日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

浸潤性乳癌のKi67の評価は勧められるか (病理診断・浸潤性乳癌のKi67・ID61900)

CQ5 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(242-245ページ)
推奨グレード C1 予後予測の意義から浸潤性乳癌のKi67の評価を行ってもよい。
C2 特定の治療に対する効果を予測する目的で浸潤性乳癌のKi67の評価を行うことは,基本的に勧められない。

推奨グレードを決めるにあたって

 対象や評価方法の不均一性が認められるものの,多くの研究結果からKi67と予後との相関はほぼ確実である。浸潤性乳癌の予後予測と治療方針決定を目的に,免疫組織化学的方法(IHC法)を主体としたER/PgR/HER2/Ki67情報に基づく代替的intrinsic subtype分類が広く用いられている。しかし,Ki67の評価方法は標準化されていない。また,治療効果予測因子としてのKi67の意義については,科学的根拠が十分でない。

背景・目的

 Ki67はG0期以外の細胞周期において,核に発現し,細胞増殖能を示すとされ,現在はIHC法で検索されている。2011年および2013年のザンクトガレンコンセンサス会議において,ホルモン受容体陽性乳癌の代替的intrinsic subtype分類の指標にKi67が採用され,注目されているバイオマーカーである(病理診断:総論2参照)。Ki67の臨床的意義や問題点について検討した。

解 説

(1)評価方法など

 IHC法によるKi67の検索結果は,対象検体の固定方法の影響を受けやすい。固定方法については,American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists(ASCO/CAP)のホルモン受容体やHER2検査のガイドラインに準ずるべきとされている1)病理診断:総論3参照)。一次抗体は約70%の研究でMIB—1を使用しているが,希釈率は異なっている(50~200倍が中心)。判定対象(浸潤部のみ,非浸潤部も含めた癌巣すべて)に関しては約8割,評価部位(ホットスポット,全体の平均など)については約半数の研究論文で記載がなく不明である。評価方法は,約70%で,評価細胞数に対する陽性細胞数の割合をパーセンテージで表すラベリングインデックス(labeling index;LI)が用いられている。評価細胞数は100~2,000個(もしくは規定視野内すべて)の範囲で設定されていたが,研究論文の約半数では不明であり,記載のある中では1,000個が最も頻度が高かった。

 Ki67に関するBreast Cancer Working Groupは,2011年に,一次抗体としてMIB—1,評価方法としてラベリングインデックスを用いることを推奨している。評価部位については,予後予測の目的でKi67を検索する場合には,浸潤巣の辺縁部とすべきで,明らかなホットスポットが認められる場合には,それを評価部位に含めるべきとしている。また,IHC法で癌細胞の核が染色されていれば陽性と判定され,染色強度は問わない。評価する癌細胞の数は,少なくとも500~1,000個としている1)

 Ki67 LIの高低を判断するカットオフ値については,2011年のザンクトガレンコンセンサス会議ではCheangらの研究2)に基づいて14%が提示されたが,2013年の同会議では多くのパネリストが20%以上を高値とすることに賛同している。これまでの研究のカットオフ値は1~50%の範囲に設定され,そのうち約8割は10~20%の範囲に設定されていた。しかし,予後や治療効果予測,モニタリングなど,目的により適切なカットオフ値が異なる可能性があり,現時点では設定が困難である。

 以上のように,Ki67の評価方法は標準化されておらず,研究によりさまざまで,一定していない。

(2)予後

 多くの研究でKi67と予後との間には相関があると報告されている。例示すれば,SynnestvedtらはpT1pN0で術後薬物療法を受けていない患者群(n=346)において,Ki67は独立した予後因子であると結論付けている(DFS;HR 3.7,95%CI 1.8—7.9,p=0.001)3)。また,Bjerreらは術後薬物療法として化学療法は施行せず,タモキシフェン(一部はアロマターゼ阻害薬へ変更)を投与されたER陽性・HER2陰性のハイリスク閉経期/閉経後の患者群238人の解析で,Ki67高値(14%以上)は独立した予後悪化因子であるとしている(DFS;HR 2.06,95%CI 1.28—3.32,p=0.003,OS;HR 1.74,95%CI 1.13—2.60,p=0.01)4)。Stuart—Harrisらが行ったメタアナリシスでは,多変量解析において,HRの要約推定量は出版バイアスを補正した後もOSで1.42(95%CI 1.14—1.77),DFSで1.76(95%CI 1.56—1.98)と算出された5)

(3)治療効果予測

1.術後薬物療法

 術後薬物療法の効果とKi67との関連については以下の報告がある。手術可能なリンパ節転移陽性患者が対象のランダム化比較試験であるBCIRG 001 trialを用いた解析(n=1,350)では,luminal B—like(カットオフ値13%)に分類された患者群(n=810)において,術後薬物療法としてタキサンが投与された場合にDFSが有意に改善した〔3 year—DFS;85.2%(TAC)vs 79%(FAC),HR 0.66,95%CI 0.46—0.95,p=0.025〕6)。ただし,この研究でのluminal B—likeにはHER 2陽性症例も22%含まれている。

 また,PACS 01(n=1,999)はリンパ節転移陽性乳癌に対するFEC療法6サイクル(FEC群)とFEC3サイクル後ドセタキセル3サイクル(FEC—D群)のランダム化比較試験である。ER陽性乳癌(n=798)におけるKi67の意義について後解析したところ,ドセタキセルに関連した再発のHRはKi67高値(カットオフ値20%)群で0.51(95%CI 0.26—1.01),Ki67低値群で1.03(95%CI 0.69—1.55)であった。5年DFSはKi67低値症例ではFEC群81%,FEC—D群84%であったが,Ki67高値症例ではFEC群62%,FEC—D群81%と大きな差を認め,Ki67はER陽性乳癌患者のドセタキセルに対する感受性を予測するバイオマーカーとなり得るとしている7)

 リンパ節転移陰性の乳癌患者に対する術後薬物療法として,内分泌療法単独と化学内分泌療法とのランダム化比較試験であるIBCSG Trial Ⅷ(閉経前),Ⅸ(閉経後)に参加した2,732人中1,924人を対象とした解析では,すべての治療群において高いKi67(カットオフ値19%)はDFSの悪化につながっていた(閉経前;HR 1.66,95%CI 1.20—2.29,p=0.002,閉経後;HR 1.60,95%CI 1.26—2.03,p<0.001)が,術後薬物療法として化学療法を加えるべき利点をKi67で予測することはできなかった8)

 以上より,術後薬物療法において,化学療法の上乗せ効果予測としてのKi67のエビデンスは,十分でないのが現状である。

2.術前薬物療法

 術前化学療法については,Faschingらが遠隔転移のない術前化学療法を受けた浸潤性乳癌552例について検討したところ,Ki67は独立した病理学的完全奏効(pCR)の予測因子であった(OR 3.5,95%CI 1.4—10.1,p=0.01)が,その意義は代替的intrinsic subtype分類により異なっていた。また,彼らの研究では,Ki67は独立した予後因子でもあった(OS;HR 8.1,95%CI 3.3—20.4,p<0.0001)9)。一方,von Minckwitzらは手術可能な原発性乳癌(n=250)に対してdose—denseのドキソルビシン+ドセタキセル±タモキシフェンで術前化学療法を施行した場合のpCRと臨床病理学的因子の関連を検討したが,Ki67はpCRの予測因子ではなかった10)。Jonesらは術前化学療法を受けた手術可能もしくは局所進行乳癌患者175人について,治療前のKi67は単変量解析においてpCRの予測因子であったが,多変量解析ではその意義を失ったと述べている。さらに,治療前のKi67は独立した予後因子ではなかった11)。また,術前化学療法後の残存腫瘍のKi67が予後因子であるという報告も散見される12)したがって,現時点では,Ki67の術前化学療法の効果予測因子としての意義は,研究によりさまざまで,一定の見解が得られていない。また,すべての乳癌においてpCRが予後の改善と関連するわけではないため,pCRを予測することの臨床的意義が不明であることにも注意が必要である(乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版,薬物療法:初期治療総論CQ 2参照)。

 術前ホルモン療法については,診断時,治療開始後2~4週,手術時(8週以降)のそれぞれの時点のKi67の値やその変化が予後や治療に対する反応性と関連すると考えられ,治療方針決定におけるKi67検索の有用性が検討されている1)

 以上をまとめると,研究によりKi67の評価方法,患者背景や治療内容に不均一性が認められるものの,Ki67と予後との相関については,ほぼ確実である。しかし,治療効果予測因子としてのKi67の意義については,科学的根拠が十分でない(乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版,薬物療法CQ 15参照)。したがって,浸潤性乳癌において,予後予測の意義からはKi67の評価
を行ってもよいが,特定の治療に対する効果を予測する目的でKi67を評価することは,基本的に勧められない。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,breast cancer,Ki67,MIB1のキーワードを用いて検索した。一部,ハンドサーチも併用した。検索期間は2000年から2014年9月までとした。

参考文献

1) Dowsett M, Nielsen TO, A’Hern R, Bartlett J, Coombes RC, Cuzick J, et al;International Ki—67 in Breast Cancer Working Group. Assessment of Ki67 in breast cancer:recommendations from the International Ki67 in Breast Cancer working group. J Natl Cancer Inst. 2011;103(22):1656—64.
→PubMed

2) Cheang MC, Chia SK, Voduc D, Gao D, Leung S, Snider J, et al. Ki67 index, HER2 status, and prognosis of patients with luminal B breast cancer. J Natl Cancer Inst. 2009;101(10):736—50.
→PubMed

3) Synnestvedt M, Borgen E, Russnes HG, Kumar NT, Schlichting E, Giercksky KE, et al. Combined analysis of vascular invasion, grade, HER2 and Ki67 expression identifies early breast cancer patients with questionable benefit of systemic adjuvant therapy. Acta Oncol. 2013;52(1):91—101.
→PubMed

4) Bjerre C, Knoop A, Bjerre K, Larsen MS, Henriksen KL, Lyng MB, et al. Association of tissue inhibitor of metalloproteinases—1 and Ki67 in estrogen receptor positive breast cancer. Acta Oncol. 2013;52(1):82—90.
→PubMed

5) Stuart—Harris R, Caldas C, Pinder SE, Pharoah P. Proliferation markers and survival in early breast cancer:a systematic review and meta—analysis of 85 studies in 32,825 patients. Breast. 2008;17(4):323—34.
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10) von Minckwitz G, Sinn HP, Raab G, Loibl S, Blohmer JU, Eidtmann H, et al;German Breast Group. Clinical response after two cycles compared to HER2, Ki—67, p53, and bcl—2 in independently predicting a pathological complete response after preoperative chemotherapy in patients with operable carcinoma of the breast. Breast Cancer Res. 2008;10(2):R30.
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