性(effect size:0.71,95%CI:0.51—0.90)を示しているものの,さらなる良質な研究の必要性を示唆している。後者8)は6件のランダム化比較試験をレビューしたが,不安や抑うつといった心理的な効果について有意な結果は得られなかった。わが国からの優れた報告もある。Fukuiら9)による,46人の日本の原発乳癌患者を対象とした心理社会的介入(6週の構造化された健康教育,対処技術訓練,ストレス管理,心理的サポート)のランダム化比較試験によると,介入群では6週目に活力と癌との前向きな取り組み(コーピング)において,対照群との比較で有意に高いスコアを示し,6カ月目まで効果は持続した。しかしこれ以降,わが国から心理社会的介入の有効性を評価したランダム化比較試験は報告されていない。

 以上より,転移乳癌患者に対する心理社会的介入の効果は,心理的アウトカムの一部でしかなく,また持続期間も短期にとどまると結論付けられるため,推奨するための根拠は不十分である。また,原発乳癌患者対象の研究においても,効果は一部の指標で認められるものの,再現性に乏しく,評価指標の多重性の問題や対象症例数を考慮すると,エビデンスレベルの高いものは少数にとどまる。

 心理社会的介入論文の限界は大きく分けて3つある。1つは,介入プログラムの信頼性・妥当性に関する問題であり,信頼性・妥当性に関する記述が不明確なものが多い。2つ目は評価指標の選択基準である。患者の負担を考慮すると,最小限の,確立された尺度を用いることが望ましいが,その点の記載が不十分な文献が多い。3つ目は症例数設定根拠と解析手法,結果の多重性の扱いである。症例数の設定根拠に触れている論文は極めて少ない。また,複数の評価指標を同時に用いる研究が多いが,プライマリー・エンドポイントの設定が明確でなく,どれかで有意差が出ればよしとする姿勢が多々見受けられる。そのために,エビデンスレベルを1段階下げざるを得なかった論文が多かった。

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms/therapy,Psychotherapy,Social Support,psychosocial interventionのキーワードを用いて行った。検索期間は2012年9月~2014年9月とした。最終的に選択された海外文献該当102件より,タイトルと抄録により,CQに関連がないものや,明らかに抄録や総説とわかる論文,対象が乳癌に限らないものを除き44件選択,原論文査読により,エビデンスレベルが2c以下のもの,特殊性の強いもの,評価指標に心理的側面や生存が含まれていないものなどの文献15件を除外し,ランダム化比較試験26件とシステマティック・レビュー3件を抽出した。エビデンスの評価にはこの中からシステマティック・レビュー3件のみを採用し,結果,2013年版と併せた9件を本文の解説に引用した。国内文献に採択すべき論文はなかった。

参考文献

1) Mustafa M, Carson―Stevens A, Gillespie D, Edwards AG. Psychological interventions for women with metastatic breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2013;6:CD004253.
→PubMed

2) Chow E, Tsao MN, Harth T. Does psychosocial intervention improve survival in cancer? A meta-analysis. Palliat Med. 2004;18(1):25-31.
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3) Naaman SC, Radwan K, Fergusson D, Johnson S. Status of psychological trials in breast cancer patients:a report of three meta-analyses. Psychiatry. 2009;72(1):50-69.
→PubMed

4) Fors EA, Bertheussen GF, Thune I, Juvet LK, Elvsaas IK, Oldervoll L, et al. Psychosocial interventions as part of breast cancer rehabilitation programs? Results from a systematic review. Psychooncology. 2011;20(9):909-18.
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5) Taylor S, Harley C, Ziegler L, Brown J, Velikova G. Interventions for sexual problems following treatment for breast cancer:a systematic review. Breast Cancer Res Treat. 2011;130(3):711-24.
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6) Andersen BL, Yang HC, Farrar WB, Golden-Kreutz DM, Emery CF, Thornton LM, et al. Psychologic intervention improves survival for breast cancer patients:a randomized clinical trial. Cancer. 2008;113(12):3450-8.
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7) Zainal NZ, Booth S, Huppert FA. The efficacy of mindfulness-based stress reduction on mental health of breast cancer patients:a meta-analysis. Psychooncology. 2013;22(7):1457-65.
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8) Zhang J, Yang KH, Tian JH, Wang CM. Effects of yoga on psychologic function and quality of life in women with breast cancer:a meta-analysis of randomized controlled trials. J Altern Complement Med. 2012;18(11):994-1002.
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9) Fukui S, Kugaya A, Okamura H, Kamiya M, Koike M, Nakanishi T, et al. A psychosocial group intervention for Japanese women with primary breast carcinoma. Cancer. 2000;89(5):1026-36.
→PubMed

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