日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

拡散強調画像を含めた非造影MRIによる乳癌検診は勧められるか (検診.画像診断・検診・ID51680)

CQ6 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(179-180ページ)
推奨グレード D 拡散強調画像を含めた非造影MRIによる乳癌検診の有用性については,現時点で有効性を示唆する科学的根拠はみられない。また,今後有効性を支持する結果が報告される可能性は非常に小さい。したがってその実践は勧められない。

背景・目的

 欧米では乳癌のハイリスクグループに対して造影MRIを用いたスクリーニングが推奨されている。一方,平均的リスクの女性においては,時間やコストさらには造影剤による副作用などからMRIによるスクリーニングは推奨されていない。拡散強調画像は生体内の水分子の動きであるブラウン運動を画像化したMRIの撮像法の一つである。撮像時間が短く,造影剤を使用することなしに,非侵襲的に乳癌の検出が可能であることから,スクリーニングへの応用ができないかという考えがある。拡散強調画像を含む非造影MRIを用いた乳癌のスクリーニングが有用かどうか検証した。

解 説

 造影MRIを含めた他のモダリティで同定される乳腺疾患に対する拡散強調画像の病変検出能(81.2~98.1%)は高い1)~4)。しかしながら,拡散強調画像では良性疾患も検出されるため3)4),拡散強調画像のみでは特異度が低下する1)3)4)。このため,通常は拡散強調画像と同時に測定可能な見かけの拡散係数(apparent diffusion coefficient;ADC)を用いて良悪性の鑑別診断が行われている。ADCを用いた乳腺疾患の良悪性鑑別診断能に関する2つのメタアナリシス5)6)では,感度は0.89(95%CI:0.85—0.91)と0.84(95%CI:0.82—0.87),特異度は0.77(95%CI:0.69—0.84)と0.79(95%CI:0.75—0.82)であり,造影MRIの良悪性鑑別診断能のメタアナリシスと比較して,感度はやや劣るものの特異度が高いと報告されている6)。しかしながら,これらADCによる良悪性鑑別診断能のメタアナリシスでは結果のばらつきが大きく,スクリーニングの対象となるような非触知病変を含むといった算入基準は用いられていない。また,撮像に用いられたb値はさまざまであり,ADCはb値や機器にも依存するために閾値も1.1~1.6×10-3m2/sおよび0.90~1.76×10-3m2/sとばらつきが大きい。ADCは具体的な数字として表現されるが,施設間でADCを比較するには少なくとも基準となるb値の設定が必要であり,また,関心領域の設定を含め測定方法についても標準化する必要がある。最近は拡散の程度をADCとは違う指標を用いて評価をする方法が開発されつつある。いずれの方法も有用であるとの報告があるが,今後の大規模な研究結果をもって臨床応用の可能性を論じるべきであろう。

 一方,ADCを用いず,拡散強調画像と他の画像(非造影MRI)を組み合わせた視覚評価による診断も試みられている。拡散強調画像とSTIRを組み合わせることにより,病変の大きさや背景乳腺濃度に影響を受けることなく,高い感度(97%)を示すことが報告されている7)。また,拡散強調画像とT2強調画像の組み合わせでも高い感度と特異度を示し,視認性では劣るものの,造影MRIと診断能に有意差がないと報告されている4)。ただし,これら研究はあらかじめ病変の存在が判明していた症例を対象とした後ろ向き研究であり,検診で対象となる無症状の非触知病変を対象としたものではない。無症状の非触知病変に対する拡散強調画像とT2強調画像の組み合わせでは,感度は50%であり,造影MRIの感度86%より有意に低く,拡散強調画像とT2強調画像の組み合わせの診断能は造影MRIより低下する8)。さらに拡散強調画像のみでは,造影MRIで非腫瘤性濃染を示す非浸潤性乳管癌の同定率は68%(25病変中17病変)であり3),1 cm未満の病変の検出能も低い1)2)。このように拡散強調画像を含めた非造影MRIは造影MRIに比較し,診断能が低下する可能性があり,造影MRIを非造影MRIで置き換えることは困難と考えられる。

 一方,非造影MRIとマンモグラフィを比較すると,非造影MRIの感度はマンモグラフィ単独の40%より有意に高く,診断能もマンモグラフィより優れている8)。さらにマンモグラフィで同定されない非触知乳癌27症例中24症例(89%)が拡散強調画像で同定できたとする報告もある9)非造影MRIは,マンモグラフィと比較して診断能の向上が期待されるが,エビデンスレベルの高い比較試験は行われていない。拡散強調画像を乳癌のスクリーニングに用いるためには,拡散強調画像の撮像方法や診断基準を標準化する必要があり,現時点では検診で対象となるような無症状の非触知病変に対する拡散強調画像の有用性を示す根拠は十分ではない。また,今後拡散強調画像の画質が向上したとしても,非触知病変に対する感度が飛躍的に向上する可能性は低い。したがって拡散強調画像を含めた非造影MRIによる乳癌検診は勧められない。ただし,検査の性質上,明らかな害を生じる可能性は非常に低いため,研究を前提とした症例の蓄積は許容範囲内と考える。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版をもとに,PubMedにて,breast,screening,MRI,DWI,non—contrast,STIRのキーワードを用いて検索した。検索期間は2012年以降とした。

参考文献

1) Guo Y, Cai YQ, Cai ZL, Gao YG, An NY, Ma L, et al. Differentiation of clinically benign and malignant breast lesions using diffusion—weighted imaging. J Magn Reson Imaging. 2002;16(2):172—8.
→PubMed

2) Park MJ, Cha ES, Kang BJ, Ihn YK, Baik JH. The role of diffusion—weighted imaging and the apparent diffusion coefficient(ADC)values for breast tumors. Korean J Radiol. 2007;8(5):390—6.
→PubMed

3) Tozaki M, Fukuma E. 1H MR spectroscopy and diffusion—weighted imaging of the breast:are they useful tools for characterizing breast lesions before biopsy? AJR Am J Roentgenol. 2009;193(3):840—9.
→PubMed

4) Baltzer PA, Benndorf M, Dietzel M, Gajda M, Camara O, Kaiser WA. Sensitivity and specificity of unenhanced MR mammography(DWI combined with T2—weighted TSE imaging, ueMRM)for the differentiation of mass lesions. Eur Radiol. 2010;20(5):1101—10.
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5) Tsushima Y, Takahashi—Taketomi A, Endo K. Magnetic resonance(MR)differential diagnosis of breast tumors using apparent diffusion coefficient(ADC)on 1.5—T. J Magn Reson Imaging. 2009;30(2):249—55.
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6) Chen X, Li WL, Zhang YL, Wu Q, Guo YM, Bai ZL. Meta—analysis of quantitative diffusion—weighted MR imaging in the differential diagnosis of breast lesions. BMC Cancer. 2010;10:693.
→PubMed

7) Kuroki—Suzuki S, Kuroki Y, Nasu K, Nawano S, Moriyama N, Okazaki M. Detecting breast cancer with non—contrast MR imaging:combining diffusion—weighted and STIR imaging. Magn Reson Med Sci. 2007;6(1):21—7.
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8) Yabuuchi H, Matsuo Y, Sunami S, Kamitani T, Kawanami S, Setoguchi T, et al. Detection of non—palpable breast cancer in asymptomatic women by using unenhanced diffusion—weighted and T2—weighted MR imaging:comparison with mammography and dynamic contrast—enhanced MR imaging. Eur Radiol. 2011;21(1):11—7.
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9) Partridge SC, Demartini WB, Kurland BF, Eby PR, White SW, Lehman CD. Differential diagnosis of mammographically and clinically occult breast lesions on diffusion—weighted MRI. J Magn Reson Imaging. 2010;31(3):562—70.
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