日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

超音波検査におけるエラストグラフィは腫瘤の良悪性の鑑別に勧められるか (検診.画像診断・画像診断―超音波・ID51740)

CQ5 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(194-196ページ)
推奨グレード C1 超音波検査におけるエラストグラフィは腫瘤の良悪性の鑑別に,いまだ十分な科学的根拠はないが,細心の注意のもと行うことを考慮してもよい。

背景・目的

 最近の超音波診断装置の新技術において,tissue elasticity imaging(エラストグラフィ,ひずみ像)は最も特筆するものであり,臨床的有用性が報告されている1)(本文中ではこの技術を総称して「エラストグラフィ」と称する)。また,マンモグラフィ検診の普及とともに,微小病変の段階で検出され乳癌が疑われる腫瘤性病変が増えている。その多くは良性病変であるが,通常のBモード超音波検査で鑑別できない病変では,次の検査として細胞診,針生検,吸引式組織生検(VAB),切開生検などが選択される。今回,エラストグラフィをBモード超音波検査に併用することで,良悪性鑑別精度が向上し,不要な生検例が減り得るかどうか検討した。

解 説

 癌組織では血管と細胞の密度が増加するにつれてその硬さが増し,この硬化は早期の癌であってもすでに始まっているといわれる。乳癌においてこの硬さの情報はUenoらにより初めて言及され,dynamic testとして報告された2)。この硬さの情報を診断に用いようという考えはさらに発展し,超音波を用いて組織の弾性(硬さ)を検出し非侵襲的・客観的に評価するための新しい画像診断の手法として,1991年にテキサス大学のOphir教授らによりエラストグラフィ(elastography)という名称で発表された3)。このエラストグラフィは探触子を押し当てることにより圧迫された組織の変位の様子,すなわちひずみの分布を画像化することでその硬さを診断情報として病変部位を評価しようとする手法である。また,組織の硬さと病理診断自体に関しても1998年にKrouskopらにより硬さ測定器を用い,病理標本の硬さを実際に測定した研究が報告されている4)

 1996年には,より高速に精度良く組織の変位を検出するcombined autocorrelation methodが発表された5)。しかしながら,当時の信号処理技術においてはリアルタイムで画像を提供するには装置の演算能力が不十分であった。この問題に対してさらなるアルゴリズムの改良と十分な演算量を有する装置の開発が行われ,椎名らと日立メディコの共同研究の成果として2004年に組織弾性イメージング手法が商用化,「Real—time Tissue ElastographyTM」と命名され,やがて通常のルーチン検査の一環として違和感なく適用され得る構成となり,超音波による「エラストグラフィ」が世界に広まる先駆けとなった。現在各社メーカーより得られるエラストグラフィは原理と方向性がさまざまに異なり,得られる画質も厳密には異なるが,いずれも超音波で硬さを推計するという質的診断能力を,形態的診断である超音波領域に持ち込んだ概念は共通である。

 現時点まで臨床利用が広がるきっかけとなったのはItohら6)の提唱したelasticity score(Tsukuba scoreともいわれる)の導入であり,これは腫瘍低エコー領域と歪の低下部位とを比較して5段階のスコア分類を提唱したものである。その報告では乳腺腫瘤の良悪性鑑別における感度 86.5%,特異度 89.8%,正診率 88.3%とされている。Choら7)はUenoらが提唱したFLR(fat to lesion strain ratio)をstrain indexとして前向き試験による有用性を報告している。strain index cut off>2.24で,その場合の感度,特異度,PPV,NPVは95%,75%,48%,98%と報告されている。また,Changら8)はItohらのelasticity scoreの精度に影響する因子について前向き試験にて分析し,病変存在部の乳房が薄いことが最もエラストグラフィ画質に影響する因子であると報告している。異なるシステムの報告では,Razaら9)は,Itohらのelasticity scoreを使った前向き臨床試験を実施し,感度:92.7%,特異度:85.8%と報告している。また,Leongら10)の前向き試験では,Bモード+エラストグラフィ群では感度,特異度,正診率は88.5%,78.6%,80.9%であり,エラストグラフィを併用したほうがBモード単独群より有意に特異度,正診率が良好であった(p<0.0001)と報告している。

 エラストグラフィは近年急速に広がってきた新たな手法だが,最近の前向き臨床試験報告の多くが,elasticity scoreもelasticity indexも有用で,検診で精査を推奨された女性に対して,エラストグラフィを加えることにより特異度が改善すると報告しており,臨床上有用な手法の一つとなりつつある。しかし一方で,施行者依存性の問題も指摘されており11,施行者依存性がどの程度あるかの検証,機種(解析プログラム)依存性がないかどうかの検証など,解決すべき検討事項が存在している。

 さらに近年では,物理的な力(音波照射力や音響放射圧と呼ばれる)を利用したエラストグラフィや,音響放射圧を利用して組織内に横波(剪断弾性波;shear wave)を発生させてその波の伝搬速度を測定する手法が開発されている12)。前者は音波放射力積(acoustic radiation force impulse;ARFI)を用いて組織の歪みを生じさせることから,ARFI imagingやARFI elastographyと呼ばれる13)14)。後者には,一点でshear waveの伝搬速度を測定する手法15)と,複数での測定をカラーマップとして表示する手法16)17)がある。shear waveの伝搬速度は,物体の硬さを表すヤング率Eと正の相関を示し,硬い物質では伝搬速度が速く,遅いほど軟らかい。組織の硬さを定量化できることに最大の特長がある。これらの技術は施行者依存性が少ないと期待されており,現在,臨床的な有用性の検討がなされている。今後は,用手的にひずみ解析をおこなうエラストグラフィ,音響放射圧を利用したARFI imaging,そしてshear wave velocityを用いた硬度解析を,それぞれ分けて,あるいは組み合わせた場合の有用性の検証を行う必要がある。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,ultrasound,elastography,elasticity imagingのキーワードを用いて検索した。検索期間は1990~2014年とした。

参考文献

1) 日本乳腺甲状腺超音波医学会編集.乳房超音波診断ガイドライン.改訂第3版,東京,南江堂,2014.
→PubMed

2) Ueno E, Tohno E, Soeda S, Asaoka Y, Itoh K, Bamber JC, et al. Dynamic tests in real-time breast echography. Ultrasound Med Biol. 1988;14 Suppl 1:53—7.
→PubMed

3) Ophir J, Céspedes I, Ponnekanti H, Yazdi Y, Li X. Elastography:a quantitative method for imaging the elasticity of biological tissues. Ultrason Imaging. 1991;13(2):111-34.
→PubMed

4) Krouskop TA, Wheeler TM, Kallel F, Garra BS, Hall T. Elastic moduli of breast and prostate tissues under compression. Ultrason Imaging. 1998;20(4):260-74.
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5) Shiina T, Doyley MM, Bamber JC. Strain imaging using combined RF and envelope autocorrelation processing. 1996 IEEE Ultrasonics Symposium 1996;2:1331-6.
→PubMed

6) Itoh A, Ueno E, Tohno E, Kamma H, Takahashi H, Shiina T, et al. Breast disease:clinical application of US elastography for diagnosis. Radiology. 2006;239(2):341-50.
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7) Cho N, Moon WK, Kim HY, Chang JM, Park SH, Lyou CY. Sonoelastographic strain index for differentiation of benign and malignant nonpalpable breast masses. J Ultrasound Med. 2010;29(1):1-7.
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8) Chang JM, Moon WK, Cho N, Kim SJ. Breast mass evaluation:factors influencing the quality of US elastography. Radiology. 2011;259(1):59-64.
→PubMed

9) Raza S, Odulate A, Ong EM, Chikarmane S, Harston CW. Using real-time tissue elastography for breast lesion evaluation:our initial experience. J Ultrasound Med. 2010;29(4):551-63.
→PubMed

10) Leong LC, Sim LS, Lee YS, Ng FC, Wan CM, Fook-Chong SM, et al. A prospective study to compare the diagnostic performance of breast elastography versus conventional breast ultrasound. Clin Radiol. 2010;65(11):887-94.
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11) Yoon JH, Kim MH, Kim EK, Moon HJ, Kwak JY, Kim MJ. Interobserver variability of ultrasound elastography:how it affects the diagnosis of breast lesions. AJR Am J Roentgenol. 2011;196(3):730-6.
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12) Nakashima K, Shiina T, Sakurai M, Enokido K, Endo T, Tsunoda H, et al. JSUM ultrasound elastography practice guideline:breast. J Med Ultrasonics. 2013;40:359-91.

13) Meng W, Zhang G, Wu C, Wu G, Song Y, Lu Z. Preliminary results of acoustic radiation force impulse(ARFI)ultrasound imaging of breast lesions. Ultrasound Med Biol. 2011;37(9):1436-43.
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14) Tozaki M, Isobe S, Sakamoto M. Combination of elastography and tissue quantification using the acoustic radiation force impulse(ARFI)technology for differential diagnosis of breast masses. Jpn J Radiol. 2012;30(8):659-70.
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15) Tozaki M, Isobe S, Fukuma E. Preliminary study of ultrasonographic tissue quantification of the breast using the acoustic radiation force impulse(ARFI)technology. Eur J Radiol. 2011;80(2):e182-7.
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16) Berg WA, Cosgrove DO, Doré CJ, Schäfer FK, Svensson WE, Hooley RJ, et al;BE1 Investigators. Shear-wave elastography improves the specificity of breast US:the BE1 multinational study of 939 masses. Radiology. 2012;262(2):435-49.
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17) Tozaki M, Saito M, Benson J, Fan L, Isobe S. Shear wave velocity measurements for differential diagnosis of solid breast masses:a comparison between virtual touch quantification and virtual touch IQ. Ultrasound Med Biol. 2013;39(12):2233-45.
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