日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

50歳以上または40歳代に対してマンモグラフィ検診は勧められるか (検診.画像診断・検診・ID51640)

CQ2 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(167-170ページ)
推奨グレード B 50歳以上の女性に対して行われるマンモグラフィによる乳癌検診は勧められるが,benefitとharmに関して情報を提供する必要がある。
B 40歳代女性に対して行われるマンモグラフィ検診も勧められるが,benefitと特にさまざまなharmに関してより詳細な情報を提供する必要がある。

推奨グレードを決めるにあたって

 昨今マンモグラフィ検診に関しては過剰診断が問題視されている。また近年,その死亡率低減効果を疑問視する報告が複数なされている。米国のガイドライン同様,日本でも厚生労働省研究班による調査研究で,40~74歳女性のマンモグラフィ検診は推奨グレードBとされており,前回ガイドラインまで推奨グレードAであった「50歳以上に対するマンモグラフィ検診」も今回,推奨グレードをBとした。

背景・目的

 50歳以上に対するマンモグラフィ検診は欧米諸国で広く行われており,日本においても2000年から厚生労働省が乳癌検診の方法としてマンモグラフィ検診が標準であるとの通達を出している。また,40歳代に対するマンモグラフィ検診も2004年よりその導入が全国の自治体に通達されてきた。マンモグラフィを用いた乳癌検診が推奨されるか否かを,一般住民を対象とした検診による利益(benefit)から不利益(harm)を引いたnet benefitの観点から検討した。なお,被曝ついては,総論1に示すように,利益がリスクを上回ることがわかっている(検診・総論1参照)。

 解 説

(1)50歳以上に対するマンモグラフィ検診

 マンモグラフィを用いた乳癌検診の死亡率低減効果は,1963年に最初のランダム化比較試験が米国で行われて以来,欧米を中心に検討されてきた1)~5)。その結果,50歳以上の年代においては,検診開始後10年経過時点での死亡率低減効果が17~30%程度あることが示された。代表的な8つのランダム化比較試験をメタアナリシスした結果では,50~74歳に対する死亡率低減効果は22%(RR:0.78,95%CI:0.70—0.85)で統計学的有意差を認めた6)

 2009年のU. S. Preventive Services Task Force(USPSTF)における50~74歳のマンモグラフィ検診の推奨は「B」にランクされている7。代表的な6つのランダム化比較試験をメタアナリシスした結果では,50~59歳に対する死亡率低減効果はRR:0.86,95%CI:0.75—0.99,2つのランダム化比較試験をメタアナリシスした結果,60~69歳に対する死亡率低減効果はRR:0.68,95%CI:0.54—0.87であった。70~74歳に対する死亡率低減効果は認めないが(RR:1.12,95%CI:0.73—1.72),1つの研究のみの結果である。欧米では閉経後の乳癌罹患率は高く,不利益である検診偽陽性は閉経後において低いことからも,50歳以上に検診を開始することはnet benefitの観点から問題ないとしている。

 わが国では,厚生労働省研究班による調査研究「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版」で,主に欧米の研究をもとに,マンモグラフィ単独法(40~74歳),マンモグラフィと視触診の併用法(40~64歳)はともに推奨グレードBとされている8)

 近年,マンモグラフィ検診の不利益として過剰診断が大きく議論されている。その定義は,検診の偽陽性でなく,治療しなくても生命予後に影響がない乳癌を発見し治療することである。英国の研究班は,50歳の女性1万人が20年間乳癌検診を受診すると,43例の乳癌死亡が予防できるが129例の過剰診断が発生するとし9),米国の30年間の乳癌検診データからは早期乳癌例は約2倍に増加したものの,進行乳癌例は8%減少したにとどまり,検診発見乳癌の3分の1は過剰診断であると結論付けている10)。

 死亡率減少に関しても,カナダ11)等からnegativeな結果が報告され,スイスのmedical boardはマンモグラフィ検診の撤廃を検討しており12),今後マンモグラフィ検診の長い歴史をもつ欧米からの報告を注視しておく必要がある。現時点では,50歳以上に対してマンモグラフィ検診は勧められるが,検診のbenefitとharmについて十分な情報提供が必要と思われる。

(2)40歳代に対するマンモグラフィ検診

 マンモグラフィ検診の死亡率低減効果を検討したランダム化比較試験は50歳代以上を含んだ年代に施行されたもの8件と,40歳代女性に絞って行われたもの1件の報告がある。前者8件の40歳代に限定したサブ解析では,10年追跡時点でGothenburgの試験において有意差をもって死亡率を低減するとされたが,14年追跡の時点では有意差が認められなくなった13)。他の7件も1件を除いて概ね死亡率を下げる傾向はみられるとの解析結果であった。これらのランダム化比較試験をメタアナリシスした論文も複数発表されているが6)14)15),総じて40歳代を対象とするマンモグラフィ検診の死亡率低減効果に関して肯定的で,RR:0.85,95%CI:0.73—0.98と報告され,統計学的有意差をもって有用であるとされた6)

 1991~1997年に施行されたAge trialはさまざまなバイアスを受けないようにデザインされた40歳代に特化したランダム化比較試験である16)。10年追跡時点での解析結果が2006年に報告され,RR:0.83,95%CI:0.66—1.04,p=0.11であった。死亡率低減効果に統計学的有意差は認められなかったが,傾向としては先行するランダム化比較試験の結果と一致している。

 2009年のU. S. Preventive Services Task Force(USPSTF)における39~49歳のマンモグラフィ検診の推奨は「C」にランクされている7その理由として,①Age trialを加えた8つのランダム化比較試験をメタアナリシスした結果,39~49歳に対する死亡率低減効果はRR:0.85,95%CI:0.75—0.96と,50~59歳に比較して死亡率低減効果はほぼ同等であるが,閉経前乳癌罹患率は欧米では低く,不利益としての検診偽陽性は39~49歳代に高い傾向を認めたこと,②乳癌死1人を回避するために必要なマンモグラフィ検診必要対象者数(Number Need to Invite;NNI)7)は39~49歳が50~69歳に比較して高いこと,これらのことから39~49歳から検診を開始することのnet benefitが小さいとした。また,USPSTF報告にて考慮されなかった観察期間を含めた再計算値も同様の傾向を示している17)

 USPSTFによる推奨ランクの低下を受け,2010年に日本乳癌検診学会にて調査が行われ,調査を施行した5県における結果では米国と比べて検診の不利益は小さいことが報告された18。また,日本人におけるNNIの推計も40~49歳はUSPSTFと同等であった19。これらの結果より日本乳癌検診学会は欧米のデータによる判断をそのまま日本に適用せず,当面現行の推奨の継続が妥当であるとしている20

 近年の技術進歩に伴い,デジタルマンモグラフィのモニタ診断(検診CQ 3参照)は普及し,トモシンセシスの導入も始まりつつあり(検診CQ 4参照),マンモグラフィ検診も現状のものとは異なってくる可能性がある。さらに,わが国においてマンモグラフィに超音波を併用した乳癌検診の有効性を検証するランダム化比較試験が40歳代女性を対象として行われており(検診CQ 5参照),今後,検診の精度(感度・特異度),死亡率減少効果が明らかになるものと思われる。また,高濃度乳房に関してはさほど大きくは議論されないが,米国ではマンモグラフィ検診で高濃度乳房が判明した場合に(年齢を問わず)医師がその旨を受診者に通知する義務を負う「Breast Density Notifications Law」がある21)。2014年9月時点で,19州で施行されさらに広がりつつあり,日本での対応も注目される。

 わが国においては,40歳代後半に乳癌罹患のピークがあるため,40歳代のマンモグラフィ検診の相対的有用性は高いものと思われる。前述の動向を注視しつつ,40歳代に対するマンモグラフィ検診は,少なくとも検診のbenefitとさまざまなharmに対する情報提供を前提とし,推奨グレードはBと考えるが,状況によっては格下げが検討される可能性がある。

検索式・参考にした二次資料

 50歳以上に関しては,2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,mammography,breast cancer,screening,randomized,fifth decade,postmenopausal,overdiagnosisのキーワードを用いて検索した。40歳代に関しては,2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,mammography,breast cancer,screening,randomized,fourth decade,premenopausal,40years,older than 40のキーワードを用いて検索した。両者とも検索期間は2012~2014年とした。

参考文献

1) Shapiro S, Venet W, Strax P, Venet L, Roeser R. Ten‒to fourteen‒year effect of screening on breast cancer mortality. J Natl Cancer Inst. 1982;69(2):349‒55.
→PubMed

2) Tabár L, Fagerberg CJ, Gad A, Baldetorp L, Holmberg LH, Gröntoft O, et al. Reduction in mortality from breast cancer after mass screening with mammography. Randomised trial from the Breast Cancer Screening Working Group of the Swedish National Board of Health and Welfare. Lancet. 1985;1(8433):829‒32.
→PubMed

3) Andersson I, Aspegren K, Janzon L, Landberg T, Lindholm K, Linell F, et al. Mammographic screening and mortality from breast cancer:the Malmö mammographic screening trial. BMJ. 1988;297(6654):943‒8.
→PubMed

4) Nyström L, Andersson I, Bjurstam N, Frisell J, Nordenskjöld B, Rutqvist LE. Long‒term effects of mammography screening:updated overview of the Swedish randomised trials. Lancet. 2002;359(9310):909‒19.
→PubMed

5) Alexander FE, Anderson TJ, Brown HK, Forrest AP, Hepburn W, Kirkpatrick AE, et al. 14 years of follow‒up from the Edinburgh randomised trial of breast‒cancer screening. Lancet. 1999;353(9168):1903‒8.
→PubMed

6) Smith RA, Duffy SW, Gabe R, Tabar L, Yen AM, Chen TH. The randomized trials of breast cancer screening:what have we learned? Radiol Clin North Am. 2004;42(5):793‒806, v.
→PubMed

7) US Preventive Services Task Force. Screening for breast cancer:U. S. Preventive Services Task Force recommendation statement. Ann Intern Med. 2009;151(10):716‒26, W‒236.
→PubMed

8) 独立行政法人国立がん研究センターがん予防・検診研究センター.有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版.2014.http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/pdf/nyugan_kenshin_guidelinebook_20140604.pdf

9) Independent UK Panel on Breast Cancer Screening. The benefits and harms of breast cancer screening:an independent review. Lancet. 2012;380(9855):1778‒86.
→PubMed

10) Bleyer A, Welch HG. Effect of three decades of screening mammography on breast‒cancer incidence. N Engl J Med. 2012;367(21):1998‒2005.
→PubMed

11) Miller AB, Wall C, Baines CJ, Sun P, To T, Narod SA. Twenty five year follow‒up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study:randomised screening trial. BMJ. 2014;348:g366.
→PubMed

12) Biller‒Andorno N, Jüni P. Abolishing mammography screening programs? A view from the Swiss Medical Board. N Engl J Med. 2014;370(21):1965‒7.
→PubMed

13) Bjurstam N, Björneld L, Warwick J, Sala E, Duffy SW, Nyström L, et al. The Gothenburg Breast Screening Trial. Cancer. 2003;97(10):2387‒96.
→PubMed

14) Hendrick RE, Smith RA, Rutledge JH 3rd, Smart CR. Benefit of screening mammography in women aged 40‒49:a new meta‒analysis of randomized controlled trials. J Natl Cancer Inst Monogr. 1997;(22):87‒92.
→PubMed

15) Smart CR, Hendrick RE, Rutledge JH 3rd, Smith RA. Benefit of mammography screening in women ages 40 to 49 years. Current evidence from randomized controlled trials. Cancer. 1995;75(7):1619‒26.
→PubMed

16) Moss SM, Cuckle H, Evans A, Johns L, Waller M, Bobrow L;Trial Management Group. Effect of mammographic screening from age 40 years on breast cancer mortality at 10 years’ follow‒up:a randomised controlled trial. Lancet. 2006;368(9552):2053‒60.
→PubMed

17) Saika K, Saito H, Ohuchi N, Sobue T. Screening for breast cancer. Ann Intern Med. 2010;153(9):618‒9;author reply 619.
→PubMed

18) Kasahara Y, Kawai M, Tsuji I, Tohno E, Yokoe T, Irahara M, et al. Harms of screening mammography for breast cancer in Japanese women. Breast Cancer. 2013;20(4):310‒5.
→PubMed

19) 雑賀公美子,斎藤 博,大内憲明,祖父江友孝.乳癌死ひとりを回避するのに必要な日本人女性のマンモグラフィ検診必要対象者数.日乳癌検診会誌.2011;20(2):121‒6.

20) 日本乳癌検診学会.米国予防医学専門委員会による乳がん検診推奨に対する日本乳癌検診学会の見解.http://www.jabcs.jp/pages/uspfts.html

21) Price ER, Hargreaves J, Lipson JA, Sickles EA, Brenner RJ, Lindfors KK, et al. The California breast density information group:a collaborative response to the issues of breast density, breast cancer risk, and breast density notification legislation. Radiology. 2013;269(3):887‒92.
→PubMed

乳癌診療ガイドライン

PAGETOP
Copyright © 一般社団法人日本乳癌学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.