日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

HER2検査としてin situ hybridization法は勧められるか (病理診断・HER4検査・ID61960)

CQ11 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(262-265ページ)
推奨グレード A HER2検査としてin situ hybridization法は強く勧められる。特に免疫組織化学的方法で2+の場合は,in situ hybridization法による再検査が強く進められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 HER2陽性乳癌とは,HER2蛋白過剰発現ないし遺伝子増幅のある乳癌である。in situ hybridization(ISH法)は,HER2遺伝子増幅を評価する方法として最も汎用されており,保険収載されている。ISH法は,観察者間再現性が極めて高く,客観的・定量的な検査法である。

背景・目的

 HER2蛋白に対するモノクローナル抗体トラスツズマブなどの抗HER2療法の適応は,HER2蛋白過剰発現ないしHER2遺伝子増幅のある乳癌であることから,HER2の厳密な検査が求められている1)。HER2の測定法は,蛋白質の過剰発現をみる免疫組織化学的方法(IHC法)と,遺伝子増幅をみるISH法が汎用されている。HER2検査におけるISH法の位置付けについて検討し,現在の判定法を概説する。

解 説

 HER2遺伝子の増幅は乳癌症例の約20%で認められ,通常,HER2蛋白の過剰発現を伴っている2)HER2遺伝子増幅の測定法にはサザンブロットやISH法〔FISH(fluorescence in situ hybridization)法,CISH(chromogenic in situ hybridization)法,SISH(silver—enhanced in situ hybridization)法,DISH(dual color in situ hybridization)法〕,蛋白発現の測定にはIHC法,EIA法,ウエスタンブロット法などがある。最も頻用されているのがFISH法とIHC法で1),わが国では両者ともに保険収載されている。

 HER2の遺伝子増幅ないし蛋白過剰発現を有するHER2陽性乳癌は,HER2陰性乳癌に比較して予後不良である。IHC法での蛋白発現と予後は相関する傾向を認めるが,FISH法での遺伝子増幅はより有意な相関を有するとの報告がある3)。FISH法によるHER2遺伝子増幅陽性例においてトラスツズマブ単独療法の奏効率は34%であるが,増幅陰性例では奏効例がほとんどなかった4)

 FISH法は,核内のHER2遺伝子のコピー数を直接計測することが可能な検査である。判定基準に関しては,2013年に改訂されたAmerican Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists (ASCO/CAP)ガイドラインで提示されている1)。わが国では乳がんHER2検査病理部会によってHER2検査のガイドラインが示されており,上述の2013年版ASCO/CAPガイドラインに準拠した改訂が行われた。

 判定基準の詳細は2013年版ASCO/CAPガイドライン,「HER2検査ガイド 乳癌編第4版」(http://www.jbcs.gr.jp/News/20150120up/HER2_2015.pdf)に譲るが,ISH法に関する主な変更点は,① 陽性基準のHER2シグナル総数/CEP17シグナル総数比(HER2/CEP17比)が,従来の2.2倍から2倍以上に変更され,また比が2倍未満でもHER2遺伝子コピー数の平均が6以上あるものが新たに陽性と定義された,② HER2/CEP17比が2倍未満でも,HER2遺伝子コピー数の平均が4以上6未満はequivocalと定義された,である(図1)。従来,HER2/CEP17比のみがHER2遺伝子増幅の判定指標に用いられていたが,これは,CEP17が17番染色体のコピー数を正確に表していることを前提にしている。一般にCEP17コピー数3.0以上がpolysomy 17と判定され,乳癌の10~49%にみられる5)。HER2蛋白過剰発現は,HER2遺伝子コピー数の平均値と,HER2/CEP17比のどちらとも相関するとされる。しかし,polysomy 17症例に関しては,HER2遺伝子コピー数の平均値を用いた判定では「陽性」となる症例が,HER2/CEP17比を用いた判定では,分母が大きくなるため,「陰性」になる可能性がある6)。HER2/CEP17比のみがHER2判定に用いられることで,抗HER2療法が有効な患者が治療対象から外れることが危惧されており,HER2遺伝子コピー数の平均値を報告すべきとの主張もなされていた5)~7)。2013年版ASCO/CAPガイドラインでは,HER2/CEP17比とともにHER2遺伝子コピー数の平均値を加味した判定となっている。ISH法の判定がequivocalとなった場合は,同一標本を対象にIHC法で,もしくは代替えCh17プローブを用いたISH法で再検するか,別標本をISH法またはIHC法で検索し,再判定を行うことが勧められている。2013年版ASCO/CAPガイドラインでは,再検査を行っても再度判定がequivocalとなる症例もありえ,その場合は総合的に抗HER2療法の適否を判断することになる。しかしながら,その明確な判断根拠は示されていない。また,判定基準のカットオフ値が変更されているが,さまざまな基準と治療効果の関係に関する客観的根拠は示されていない。

P263_図1

 診断の再現性や普遍性に関するIHC法とFISH法との比較に関しては,IHC法でHER2陽性とされてトラスツズマブ治療に登録された乳癌症例で,18~26%が再検査により過剰発現も遺伝子増幅も認められておらず,診断の再現性や普遍性の点で問題が残る8)9)。これに対しFISH法の観察者間再現性は極めて高く10),客観的・定量的な検査法であるFISH法の優越性を説く意見は十分な根拠がある11)。したがって,IHC法を実施せずに最初からFISH法を行い,遺伝子増幅例をトラスツズマブ適応とするという選択肢も受け入れられている1)。ただし,FISH法については,IHC法よりもさらに厳密な固定条件と反応系の精度管理が必要であり,DNAを熱変性させるインキュベーターや観察に用いる蛍光顕微鏡などの備品が必要となる。手技的な問題はあるものの,医療経済学的見地からFISH法のみを用いるか,IHC法2+,3+全例につきFISH法で増幅を確認する方法が,IHC法2+のみに再検査する方法よりも対費用効果が高いと結論付けた論文もある12)

 HER2遺伝子の増幅を検出するFISH法以外の方法として,CISH法,SISH法,DISH法がある。CISH法は色素産生物質,SISH法は銀粒子によって染色体シグナルを可視化する。FISH法と異なり,光学顕微鏡下で判定し,標本の永久保存が可能である。DISH法は,腫瘍組織中のHER2遺伝子およびHER2遺伝子が局在する第17番染色体を,黒色の銀粒子(HER2遺伝子)と赤色の色素産生物質(第17番染色体)のシグナルとしてそれぞれ検出する方法である。CISH法,SISH法と同様に光学顕微鏡下で観察が可能である。CISH法とDISH法は,体外診断医薬品として承認され,保険収載されている。

 現状では,ASCO/CAPガイドラインや乳がんHER2検査病理部会の「HER2検査ガイド」に基づき,ISH法でHER2遺伝子増幅陽性の浸潤性乳癌は,抗HER2療法の適応である。また,IHC法を最初に行った場合でも,結果が2+の場合はISH法などによる再判定が必要である1病理診断CQ 10参照)。ASCO/CAPガイドラインの改訂によりIHC2+症例の増加も予想されるが,2011年の診療報酬改定により,IHC法とISH法の併算定は適正な保険診療であると認められている。

検索式・参考にした二次資料

 2013年版での検索結果に加え,PubMedにて,erbB—2,human epidermal growth factor receptor 2,HER2,In Situ Hybridization,FISH,DISH,CISH,SISHのキーワードを用いて検索した。検索期間は2012年以降とした。

参考文献

1) Wolff AC, Hammond ME, Hicks DG, Dowsett M, McShane LM, Allison KH, et al;American Society of Clinical Oncology;College of American Pathologists. Recommendations for human epidermal growth factor receptor 2 testing in breast cancer:American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists clinical practice guideline update. J Clin Oncol. 2013;31(31):3997—4013.
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2) Yaziji H, Goldstein LC, Barry TS, Werling R, Hwang H, Ellis GK,et al. HER—2 testing in breast cancer using parallel tissue—based methods. JAMA. 2004;291(16):1972—7.
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3) Pauletti G, Dandekar S, Rong H, Ramos L, Peng H, Seshadri R,et al. Assessment of methods for tissue—based detection of the HER—2/neu alteration in human breast cancer:a direct comparison of fluorescence in situ hybridization and immunohistochemistry. J Clin Oncol. 2000;18(21):3651—64.
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4) Vogel CL, Cobleigh MA, Tripathy D, Gutheil JC, Harris LN, Fehrenbacher L, et al. Efficacy and safety of trastuzumab as a single agent in first—line treatment of HER2—overexpressing metastatic breast cancer. J Clin Oncol. 2002;20(3):719—26.
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