日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

遠隔再発時の生検は勧められるか (検診・画像診断・画像診断―遠隔転移・ID51820)

CQ13 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(217-220ページ)
推奨グレード A 遠隔再発巣と思われる病変が乳癌由来と断定できない場合は生検が勧められる。
B 遠隔再発巣であることが断定的であると思われる病変であっても,原発巣のER,PgR,HER2が不明,あるいは検査の信頼性が低い場合や,治療方針が変わる可能性がある場合は,再発巣の生検を行うことが勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 遠隔再発に対する生検の目的は,再発の確定診断と,ホルモン受容体(ER,PgR),HER2の再評価がある。初回手術時のER,PgR,HER2の状況が不明である,信頼性が低いなどの場合や,結果によって治療方針が変わる可能性がある場合には,可能であれば遠隔再発巣の生検を考慮すべきである。生検に際しては利益と不利益を十分考慮し,患者の苦痛や合併症を最小限にする必要がある。関連各科と連携を取り,自施設での生検に支障がある場合は躊躇せず他施設に生検を依頼すべきである。

背景・目的

 乳癌における遠隔再発の好発部位は骨,肺,胸膜,肝,脳などである。一度遠隔再発をきたすと完治は困難で,現在のところ薬物療法の目的は延命と症状緩和にある。画像所見や臨床経過で乳癌の遠隔転移が確実であれば,再発巣の生検は必ずしも行わず初回治療時のER,PgR,HER2の発現状況が再発巣と同じであると仮定し薬物療法を選択(乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版,薬物療法CQ 17~21参照)している。しかし,免疫組織化学的方法(IHC法)の結果が原発巣と転移巣で異なり治療方針に影響を与えることが報告され,再発巣の生検についての前向き試験も行われている。NCCNガイドライン(ver1. 2015)1)やESO,ESMOによるABCガイドライン2)では,「初回再発では生検を行う」と記載されている。遠隔再発に対する生検の臨床的な目的は,再発の確定診断と,ER,PgR,HER2の再評価がある。遠隔再発時に組織を確認することが勧められるかについて,文献を踏まえて解説する。

解 説

(1)原発巣と再発巣におけるER,PgR,HER2が不一致になる原因とその臨床的意義

 原発巣と転移巣のER,PgR,HER2が異なる原因として,腫瘍側と測定側の2つの因子が考えられている。腫瘍側の因子としては,癌の生物学的特性が転移巣で変化している場合,癌の不均質性,治療による修飾などが挙げられる。測定側の因子としては,小さな検体が組織全体を反映していない,固定条件の不良,免疫組織化学的方法の不安定性,病理医の判定の差などが挙げられている。初発乳癌に対する針生検と手術標本の一致率をみると(病理診断CQ 12参照),ERの一致率は90%程度であるが,HER2は特にIHC法での一致率は70%程度とさほど高くない。遠隔再発の場合,測定時期や測定施設が異なればこの差はさらに広がる可能性がある。

 NCCNガイドライン(2015年第1版)やABCガイドライン1)2)では,転移巣の検体が得られる場合は,生物学的なあるいは前治療の影響による腫瘍の性質の変化や,腫瘍の不均質性,検査の再現性を考慮して,ER,PgR,HER2の再評価を行うことを勧めている。再発巣の生検を行わないと,原発巣でホルモン受容体が陽性だが再発巣で陰性の場合(ホルモン受容体の陰転化),差し迫った生命の危機がある内臓転移がなく,内分泌療法を開始したとしても,内分泌療法に反応しない場合は化学療法に移行するため,延命効果に関して患者に与える不利益は少ない可能性が高い。また,原発巣でホルモン受容体が陰性だが再発巣で陽性の場合(ホルモン受容体の陽転化),治療当初から化学療法が施行されるため,副作用の少ない内分泌療法を受ける機会を失い,患者に不利益を与える可能性がある。また,原発巣でHER2が陽性だが再発巣で陰性の場合(HER2の陰転化),高価な分子標的治療薬が長期に化学療法薬と併用して使用されるが,有効性がない治療を受けることになる可能性がある。HER2が原発巣で陰性だが再発巣で陽性の場合(HER2の陽転化),化学療法単独の効果がある程度期待でき医療費も抑えられるが,延命効果の点では患者の不利益は大きい可能性がある。

(2)原発巣と再発巣におけるER,PgR,HER2の不一致に対する研究

 再発乳癌に対して,再発巣を生検するかしないかによって予後が変わるかをみたランダム化比較試験はなかった。

 原発巣と再発巣におけるER,PgR,HER2の解離の研究はこれまでに複数存在するが,症例数が少ない,局所再発を多く含む,多くが後ろ向き試験であるため症例の偏りがある(再発と断定はできない集団,生検がしやすい部位が多いなど),測定時期や測定施設が異なるなどの背景があり信頼性が低かった。Liedtkeら3)が,単一施設で原発巣と再発巣の組織が評価できた789例を後ろ向きに検討したところ,原発巣と転移巣の不一致率は,ERが18.4%,PgRが40.3%,HER2は13.6%であった。HER2のFISH法における一致率は良好であったことから,IHC法の標準化の必要性があるとしており,原発巣と再発巣の不一致例は,ER,PgR,HER2がすべて陰性例と同様に予後不良であり,おそらく適切な治療を受けていないためであろうとしていた。

 Simmonsら4)は,単一施設で原発巣と遠隔再発巣におけるホルモン受容体とHER2の一致状況を検討する前向き試験を行った。評価可能であった再発巣25例中10例でホルモン受容体が陰転化し,2例でHER2が陽転化していた。Thompsonら5)は,原発巣と再発巣を多施設で前向きに検討し,治療方針の変更が必要な比率を算出した。解析できた137例(うち62%は局所再発)では,ERの陰転化8%,陽転化2%,PgRの陰転化16%,陽転化9%,HER2の陰転化1%,陽転化2%が認められ,生検をすることによって24例(18%)が以後の治療方針が変更されたとしている。この研究で登録された205例のうち,18例(9%)は再発部位として切除された組織に悪性像がなかった。Amir6)らの121例の前向き試験では,生検によって4例に良性病変や他癌が認められ,標本の免疫染色が可能だった94例中,生検をすることによって2例の患者で内分泌療法が,6例の患者でトラスツズマブが開始された。

 以上の前向き研究では,不一致例は陽性と陰性のボーダーライン付近の症例が多く,特にPgRで不一致率が高いことも指摘されている。Nishimuraら7)は,PgRの陰転化は再発後の予後不良因子であったと報告している。

 針生検ではHER2が偽陽性になりやすいことも指摘されている。Houssamiら8)の原発巣と転移巣のHER2の不一致に関する2,520例のメタアナリシスでは,不一致率は5.2%であった。IHC法の精度が十分管理されている場合,不一致が単に予後予測因子なのか適切な治療によって予後が改善するかは現在のところ不明である。

 原発巣において精度の信頼性に疑問がある症例や,陽性と陰性の境界付近の値の症例などでは,再発時点で原発巣の再評価ないしは転移巣の生検を考慮してもよいと思われる。その際,原発巣と転移巣の検体を同時に染色するなど測定側の因子を統一して行うことが望ましい。生検に当たっては,条件の整った施設で行われることが前提であり,生検に伴う不利益が上回ると考えられる場合は行うべきではない。

(3)遠隔再発の診断

 遠隔再発ではない他疾患を乳癌の再発として治療することは,その病変が良性であっても悪性であっても患者の不利益は大きい。特にそれが生命を脅かす疾患であった場合は適切な治療の開始が遅れることになり,患者の予後を左右する重大な問題となる。

 初回治療時の臨床病理学的因子で再発のリスクが高く,多発性,多臓器性,他に原発巣を同定できないなどの条件がそろえば,乳癌の再発と診断しても問題はないと思われるが,特に単発性の病変の場合は慎重に診断を進めるべきである。日本において,乳癌術後患者における鑑別診断が困難な単発性肺腫瘤に対して組織診を行った研究9)では,23例中原発性肺癌が7例,乳癌肺転移が16例であった。肺癌群は平均年齢が67.4歳と乳癌肺転移群より10歳高齢で予後も良好であった。遠隔再発の診断においては,鑑別疾患に挙がる病変の好発年齢を考慮することも大事である。

 また,再発時期と原発巣のER,PgR,HER2の関係についての論文をみると,ホルモン受容体陰性乳癌では,再発のピークが初回治療から2年付近にあるのに対して,ホルモン受容体陽性乳癌は,再発は10年以降も毎年同じ割合であるという報告が多い。Blowsらの10,159例に対する15年間の研究10)でも,ER and/or PgR陽性・HER2陰性群の死亡率は術後のどの時期においても一定であったのに対して,その他の群は術後5年を過ぎると死亡率が低下している。ER,PgR,HER2の状況による再発時期の違いも遠隔再発と診断する因子の一つとして考慮すべきであろう。

 以上より,乳癌の遠隔再発と断定できない場合は病変の生検を考慮すべきであると考えられた。遠隔再発と断定でき原発巣のIHC法が信頼できる場合には,生検を行わず治療を進めてもよいが,初回手術時のER,PgR,HER2の状況が不明である,信頼性が低いなどの場合や,生検結果によって治療方針が変わる可能性がある場合には,可能であれば遠隔再発巣の生検を考慮すべきである。

 生検に際しては利益と不利益を十分考慮し,患者の苦痛や合併症を最小限にする必要がある。患者に十分な病状説明を行い関連各科と連携を取り生検を行うが,自施設での生検に支障がある場合は躊躇せず他施設に生検を依頼すべきである。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,breast,primary,recurrence,metastasis,therapy,biopsy,receptorのキーワードを用いて検索した。検索期間は2010~2012年とした。

参考文献

1) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer. ver1. 2015.

2) Cardoso F, Costa A, Norton L, Senkus E, Aapro M, André F, et al. ESO-ESMO 2nd international consensus guidelines for advanced breast cancer(ABC2)†. Ann Oncol. 2014;25(10):1871—88.
→PubMed

3) Liedtke C, Broglio K, Moulder S, Hsu L, Kau SW, Symmans WF, et al. Prognostic impact of discordance between triple-receptor measurements in primary and recurrent breast cancer. Ann Oncol. 2009;20(12):1953-8.
→PubMed

4) Simmons C, Miller N, Geddie W, Gianfelice D, Oldfield M, Dranitsaris G, et al. Does confirmatory tumor biopsy alter the management of breast cancer patients with distant metastases? Ann Oncol. 2009;20(9):1499-504.
→PubMed

5) Thompson AM, Jordan LB, Quinlan P, Anderson E, Skene A, Dewar JA, et al;Breast Recurrence in Tissues Study Group. Prospective comparison of switches in biomarker status between primary and recurrent breast cancer:the Breast Recurrence In Tissues Study(BRITS). Breast Cancer Res. 2010;12(6):R92.
→PubMed

6) Amir E, Miller N, Geddie W, Freedman O, Kassam F, Simmons C, et al. Prospective study evaluating the impact of tissue confirmation of metastatic disease in patients with breast cancer. J Clin Oncol. 2012;30(6):587-92.
→PubMed

7) Nishimura R, Osako T, Okumura Y, Tashima R, Toyozumi Y, Arima N. Changes in the ER, PgR, HER2, p53 and Ki-67 biological markers between primary and recurrent breast cancer:discordance rates and prognosis. World J Surg Oncol. 2011;9:131.
→PubMed

8) Houssami N, Macaskill P, Balleine RL, Bilous M, Pegram MD. HER2 discordance between primary breast cancer and its paired metastasis:tumor biology or test artefact? Insights through meta-analysis. Breast Cancer Res Treat. 2011;129(3):659-74.
→PubMed

9) 藤田崇史,岩田広治,谷田部 恭.乳癌術後患者における孤立性肺腫瘤に対する鑑別診断.乳癌の臨床.2009;24(5):571-8.

10) Blows FM, Driver KE, Schmidt MK, Broeks A, van Leeuwen FE, Wesseling J, et al. Subtyping of breast cancer by immunohistochemistry to investigate a relationship between subtype and short and long term survival:a collaborative analysis of data for 10,159 cases from 12 studies. PLoS Med. 2010;7(5):e1000279.
→PubMed

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