日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

術前化学療法後、病理組織学的に治療効果を判定することは勧められるか (病理診断・術前化学療法と組織学的治療、効果判定・ID61910)

CQ6 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(246-249ページ)
推奨グレード B 術前化学療法後,病理組織学的に治療効果を判定することは,治療効果の確認と予後予測のために勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 術前化学療法の治療効果を病理組織学的に判定することは,効果の確認と予後予測に有用である。しかし,化学療法後の手術標本の病理検索方法や治療効果の判定基準は標準化されておらず,その相違が診断結果を左右する可能性がある。

背景・目的

 術前化学療法後の組織学的治療効果判定により,個々の症例において使用薬剤の有効性を知ることができる。この情報は,術後や再発時の薬剤選択に有用である。また,術前化学療法施行例を対象とした多くの研究で,組織学的治療効果や手術標本で病理学的に検索されたリンパ節転移状況が予後と有意に相関している。したがって,組織学的治療効果および化学療法後のリンパ節転移状況には予後因子としての意義がある(乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版,薬物療法:初期治療総論CQ 2参照)。組織学的治療効果の判定方法について検討した。

解 説

 術前化学療法の組織学的治療効果ついては,これまで多数の判定基準が報告されている。それらに共通する形式は,病理学的完全奏効と全くあるいはほとんど効果がないという2つのカテゴリーがあり,その間が亜分類されている点である1)2)。治療効果の判定対象は,浸潤巣のみ,浸潤巣と乳管内癌巣,浸潤巣と乳管内癌巣とリンパ節の3つの場合がある。例えば,National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)B—18のランダム化比較試験で用いられた判定基準では,pathologic complete response(pCR;浸潤巣が完全に消失)とpathologic no response(pNR;浸潤癌細胞に変化なし)という2つのカテゴリーがあり,その間がpathologic partial response(pPR)と定義されている。判定対象は浸潤巣である1)~3)。Chevallier法では,pCR(Class 1;浸潤巣・乳管内癌巣いずれも完全消失・リンパ節転移陰性)とpNR(Class 4;癌細胞にほとんど変化なし)という2つのカテゴリーがあり,その間が,Class 2(浸潤巣完全消失,乳管内癌巣遺残,リンパ節転移陰性)とClass 3(浸潤巣遺残)に亜分類されている。判定対象は浸潤巣,乳管内癌巣,リンパ節である1)2)4)5)。乳癌取扱い規約第17版に掲載されている組織学的治療効果の判定基準では,完全奏効(Grade 3)と無効(Grade 0)との間が,浸潤癌細胞の変化の程度と変化の面積比により,Grade 1a,1b,2a,2bの4段階に分類されている(表1)。判定対象は浸潤巣で,注釈に,乳管内癌巣やリンパ節転移巣の有無は病理報告書に記載することとある2)6)

P247_表1

 病理学的完全奏効(pCR)の定義は,ほとんどの判定方法で浸潤巣完全消失を必要条件としているが,Sataloff法では浸潤巣が遺残していても腫瘍床の5%未満で散在性であればpCRに含まれる1)2)5)。さらに,pCRの必要条件に乳管内癌巣完全消失やリンパ節転移陰性をそれぞれ,あるいは両方を加える場合がある1)2)。pCR症例は,どの定義を用いても,non—pCR症例に比較して,全生存率,無再発生存率ともに有意に良好である(乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版,薬物療法:初期治療総論CQ 2参照)。M. D. アンダーソンがんセンターで術前化学療法が施行された2,302例の後方視的な解析では,浸潤巣・乳管内癌巣いずれも完全消失・リンパ節転移陰性の症例群と乳管内癌巣のみ遺残群の予後が同等であった7)。また,治療前細胞診で腋窩リンパ節転移が確認された症例の検討で,リンパ節転移完全消失が,原発巣遺残の有無にかかわらず,有意な予後予測因子であった8)9)。これらの結果に基づいて,2012年,Breast International Group(BIG)とNorth American Breast Cancer Group(NABCG)は,共同で,pCRを浸潤巣完全消失かつリンパ節転移陰性と定義することを推奨した10)。一方,von Minckwitzらは,術前化学療法のランダム化比較試験に登録された6,377例を解析して,浸潤巣・乳管内癌巣いずれも完全消失・リンパ節転移陰性の症例群が,乳管内癌巣のみ遺残,浸潤巣完全消失・リンパ節転移陽性,微小浸潤巣遺残の各症例群に比較して有意に予後良好であったことを報告している。彼らは,予後良好群を正確に識別できるという観点から,浸潤巣,乳管内癌巣,リンパ節転移巣いずれもみられない最も厳しいpCR基準を推奨している11)。したがって,pCRの定義は国際的にも統一されていない。

 さらに,同一基準を用いても,手術標本の病理検索方法により,組織学的治療効果の判定結果が異なる可能性がある。化学療法後は原発巣が認識しづらくなるので,非癌部を検索し,誤ってpCRと診断することがないよう注意が必要である。乳房切除標本を検索する際の注意点には,① 癌の位置などの臨床情報を十分確認する,② 腫瘍床が検索範囲に含まれるように,切り出し割面を肉眼的によく観察する,③ 初回作成ブロックの顕微鏡観察で,遺残癌,癌消失部いずれもはっきりしない場合には,追加切り出し,あるいは,ブロックの深切り切片を作成するなどがある1)2)。薬物療法後の郭清リンパ節については,最大割面をHE染色で検索する方法が汎用されている。一方,リンパ節1個あたり複数の切片を作成する,上皮マーカーであるサイトケラチン染色を追加するなど,より詳細な検索方法の報告もある。Loyaらは,治療前細胞診で腋窩リンパ節転移が確認され,手術標本ではリンパ節転移陰性と診断された局所進行乳癌51例を対象に,潜在性リンパ節転移の意義を検討している12)。リンパ節すべての深切り切片とサイトケラチン染色の追加で,16%(8/51)に潜在性リンパ節転移が見つかったが,その有無と予後との関連はみられなかった。彼らは,この結果に基づいて,日常診療における術前化学療法後のリンパ節検索でサイトケラチン染色を追加する必要はないと述べている。

 化学療法後の手術標本の病理検索方法,治療効果の判定基準については,現在のところ,標準化されていない。手術標本では,治療前に腫瘍が存在した部位を確実に検索する必要がある。病理報告書には,検索部位,効果の判定基準とその結果,浸潤巣・乳管内癌巣・リンパ節転移の有無,浸潤巣の変化の程度と面積比,浸潤巣消失部を疑う所見の有無などを記載すべきである。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,breast,Breast Neoplasms,pathology,therapy,chemotherapy,Adjuvant,neoadjuvant,Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols,primary,preoperative,operable,pCR,chemosensitivity,therapeutic effect,prognosis,outcome,survival,responseのキーワードを用いて検索した。検索期間は2012年以降とした。ハンドサーチで検索された重要文献も追加した。

参考文献

1) Sahoo S, Lester SC. Pathology of breast carcinomas after neoadjuvant chemotherapy:an overview with recommendations on specimen processing and reporting. Arch Pathol Lab Med. 2009;133(4):633—42.
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2) Horii R, Akiyama F. Histological assessment of therapeutic response in breast cancer. Breast Cancer. 2013.
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3) Wolmark N, Wang J, Mamounas E, Bryant J, Fisher B. Preoperative chemotherapy in patients with operable breast cancer:nine—year results from National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B—18. J Natl Cancer Inst Monogr. 2001;(30):96—102.
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4) van der Hage JA, van de Velde CJ, Julien JP, Tubiana—Hulin M, Vandervelden C, Duchateau L. Preoperative chemotherapy in primary operable breast cancer:results from the European Organization for Research and Treatment of Cancer trial 10902. J Clin Oncol. 2001;19(22):4224—37.
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5) Penault—Llorca F, Abrial C, Raoelfils I, Cayre A, Mouret—Reynier MA, Leheurteur M, et al. Comparison of the prognostic significance of Chevallier and Sataloff’s pathologic classifications after neoadjuvant chemotherapy of operable breast cancer. Hum Pathol. 2008;39(8):1221—8.
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6) 組織学的治療効果の判定基準検討小委員会.組織学的治療効果の判定基準.臨床・病理乳癌取扱い規約.日本乳癌学会編.第17版.東京,金原出版,2012, pp84—87.

7) Penault—Llorca F, Abrial C, Raoelfils I, Cayre A, Mouret—Reynier MA, Leheurteur M, et al. Comparison of the prognostic significance of Chevallier and Sataloff’s pathologic classifications after neoadjuvant chemotherapy of operable breast cancer. Hum Pathol. 2008;39(8):1221—8.
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8) Hennessy BT, Hortobagyi GN, Rouzier R, Kuerer H, Sneige N, Buzdar AU, et al. Outcome after pathologic complete eradication of cytologically proven breast cancer axillary node metastases following primary chemotherapy. J Clin Oncol. 2005;23(36):9304—11.
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10) Fumagalli D, Bedard PL, Nahleh Z, Michiels S, Sotiriou C, Loi S, et al.;BIG—NABCG collaboration. A common language in neoadjuvant breast cancer clinical trials:proposals for standard definitions and endpoints. Lancet Oncol. 2012;13(6):e240—8.
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11) von Minckwitz G, Untch M, Blohmer JU, Costa SD, Eidtmann H, Fasching PA, et al. Definition and impact of pathologic complete response on prognosis after neoadjuvant chemotherapy in various intrinsic breast cancer subtypes. J Clin Oncol. 2012;30(15):1796—804.
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12) Loya A, Guray M, Hennessy BT, Middleton LP, Buchholz TA, Valero V, et al. Prognostic significance of occult axillary lymph node metastases after chemotherapy—induced pathologic complete response of cytologically proven axillary lymph node metastases from breast cancer. Cancer. 2009;115(8):1605—12.
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