日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

総論2:乳癌intrinsicsubtypeと免疫組織化学的方法を用いた代替定義について (病理診断・総論・ID61840)

乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(225-226ページ)

 乳癌診療では長い間,浸潤腫瘍径,腋窩リンパ節転移状況,組織型,病理学的悪性度,エストロゲン受容体(ER),プロゲステロン受容体(PgR),HER2状況等により,予後予測や治療方針決定がなされてきた。一方,2000年にPerouらがcDNA microarrayを用い乳癌の遺伝子発現プロファイリング(gene expression profiling;GEP)を行って以来,GEPに基づくintrinsic subtype分類が注目されている1)2)。この分類では,乳癌はluminal A,luminal B,HER2—enriched,basal—like,normal breast—like等,生物学的性状の異なるサブタイプに分けられる。サブタイプにより予後や薬物感受性が異なるため,薬物療法選択の指標となり得る点が有利である。2011年のザンクトガレンコンセンサス会議で,一般的な病理検査で得られる免疫組織化学的方法を主体としたER/PgR/HER2/Ki67情報に基づく代替的intrinsic subtype分類が採択され3),2013年の同会議でも基本的に継承されている(表1)4)。代替分類を用いれば,ER/PgR/HER2/Ki67状況,さらには治療方針までイメージできるという利便性が影響し,‘luminal A(正確にはluminal A—like)’等の代替分類名は,わが国でも日常診療においてごく普通に聞かれるようになっている。しかし本来,intrinsic subtypeはあくまでもGEPに基づく分類であり,代替分類と必ずしも一致するものではない。また,Ki67,PgR(病理診断CQ 578参照)とも代替分類に必要な項目とされてはいるが,そのカットオフ値は各施設で設定することが推奨されており,さらにKi67については,その評価法自体,世界的にも確固たる基準が定まっていない。このような現状では,臨床実地上,代替定義の適応が困難な場面も多いと思われる。代替分類名が日常診療で多用されるようになっているとはいえ,実際に行われる診療は,基本的に,ER/PgR/HER2(加えて,場合によりKi67)状況と従来の臨床病理学的情報に基づくリスクを考慮して行われるので,intrinsic subtype登場前と,本質的に大きな変化はない。また,GEPによるintrinsic subtype自体,再現性などの点から実臨床で使用できる段階にはない(乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版,薬物療法:初期治療総論参照)。これらの点から,intrinsic subtype代替定義の使用に際しては,あくまでも便宜的・概念的なものであることを念頭に置く必要があり,さらに,今後もこの代替定義が使用されていくのか,注視していく必要がある。

P226_表1

参考文献

1) Perou CM, Sørlie T, Eisen MB, van de Rijn M, Jeffrey SS, Rees CA, et al. Molecular portraits of human breast tumours. Nature. 2000;406(6797):747—52.
→PubMed

2) Sørlie T, Perou CM, Tibshirani R, Aas T, Geisler S, Johnsen H, et al. Gene expression patterns of breast carcinomas distinguish tumor subclasses with clinical implications. Proc Natl Acad Sci USA. 2001;98(19):10869—74.
→PubMed

3) Goldhirsch A, Wood WC, Coates AS, Gelber RD, Thürlimann B, Senn HJ;Panel members. Strategies for subtypes—dealing with the diversity of breast cancer:highlights of the St. Gallen International Expert Consensus on the Primary Therapy of Early Breast Cancer 2011. Ann Oncol. 2011;22(8):1736—47.
→PubMed

4) Goldhirsch A, Winer EP, Coates AS, Gelber RD, Piccart—Gebhart M, Thürlimann B, et al. Personalizing the treatment of women with early breast cancer:highlights of the St Gallen International Expert Consensus on the Primary Therapy of Early Breast Cancer 2013. Ann Oncol. 2013;24(9):2206—23.
→PubMed

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