日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

総論1:細胞診・針生検 (病理診断・総論・ID61830)

乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(222-224ページ)

 乳房の病変に対する病理学的診断方法は,細胞診と組織診とに分類される。細胞診には,穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology;FNA),捺印細胞診,乳頭異常分泌物の剝離細胞診がある。病理診断を確定するための組織診は生検と呼ばれ,生検は外科的生検と針生検(広義,needle biopsy)に分類される。さらに,広義の針生検は,バネ式で行われる狭義の針生検(core needle biopsy;CNB)と吸引式乳房組織生検(vacuum—assisted breast biopsy;VAB)に分けられる。

 細胞診や広義の針生検の診断は,外科的生検あるいは治療のための切除標本の最終診断と比較され,その精度が評価される。FNA,CNB,VABの診断精度は一般に高く,さらに,それらは外科的生検に比較して簡便で侵襲が少ない。このため,FNA,CNB,VABは,乳房の病変に対する病理学的診断方法として推奨される病理診断CQ123参照)。

 一方で,FNA,CNB,VABの診断と最終診断とが一致しない症例も少なからず存在する。診断不一致は,FNA,CNB,VABで良性,最終診断で悪性の過小診断とFNA,CNB,VABで悪性,最終診断で良性の過大診断に分けられる。診断不一致の原因としては,① 臨床医によるサンプリングエラー,② 病理医による病変の見落とし,③ 圧挫などのアーチファクトで詳細な観察が困難,④ 細胞や少量の組織のみでは診断困難な病変の存在などが挙げられる。サンプリングエラー,病変の見落とし,アーチファクトはいずれも過小診断の原因である。診断困難病変は,過小診断,過大診断両方の原因となり得る。細胞や少量の組織のみでは診断困難な病変の最終診断は,良性であれば,乳管内乳頭腫(intraductal papilloma),乳腺症(mastopathy),放射状硬化性病変(radial sclerosing lesion,同義語;放射状瘢痕,radial scar),悪性であれば低異型度の非浸潤性乳管癌(DCIS),古典型の非浸潤性小葉癌(LCIS)で,切除標本でも良悪性が確定できない場合もある。

 Flat epithelial atypia(FEA),異型乳管過形成(atypical ductal hyperplasia;ADH),異型小葉過形成(atypical lobular hyperplasia;ALH)などの用語が,診断困難な乳管・小葉内病変に対して用いられることがある。

 FEAは,さまざまに拡張した乳管・腺房を裏打ちするように軽度異型を伴う上皮細胞が1から3層に並ぶ病変である1)。内腔には分泌物や石灰化がみられることが多い。FEAは組織・細胞形態から質的に定義される病変で,量的な基準はない。切除標本を対象とした研究で,FEAは,染色体16q lossが高頻度,サイトケラチン19陽性,サイトケラチン5/6陰性,エストロゲン受容体陽性,プロゲステロン受容体陽性,bcl—2陽性,Ki67陽性細胞少数等の低異型度DCISと同様の特徴を示す2)。また,FEAは,浸潤性乳管癌やDCIS,ADHなどとしばしば併存し,その場合は,病変の広がりが一致し,構成細胞が類似している。以上のことから,切除標本で診断されたFEAは,低異型度DCISの最も早期の組織像あるいは前駆病変であると考えられている。

 ADHは,乳管・小葉内に均質な異型上皮細胞が増殖する病変であり,質的,量的に定義されている。質的には,低異型度DCISに類似した組織・細胞形態を示し,量的には,2腺管未満あるいは2 mm未満である1)3)。2012年のWHO分類には,2腺管と2 mmどちらか一方を推奨するのは難しく,多くの場合両者が組み合わされて用いられていると記載されている。すなわち,ADHは,極めて小さい低異型度DCISであり,微小な非浸潤癌に対する過剰治療を避けるために定義された。したがって,2腺管あるいは2 mmを超える診断困難な乳管内増殖性病変に対して,ADHという用語を用いるべきではない。

 ALHは,接合性の乏しい軽度異型を伴う上皮細胞が終末乳管・小葉単位を主座に増生する病変で,古典型LCISとは質的,量的に区別される。2012年のWHO分類では,ALHと古典型LCISを病変量のみで区別しており,前者は,腫瘍細胞により拡張し,ゆがんだ腺房が1小葉の50%未満のもの,後者は,腫瘍細胞により拡張し,ゆがんだ腺房が1小葉の50%以上のものと定義されている4)。一方,2014年のRosen’s Breast Pathologyには,ALHと古典型LCISは,病変の量と質,両方を考慮して区別すべきであると記載されている5)。すなわち,ALHと古典型LCISの診断基準は標準化されていない。両者を合わせた病変群に対してLobular neoplasia(LN)という用語が用いられることがある。

 FEA,ADH,ALHは,本来,十分な組織量を観察できる切除標本で定義された用語である。これらの用語を細胞診や広義の針生検の診断で用いる場合には,その用法の特異性を病理医,臨床医双方が理解しておく必要がある。すなわち,細胞診や針生検でFEA,ADH,ALHと診断された病変には,定義に準じたFEA,ADH,ALHに加えて,良性の乳腺症,悪性のDCISやLCIS,さらには,浸潤性乳癌の非浸潤癌巣が含まれる。したがって,細胞診や針生検でFEA,ADH,ALHと診断された病変の適切な取り扱いは,一律ではない。症例ごとに,切除標本あるいは経過観察後の最終診断を予測し,それに基づいて,外科的生検,再針生検,経過観察から適切な方法を選択すべきである。

 これまで述べてきたように,FEA,ADH,ALHという用語は,定義が標準化されておらず,同じ病変でも検索する検体によって診断名が変わり得る。第17版乳癌取扱い規約の乳腺腫瘍の組織学的分類では,FEA,ADH,ALHという組織型は採用されておらず,ADHに関する記載が少量みられるのみである。

 乳癌取扱い規約の細胞診および針生検の報告様式は,細胞診あるいは針生検で診断が困難な病変を,病理医が正しく抽出,報告し,臨床医がその報告に基づいて適切に対処することを目的として作成された6)。この報告様式は細胞診,針生検いずれも同様な判定区分で構成されている。判定区分では,検体をまず,検体不適正(inadequate)と検体適正(adequate)に大別し,適正と判断された検体は,正常あるいは良性(normal or benign),鑑別困難(indeterminate),悪性の疑い(suspicious for malignancy),悪性(malignant)の4つに細分類する。さらに,診断した判定区分について,それぞれの診断基準に基づいた所見と推定組織型を可能な限り記載することとされている。針生検や細胞診で診断困難な病変を適切に取り扱うために,この報告様式を活用していただきたい。

 FNA,CNB,VABの欠点として,針の進入経路に腫瘍細胞が播種する危険性が指摘されている。しかし,腫瘍播種の頻度,それが生体に及ぼす影響などについては明らかになっていない。現時点での対処方法は,悪性であった場合の切除範囲に含まれるような経路で可能な限り穿刺することである(病理診断CQ123参照)。

参考文献

1) Schnitt SJ, Lakhani SR, Ellis IO, Simpson J, van de Vijver MJ, Allred C, et al. Intraductal proliferative lesions. WHO Classification of Tumors of the Breast. Lakhani SR, et al. eds. Geneva, WHO PRESS, 2012, pp81‒94.

2) Bombonati A, Sgroi DC. The molecular pathology of breast cancer progression. J Pathol. 2011;223(2):307‒17.
→PubMed

3) Hoda SA, Brogi E, Koerner FC, Rosen PP. Ductal Hyperplasia:Usual and Atypical. Rosen’s Breast Pathology. 4th ed, Philadelphia, WOLTERS KLUWER, 2014, pp271‒308.

4) Lakhani SR, Schnitt SJ, O’Malley F, van de Vijver MJ, Simpson PT, Palacios J. Lobular neoplasia. WHO Classification of Tumours of the Breast. Lakhani SR, et al. eds. Geneva, WHO PRESS, 2012, pp77—80.

5) Hoda SA, Brogi E, Koerner FC, Rosen PP. Lobular Carcinoma In Situ and Atypical Lobular Hyperplasia. Rosen’s Breast Pathology. 4th ed, Philadelphia, WOLTERS KLUWER, 2014, pp797—854.

6) 細胞診および生検材料検討小委員会.細胞診および針生検の報告様式.臨床・病理乳癌取り扱い規約.日本乳癌学会編.第17版,東京,金原出版,2012,pp68—78.

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