日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

視触診単独による乳癌検診は勧められるか (検診.画像診断・検診・ID51630)

CQ1 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(164-166ページ)
推奨グレード D 視触診単独による乳癌検診は勧められない。

背景・目的

 日本の乳癌検診は,1987年に第二次老人保健法で「30歳以上に問診・視触診検診を逐年で行う」という形で全国に導入された。視触診単独検診は簡便で安価であるが,その死亡率低減効果は証明されていなかった。その後,2000年には50歳以上,2004年には40歳以上はマンモグラフィ併用検診を行うとする通達が厚生労働省から出された。現在における,視触診単独による乳癌検診の有効性を評価した。

解 説

(1)視触診単独検診

 欧米など先進国ではかつてからマンモグラフィを中心とした画像診断による検診が行われてきており,視触診単独検診が広く行われた国は現在のところ日本のみである。日本の症例対照研究1)では,乳癌診断日から1年以内に検診を受診している群のオッズ比は0.93(95%CI:0.48—1.79)であり,死亡率低減効果は認めなかった。市区町村単位で視触診検診の検診受診率と10年間の乳癌死亡率の推移を調べた研究2)では,30~69歳において,受診率40%以上の市町村では51.7%の死亡率の減少が認められ,対照地区の8.5%と比較して有意であった。精度の高いがん登録を用いた研究では,50歳代における視触診単独検診の感度は59.1%3),視触診単独検診発見群の5年生存率は94.3%4)と報告されているが,いずれの数字もマンモグラフィ併用検診の成績のほうが上回っている。

 視触診の有効性を評価しようとしたランダム化比較試験は,フィリピンおよびインドといった2つの開発途上国において施行されたに過ぎず,結果も中間報告にとどまっており,いずれも死亡率低減効果には言及していない5)~7)

 1966~1997年における欧米の視触診とマンモグラフィの併用検診から視触診単独の有効性を評価したメタアナリシス8)では,視触診の感度は54.1%,特異度は94.0%と推定しているが,死亡率低減効果については言及していなかった。

 カナダで行われた,視触診単独検診を対照群,視触診とマンモグラフィの併用検診を介入群としたランダム化比較試験9)では,50歳代の受診者には視触診検診にマンモグラフィ検診を加えても死亡率低減効果は認めなかった。その後の2014年の報告では,視触診単独検診と,視触診とマンモグラフィの併用検診での死亡率が同等と報告され,昨今の薬物療法の寄与がその原因として考察されている10)。しかし,これらの研究は視触診での検診の有効性を示すものではなく,マンモグラフィの画質や精度に問題があるという指摘もある。

 独立行政法人国立がん研究センターがん予防・検診研究センターから発行された「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版」では,視触診単独検診について十分な研究が行われていないため死亡率低減効果を判断することはできず,利益と不利益のバランスが判断できないため,対策型検診として実施することは勧められないとしている。また,任意型検診として実施する場合には,死亡率低減効果が不明であることと不利益が大きい可能性について適切な説明を行うべきであるが,視触診が適正に行われるための精度管理ができない状況では実施すべきではないとしている11)

(2)乳癌検診における視触診の位置付け

 現在までに視触診単独検診の有効性を示した質の高い研究はなかった。視触診は検者個人の能力により精度が著しく異なり,マススクリーニングとして精度管理が難しいとされている。視触診検診の感度は低く,啓発効果を含めて一定の意義はあると考えられるが,画像による検診(触知しない癌を検出する)を効果の面で上回ることはないであろう。

 欧州諸国では従来マンモグラフィ単独検診が行われており,国として乳癌死亡の低減効果が認められている。現在,日本でも触診医不足を背景に,対策型検診においてマンモグラフィ単独検診が行われている自治体が増えている。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,Mass screening,Physical Examination,clinical breast examination,palpation,sensitivity,Breast Neoplasms/diagnosisのキーワードを用いて検索した。検索期間は2013~2014年とした。また,有効性評価に基づく乳癌検診ガイドライン2013年版を参考にした。

参考文献

1) Kanemura S, Tsuji I, Ohuchi N, Takei H, Yokoe T, Koibuchi Y, et al. A case control study on the effectiveness of breast cancer screening by clinical breast examination in Japan. Jpn J Cancer Res. 1999;90(6):607‒13.
→PubMed

2) Kuroishi T, Hirose K, Suzuki T, Tominaga S. Effectiveness of mass screening for breast cancer in Japan. Breast Cancer. 2000;7(1):1‒8.
→PubMed

3) Suzuki A, Kuriyama S, Kawai M, Amari M, Takeda M, Ishida T, et al. Age‒specific interval breast cancers in Japan:estimation of the proper sensitivity of screening using a population‒based cancer registry. Cancer Sci. 2008;99(11):2264‒7.
→PubMed

4) Kawai M, Kuriyama S, Suzuki A, Nishino Y, Ishida T, Ohnuki K, et al. Effect of screening mammography on breast cancer survival in comparison to other detection methods:a retrospective cohort study. Cancer Sci. 2009;100(8):1479‒84.
→PubMed

5) Pisani P, Parkin DM, Ngelangel C, Esteban D, Gibson L, Munson M, et al. Outcome of screening by clinical examination of the breast in a trial in the Philippines. Int J Cancer. 2006;118(1):149‒54.
→PubMed

6) Sankaranarayanan R, Ramadas K, Thara S, Muwonge R, Prabhakar J, Augustine P, et al. Clinical breast examination:preliminary results from a cluster randomized controlled trial in India. J Natl Cancer Inst. 2011;103(19):1476‒80.
→PubMed

7) Mittra I, Mishra GA, Singh S, Aranke S, Notani P, Badwe R, et al. A cluster randomized, controlled trial of breast and cervix cancer screening in Mumbai, India:methodology and interim results after three rounds of screening. Int J Cancer. 2010;126(4):976‒84.
→PubMed

8) Barton MB, Harris R, Fletcher SW. The rational clinical examination:Does this patient have breast cancer? The screening clinical breast examination:should it be done? How? JAMA. 1999;282(13):1270‒80.
→PubMed

9) Miller AB, To T, Baines CJ, Wall C. Canadian National Breast Screening Study‒2:13‒year results of a randomized trial in women aged 50‒59 years. J Natl Cancer Inst. 2000;92(18):1490‒9.
→PubMed

10) Miller AB, Wall C, Baines CJ, Sun P, To T, Narod SA. Twenty five year follow‒up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study:randomised screening trial. BMJ. 2014;348:g366.
→PubMed

11) 独立行政法人国立がん研究センターがん予防・検診研究センター.有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版.2014.http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/pdf/nyugan_kenshin_guidelinebook_20140604.pdf

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