日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

内分泌療法の適応決定にホルモン受容体の検索は勧められるか (病理診断・ホルモン受容体・ID61920)

CQ7 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(250-252ページ)
推奨グレード A 内分泌療法を行うためにすべての原発乳癌に対して,ホルモン受容体の発現状況を検索することが強く勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 乳癌に対する内分泌療法の効果はホルモン受容体の発現状況に依存しており,治療適応の決定においてホルモン受容体の検索は必須である。

背景・目的

 ホルモン受容体にはエストロゲン受容体(estrogen receptor;ER)とプロゲステロン受容体(progesterone receptor;PgR)がある。原発乳癌の約3分の2はホルモン受容体陽性乳癌であり1)日本人女性のER陽性乳癌が増加傾向にあることがわかってきた2)。PgRはエストロゲン—ER複合体によって発現が誘導されるので,PgRの有無はエストロゲンとERの機能が正常に働いているかの目安になる。現在,これらのホルモン受容体の発現は病理組織標本を用いた免疫組織化学的方法により検索されている。乳癌におけるホルモン受容体検索の意義について検討した。

解 説

 Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)の55のランダム化比較試験(37,000例)のメタアナリシスでは,ER陽性・不明群30,000例に対するタモキシフェン5年投与の再発減少率が47%,死亡減少率が26%に対し,ER陰性群ではそれぞれ6%,-3%であった1)。また,20のランダム化比較試験(10,645例)のメタアナリシスにおいては,ER陽性乳癌の術後タモキシフェン5年投与は,術後15年の解析で,再発を39%(再発率:タモキシフェン投与群33.0%,対照群46.2%,RR;0.61),乳癌死亡を29%(乳癌死亡率:タモキシフェン投与群23.9%,対照群33.1%,RR;0.71)減少させた3)。National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)B—23において腋窩リンパ節転移陰性・ER陰性乳癌の術後化学療法にタモキシフェンを追加した群と化学療法のみの群との間で,無再発生存率,全生存率に有意差はみられなかった4)。50歳以下のER陽性または不明(63%)の乳癌患者約8,000例で卵巣機能抑制療法群と無治療群を比較したメタアナリシス(観察期間の中央値8年)では,再発,乳癌死ともに,卵巣機能抑制群が対照群に比較して有意に少なく,その差は,再発で4.3%(再発率:卵巣機能抑制群47.3%,対照群51.6%),乳癌死亡で3.2%(乳癌死亡率:卵巣機能抑制群40.3%,対照群43.5%)であった5)。以上より,内分泌療法の効果はERに依存しており,ER発現量が高いほど奏効率が高く,予後良好であることが明らかになった。

 一方,20のランダム化比較試験(10,645例)のメタアナリシスでは,ER低発現(陰性を含む)・PgR陽性群,ER低発現・PgR低発現群ともに,タモキシフェン投与による有意な再発抑制効果はみられなかった。すなわち,このメタアナリシスでは,PgRのタモキシフェン効果予測因子としての意義は確認できなかった。しかし,PgRはエストロゲンによりERを介し誘導されるERの標的遺伝子の一つであり,PgRの有無はエストロゲンとERの機能が正常に働いているかの目安になるとされている。Dowsettらは,アロマターゼ阻害薬とタモキシフェンのランダム化比較試験登録症例を用いた検討で,アロマターゼ阻害薬投与群,タモキシフェン投与群いずれにおいても有意に,PgRの発現が高いほど再発が少ないことを報告している6)。また,治療方針の決定においては,いわゆる代替的intrinsic subtype分類の概念が用いられることが多いが,一般的に予後が良く,内分泌療法単独で十分効果が期待できると考えられるluminal A—likeと,予後が劣るため化学療法の適応を考慮する必要があるluminal B—like(HER2陰性)の定義にPgRの発現割合(カットオフ値20%)を含める意義がPratらにより報告され7),2013年のザンクトガレンコンセンサス会議でも提示された(病理診断:総論2参照)。

 非浸潤性乳管癌(DCIS)は,局所のみの治療で予後が極めて良好な乳癌である。DCISに対する内分泌療法は,乳房温存療法後の局所再発予防の目的で考慮されることがあり(乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版,薬物療法CQ 9参照),この場合にはDCISのホルモン受容体発現状況を検索する意義がある。

 転移・再発乳癌のうち,Stage Ⅳ症例については,原発乳癌の初回治療時と同様で,乳癌組織(原発巣,転移巣いずれか少なくとも一方)におけるホルモン受容体検索が強く勧められる。手術を行っていない進行乳癌において,ER陽性細胞が3分の2以上の症例は一次内分泌療法(アロマターゼ阻害薬)の奏効期間が有意に長いという報告がある8)再発乳癌においても乳癌組織におけるER,PgRの発現量は内分泌療法有効例で有意に高く,ホルモン受容体陽性症例は,再発後の予後が良好である9)。したがって,再発乳癌においても,乳癌のホルモン受容体発現状況を確認することが強く勧められる。原発巣でのホルモン受容体発現状況が判明している症例で,他臓器の病変が乳癌の再発ではない可能性がある場合,原発巣での検索の信頼性が低い場合などには,転移巣の生検を行うことが勧められる(画像診断CQ 13参照)。

 したがって,すべての原発乳癌において,内分泌療法の適応を決定するためにホルモン受容体の発現状況を検索することが強く勧められる。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,breast cancer,endocrine therapy,estrogen receptor,progesterone receptor,IHCのキーワードを用いて再検索した。検索期間は2012年9月~2014年9月とした。

参考文献

1) Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group. Tamoxifen for early breast cancer:an overview of the randomised trials. Lancet. 1998;351(9114):1451—67.
→PubMed

2) Yamashita H, Iwase H, Toyama T, Takahashi S, Sugiura H, Yoshimoto N, et al. Estrogen receptor—positive breast cancer in Japanese women:trends in incidence, characteristics, and prognosis. Ann Oncol. 2011;22(6):1318—25.
→PubMed

3) Davies C, Godwin J, Gray R, Clarke M, Cutter D, Darby S, et al;Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG). Relevance of breast cancer hormone receptors andother factors to the efficacy of adjuvant tamoxifen:patient—level meta—analysis of randomised trials. Lancet. 2011;378(9793):771—84.
→PubMed

4) Fisher B, Anderson S, Tan—Chiu E, Wolmark N, Wickerham DL, Fisher ER, et al. Tamoxifen and chemotherapy for axillary node—negative, estrogen receptor—negative breast cancer:findings from National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B—23. J Clin Oncol. 2001;19(4):931—42.
→PubMed

5) Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG). Effects of chemotherapy and hormonal therapy for early breast cancer on recurrence and 15—year survival:an overview of the randomised trials. Lancet. 2005;365(9472):1687—717.
→PubMed

6) Dowsett M, Allred C, Knox J, Quinn E, Salter J, Wale C, et al. Relationship between quantitative estrogen and progesterone receptor expression and human epidermal growth factor receptor 2 (HER—2) status with recurrence in the Arimidex, Tamoxifen, Alone or in Combination trial. J Clin Oncol. 2008;26(7):1059—65.
→PubMed

7) Prat A, Cheang MC, Martín M, Parker JS, Carrasco E, Caballero R, et al. Prognostic significance of progesterone receptor—positive tumor cells within immunohistochemically defined luminal A breast cancer. J Clin Oncol. 2013;31(2):203—9.
→PubMed

8) Endo Y, Toyama T, Takahashi S, Sugiura H, Yoshimoto N, Iwasa M, et al. High estrogen receptor expression and low Ki67 expression are associated with improved time to progression during first—line endocrine therapy with aromatase inhibitors in breast cancer. Int J Clin Oncol. 2011;16(5):512—8.
→PubMed

9) Yamashita H, Yando Y, Nishio M, Zhang Z, Hamaguchi M, Mita K, et al. Immunohistochemical evaluation of hormone receptor status for predicting response to endocrine therapy in metastatic breast cancer. Breast Cancer. 2006;13(1):74—83.
→PubMed

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