日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

免疫組織化学的方法によるホルモン受容体検索において、陽性癌細胞の占有率の評価は必要か (病理診断・ホルモン受容体・ID61930)

CQ8 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(253-256ページ)
推奨グレード A 免疫組織化学的方法によるホルモン受容体検索においては,陽性癌細胞の占有率も評価すべきである。

推奨グレードを決めるにあたって

 免疫組織化学的方法(IHC法)でホルモン受容体陽性癌細胞がみられない場合は,多くの研究で内分泌療法応答性がないことが確認されている。陽性判定については,これまでさまざまなカットオフ値が推奨されている。陽性癌細胞の占有率が低くても内分泌療法応答性はあると考えられているが,その効果は限定的である。現在の乳癌診療においては,陽性癌細胞占有率と他の臨床病理学的情報を勘案した対応が求められている。

背景・目的

 ホルモン受容体の検索は,現在,IHC法により行われており,IHC法の有用性は種々の臨床研究で確認されている1)~5)。ホルモン受容体の発現状況は乳癌の治療法選択に直結するが,検索法による検査結果の不一致が報告されている6)。IHC法を用いたホルモン受容体検査の適正化は,乳癌診療における重要な課題であるため,適切な検査・判定法について検討した。

解 説

(1)IHC法の有用性

 ホルモン受容体発現状況は,当初,生化学的方法で調べられ,ホルモン療法効果予測因子,予後予測因子としての有用性が数多くの基礎的・臨床的検討で証明された。その後,IHC法による検索が可能となり,染色方法や判定方法にかかわらず,生化学的方法の検査結果と有意に相関することが示された2)3)。また,IHC法で診断されたホルモン受容体発現状況は,術後内分泌療法施行例の生存率や,再発乳癌に対する内分泌療法の奏効率・再発後生存率と有意に関連することも証明された1)~5)。IHC法は,種々の材料(パラフィン包埋材料,凍結材料,針生検・穿刺吸引細胞診などの小材料,体腔液からのセルブロック等)についての検索が可能である。さらに,ホルモン結合・非結合体のいずれも検出可能で,内因性・外因性ステロイドや内分泌療法薬の影響を受けにくいなど,生化学的方法と比較して優位な点が多い。そのため,現在,IHC法を用いたホルモン受容体検査は,予後予測および治療方針決定上,日常診療で必須の項目となっている。

(2)IHC法における適切な検査法

 IHC法におけるホルモン受容体検査の適正化を目指して,多くの研究およびそれに基づく提言がなされている6)~9)。ここでは染色方法,判定方法,精度管理に分けて解説する(検体の取り扱いについては,病理診断:総論3参照)。

1.染色方法

 日本乳癌学会研究班は,体外診断用医薬品として市販されている一次抗体を使用し,製造販売元のプロトコールに従って染色することを推奨している89United Kingdom National External Quality Assessment Service(UK NEQAS)やAmerican Society of Clinical Oncdogy/College of American Pathologists(ASCO/CAP)のガイドラインには,内分泌療法の効果予測因子としての有用性が確認されている一次抗体を用いるべきだと記載されている6)7)。染色スライドには,乳癌とともに内因性コントロールである非癌の乳管・小葉上皮が含まれていることが望ましい。また,検査の際には,外因性コントロールスライドも同時に染色すべきである6)

2.判定方法

 判定の際には,まず,HE染色標本,外因性コントロール,内因性コントロールを検鏡し,技術的な問題の有無を確認する。技術的な問題が疑われる場合には,当該標本で判定せず,再染色を行う6)~9)。判定方法は,陽性細胞の占有率で判定する方法と,占有率と染色強度を組み合わせる方法に分類されるが,内分泌療法の効果予測性という点において,判定方法による明らかな差は報告されていない1)3)4)。一方,陽性細胞の占有率で判定する方法が,占有率と染色強度を組み合わせる方法よりも,染色方法間や観察者間の診断一致率が高かったとの報告もある10)。そのため日本乳癌学会研究班では,実際的で再現性のある判定方法として,陽性細胞の占有率で判定するJ—Scoreを推奨したが,染色強度を加味した判定方法との併用を妨げるものではないとしている8)9)。ASCO/CAPガイドラインでも,判定の際には陽性細胞の占有率を用いるが,陽性細胞の占有率とともに平均染色強度も報告することが推奨されている6)。UK NEQASでは,簡単で有用性が確認されている方法として,陽性細胞の占有率と染色強度を組み合わせるAllred scoreが紹介されている2)7)

 陽性細胞の占有率で判定する方法における陽性/陰性のカットオフには,any positive cell(陽性細胞が1個でもある),1%,10%などがある。10%は,すでに臨床的意義が確かめられていた生化学的方法による陰陽判定との一致性を根拠としており8)9),以前はカットオフ値として最も一般的に用いられていた。1%は,IHC法データに基づく臨床研究からAllredらが提唱したAllred score>2にほぼ相当する2)3)5)内分泌療法は予後改善に有用で重篤な副作用も稀なため,内分泌療法の適応範囲を広くする意味合いもあり,ASCO/CAPガイドラインでは1%が推奨され,現在広く用いられている。しかし施設によっては「1%」と「any positive cell」が同一視されていることも稀でなく,また両者を区別する意義を疑問視する臨床研究もある11)。さらに,体外診断用医薬品として認められている抗体でも,抗体種により陽性細胞占有率が異なることが指摘されている12)。一方,「ホルモン受容体陽性症例」の中でも,陽性細胞占有率が高い症例と低い症例では,内分泌療法奏効性が異なるとの多くの報告がある3)4)。これらを総合的に考えると,陽性細胞がなければ陰性判定(内分泌療法の適応なし)。陽性細胞が1個でも認められる場合には内分泌療法を考慮することは可能だが,占有率の低い症例(例えば10%未満)にはリスクとベネフィットのバランスに基づき内分泌療法適応の可否を決定する6),というのが現実的と考えられる。最近,ホルモン受容体陽性癌症例において,PgR陽性細胞占有率20%超か否かで予後が有意に異なることが報告され13),ザンクトガレンコンセンサス会議2013でもluminal A—like,luminal B—like(HER2陰性)の判別材料の一つとしてPgRが提示された。しかし,PgRのカットオフ値は各施設で設定することが望ましいと付記されている14)病理診断:総論2参照)。

 個別化治療が進むなか,症例個々に応じた柔軟な対応が求められる時代となっている。将来に向けたさらなる治療の適正化という観点からも,詳細な情報を残しておくことが望ましい。病理としては,一定のカットオフ値を設け陰陽判定するよりも,陽性細胞占有率(あるいは染色強度も加味したAllred score)を情報として臨床に提供し,臨床はその他の臨床病理学的情報を総合的に勘案のうえ,対応を決定するのが当面望ましいと考えられる。

3.精度管理

 治療方針決定に直結するIHC法においては精度管理が重要だが,これまでわが国には,各施設の精度を外部から管理・保証するシステムはなかった。最近,病理検査の精度管理を目的とした特定非営利活動法人日本病理精度保証機構(http://www.jpqas.jp/)が始動したところであり,今後の活動が期待される。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,breast cancer, pathology, immunohistochemistry or IHC, hormone receptor, estrogen receptor or ER, progesterone receptor or PgR, endocrine therapy or hormonal therapy, predictive factor, prognostic factor, cut offのキーワードを用いて検索した。検索期間は2012年9月~2014年9月,ハンドサーチで検索された重要文献も追加した。

参考文献

1) Barnes DM, Harris WH, Smith P, Millis RR, Rubens RD. Immunohistochemical etermination of oestrogen receptor:comparison of different methods of ssessment of staining and correlation with clinical outcome of breast cancer atients. Br J Cancer. 1996;4(9):445—51.
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2) Harvey JM, Clark GM, Osborne CK, Allred DC. Estrogen receptor status by immunohistochemistry is superior to the ligand—binding assay for predicting response to adjuvant endocrine therapy in breast cancer. J Clin Oncol. 1999;17(5):1474—81.
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