日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

総論1:日本の検診マンモグラフィの被曝について (検診.画像診断・総論・ID51600)

乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(152-154ページ)

解 説

 癌検診においては,救命効果とともに検診の不利益を考慮しなければならない。癌検診の不利益には,偽陰性,偽陽性,過剰診断,偶発症,放射線被曝,感染,受診者の身体的・心理的負担などがある。放射線被曝については,被曝線量が上昇すると発癌率が上昇することが分かっている。放射線被曝を伴う検診では,被曝のリスクと利益の分析が必要である。

 放射線被曝の影響には,確定的影響と確率的影響がある。確定的影響は,被曝を受けた細胞が損傷され,その損傷の度合いが自己修復機能を超えたときに,放射線障害(皮膚,粘膜,骨髄などに)として症状が現れるもので,自己修復機能で対応できる範囲の被曝であれば症状が現れず,ある程度の閾値が存在する。それに対して,確率的影響は,被曝により遺伝子が突然変異した結果,癌や白血病を発生させるもので,明確な閾値はなく線量に比例して確率が上昇すると考えられている。

 物質に吸収された放射線の量は吸収線量と呼ばれ,単位はグレイ(Gy)が用いられる。人体に照射された放射線の効果はその線質によって異なるため,線質ごとに決められた放射線加重係数を吸収線量に乗じた等価線量が用いられる。等価線量の単位はシーベルト(Sv)で,X線の放射線加重係数は1である。

 ある検査によって全身が均等に被曝することは稀である。確率的影響を評価する場合は,各臓器によって感受性が異なるため,放射線感受性の係数である組織加重係数を等価線量に乗じ,各臓器の総和を求めている。この線量を実効線量といい,単位はシーベルトである。国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年の勧告1では,乳房の組織加重係数はそれまでの0.05から0.12に変更された2最終的に,放射線被曝の致死的発癌による死亡率は,実効線量に被曝時の年齢に応じて決められた生涯リスク係数を乗じて算出される。ICRPの勧告は,41~60歳の生涯リスク係数を2.5%/Svとしている。

 具体的に計算の一例を示すと,1回のマンモグラフィで乳房に3 mGyの被曝が生じた場合,放射線加重係数1と組織加重係数0.12を乗じ求めた実効線量0.36 mSvに,生涯係数2.5を乗じれば,生涯の致死的発癌のリスクは0.0009%であると算出できる。このリスクと検診による救命効果を比較し,リスク・利益分析を行うわけである。

 日本におけるマンモグラフィ検診の利益と被曝リスクを分析した研究は,飯沼武が第17回日本乳癌検診学会で発表した内容を,日本医学放射線学会のホームページからダウンロードできるようにしたものがある3)。この研究は,日本において,30~49歳が2方向,50歳以上が1方向のマンモグラフィ検診を受診したと仮定し,10万人のコホートを動かして検診による獲得余命と被曝による損失余命を算出し,利益・リスク比を求めたものである。仮に実効線量の最大値,50歳未満0.72 mSv,50歳以上0.36 mSvで計算した利益・リスク比を表1に示す。

P153_表1

 結果をみると,どの年代も利益・リスク比は1.0を超えており,利益が被曝のリスクを上回っている。ただし,30歳代前半に関しては,利益・リスク比が小さく,費用効果分析も含めた検討が必要であるとされている。

 海外でも確率的影響に関する被曝リスクの研究が複数行われているが,いずれの研究も,低線量の放射線被曝でも一定の影響があるという「直線しきい値なし(linear non—threshold;LNT)モデル」に基づいている。しかし,自然界の放射線は1人あたり年間2 mSv程度であり,実際の被曝者調査において数十mSv以下では発癌リスクの上昇は観察されていない。LNTモデルは,診断に用いられる低線量の放射線のリスクを評価するには過剰評価であるという議論も多く4),ICRPもLNTモデルは放射線防護の目的のためにのみ用いるべきであるとしている。

 現時点では,体の一部に低線量の放射線被曝を受けるマンモグラフィの致死的発癌リスクは,ないか,あっても極めて小さいので,救命効果が証明されている40歳以上であれば利益がリスクを大幅に上回ると考えられる5)ただし,BRCA1/2遺伝子変異をもつ乳癌のハイリスクグループを対象とした欧州の研究で,30歳以前に検査による被曝を17.4 mGy以上乳房に受けた群では,被曝のない群に対して3.84倍乳癌になりやすかったという報告6もあり,罹患率が極めて低い29歳以下に対するマンモグラフィ検診は,任意型検診でも行うべきではないと考えられる。

 マンモグラフィの被曝においては平均乳腺線量についても考慮する必要がある。現在,国際的基準としてIEC・EUREF・IAEAなどさまざまな機関から平均乳腺線量目標値が出されている。EUREF 4thEditionではPMMA 40 mmで受入値(Acceptable)2.0 mGy以下,推奨値(Achievable)1.6 mGy以下となり,デジタルマンモグラフィシステムを基準とすると日本の現状では87%の装置しか受入値を下回ることができていない7。今後,国際的基準に立って考えるとさらなる平均乳腺線量の低減が望まれる。

参考文献

1) Streffer C;International Commission on Radiation Protection. The ICRP 2007 recommendations. Radiat Prot Dosimetry. 2007;127(1‒4):2‒7.
→PubMed

2) 富樫厚彦,山口一郎,山口和也,大場久照,加藤英幸,田中真司,他.日常診療に役立てるためのICRP2007年新勧告の活用法Ⅱ“医療での放射線リスクを中心にして”.日放線技会誌.2007;63(11):1320‒2.

3) 飯沼 武.マンモグラフィ検診(2年間隔)の利益リスク(乳房の組織加重係数が0.12の場合).飯沼武名誉会員提言集.日本医学放射線学会ホームページ.http://www.radiology.jp/content/files/439.pdf

4) 山口一郎,富樫厚彦,山口和也,大場久照,加藤英幸,田中真司,他.日常診療に役立てるためのICRP2007年新勧告の活用法.日放線技会誌.2007;63(10):1211‒17.

5) 日本医学放射線学会,日本放射線技術学会編.被ばくによるリスクと乳がん検診の利益/リスク比.マンモグラフィガイドライン.第3版.東京,医学書院,pp91‒4,2010.

6) Pijpe A, Andrieu N, Easton DF, Kesminiene A, Cardis E, Noguès C, et al;GENEPSO;EMBRACE;HEBON. Exposure to diagnostic radiation and risk of breast cancer among carriers of BRCA1/2 mutations:retrospective cohort study(GENE‒RAD‒RISK). BMJ. 2012;345:e5660.
→PubMed

7) 医療被ばくガイドライン改訂委員会.中間報告書 医療被ばくガイドライン改訂「マンモグラフィ」.日放技誌.2014;61(1):119‒22.

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