Q2. 生活習慣および持病と乳がん発症リスクとの間に関連はありますか。

日本で乳がんの患者さんが増加している原因として,生活習慣の大きな変化が考えられています。ここでは喫煙,運動,ストレス,糖尿病およびマンモグラフィの乳腺濃度と乳がん発症リスクとの関連を取り上げます。

2-1 喫煙と乳がん発症リスクの関連について教えてください。
2-2 乳がんを予防するためには,運動を多くしたほうがよいでしょうか。
2-3 ストレスは乳がん発症リスクを高めますか。
2-4 糖尿病と乳がん発症リスクの関連について教えてください。
2-5 マンモグラフィの乳腺濃度と乳がん発症リスクの関連について教えてください。

2-1 喫煙と乳がん発症リスクの関連について教えてください。

【A】喫煙は肺がんや多くの生活習慣病の一因であり,喫煙により乳がん発症リスクが高くなることもほぼ確実です。また,受動喫煙(他人が吸った煙草(たばこ)の煙を吸うこと)も乳がん発症リスクを高くする可能性があります。健康維持の観点からも,禁煙および他人の煙草の煙をできるだけ避けることをお勧めします。

解説

煙草(たばこ)の煙には,がんの引き金になる物質や血管を収縮させる物質など数多くの化学物質が含まれていて,喫煙によって肺がんや心臓病などの生活習慣病を発症するリスクが高まることがわかっています。

がんの中では,肺がんの発症リスクを高めることがよく知られていますが,乳がんとの関連を調べた研究も世界中でたくさん行われており,最近のまとめでは喫煙により乳がん発症リスクが高くなることもほぼ確実とされています。また,2006年に厚生労働省研究班が日本人における喫煙と乳がん発症との関連について取りまとめた結果でも,喫煙は日本人女性の乳がん発症リスクを高める可能性があると結論付けられています。

一方,受動喫煙も乳がんと弱い関連があるという報告があります。したがって,他人の煙草の煙にさらされることは避けたほうがよく,喫煙者は周りの人が受動喫煙にさらされることのないように配慮することが必要です。

また,現在喫煙している人は,禁煙するとその時点から発症のリスクが下がることが知られています。なるべく早い機会に禁煙することをお勧めします。

日本人の喫煙率は,男性では年々低下しており,2011年現在20.1%となりましたが,女性はこの十数年間ほとんど変わらず9.7%の喫煙率です(厚生労働省平成23年国民健康栄養調査)。禁煙は,本人にとっても周りの人にとっても,健康維持に役立ちますので,強くお勧めします。

2-2 乳がんを予防するためには,運動を多くしたほうがよいでしょうか。

【A】閉経前の女性では,運動によって乳がん発症リスクが低下するかどうかは結論が出ていません。しかし,閉経後の女性では,定期的に運動を行うことによって乳がん発症リスクが低くなることはほぼ確実です。日頃から軽い運動をする習慣をつけましょう。

解説

運動は,体内の性ホルモンやエネルギーバランスに影響を与えることが知られています。女性ホルモンは乳がん発症リスクと密接な関係があると考えられているので,日常生活における運動量と乳がん発症リスクとの関連について以前から興味がもたれ,数多くの研究が行われてきました。

これまでの報告をまとめてみると,定期的な運動を行っている閉経後の女性では,運動量の少ない女性と比べて,乳がん発症リスクが低くなることはほぼ確実とされています。一方,閉経前の女性では,運動をすることで乳がん発症リスクが低くなるかどうかは結論が出ていません。

代表的な研究では,余暇の過ごし方や仕事での運動量によって,女性を4つのグループに分けて,それぞれのグループでの乳がんの発症率を調べています。余暇の過ごし方では,①主に読書やテレビをみるなど座っていることが多い人,②週のうち4時間は散歩やサイクリングを行う人(軽度の運動),③週のうち4時間は健康維持を目的とした運動を行う人(中等度の運動),④週のうち数回は精力的にスポーツ競技を行う人,に分けて調べられました。その結果,余暇の運動量の増加に応じて乳がん発症率の低下が認められ,定期的に運動を行うグループは,ほとんど運動を行わないグループに比べて,乳がんの発症率は約3分の2に低下することがわかりました。また,仕事の内容でも同様の結果が得られ,運動量が多い職務内容,肉体労働を行う人は,事務職などの運動量が少ない人に比べて乳がん発症率が低いことがわかりました。

その一方で,ある程度以上激しい運動をしても,乳がんの発症率の低下には限度があるという報告もあります。したがって,乳がんの予防のために激しい運動をお勧めするということではありません。定期的な軽い運動(少し汗ばむぐらいの歩行や軽いジョギングなどの有酸素運動を毎日10~20分程度)を心がけるといいでしょう。閉経前の女性でも,肥満や生活習慣病の予防にもなりますので,定期的な運動をお勧めします。

2-3 ストレスは乳がん発症リスクを高めますか。

【A】ストレスが乳がん発症リスクを高めるかどうかは結論が出ていません。また,個人の性格と乳がん発症リスクとの間には明らかな関連性はありません。

解説

現代社会において私たちはさまざまなストレスにさらされています。こうしたストレスが,乳がんを含む多くの病気の原因となっているのではないかとの声がよく聞かれます。また,一人ひとりの性格が,乳がん発症リスクと関連するかどうかについても関心が集まっています。

ストレスが乳がん発症に与える影響を研究した報告は数多くありますが,その結果は一致していません。ある研究では,仕事上のストレス,生活上のストレス,家族介護にかかわるストレスを取り上げ,これらのストレスと乳がん発症リスクとの関連をみていますが,ストレスの強さと乳がん発症リスクとの間には関連はありませんでした。しかしその一方で,ストレスを経験していた女性は経験していなかった女性に比べ,約2倍乳がん発症リスクが高くなったという報告もあります。このように,ストレスと乳がん発症リスクとの関連について一定した見解は得られていません。その理由としては,過度の心理的ストレスは健康に好ましくない影響をもたらしますが,適度な心理的ストレスは逆に人が健全に生きていくために必要なものと考えられるなど,ストレスの概念が一様ではないこと,それに対するからだの反応も一定でないことが挙げられています。

性格と乳がん発症リスクとの関連も以前から関心をもたれていますが,現在までの研究結果では,性格と乳がん発症リスクとの間に関連はないと結論付けられていて,「乳がんになりやすい性格」というものはありません。

このように,ストレスなどの心理社会的要因と乳がん発症リスクについては否定的な見解が多いものの,一部にはその関連を示唆するものもあること,またその関心も高いことから,さらに検討を重ねていく必要があります。

2-4 糖尿病と乳がん発症リスクの関連について教えてください。

【A】糖尿病がある人は糖尿病がない人と比較して乳がん発症リスクが高いことはほぼ確実です糖尿病のある方は定期的な乳がん検診を受けましょう。

解説

糖尿病では高インスリン血症,高血糖によってがんの発症リスクが高くなる可能性が以前から指摘されており,乳がんの発症リスクとの関連も注目されています。糖尿病と乳がん発症リスクの関連については非常に多くの研究報告がされていて,糖尿病がある人は糖尿病がない人と比較しておおよそ1.2~1.3倍の発症率であるとされています。糖尿病がある人の乳がん発症リスクが高いことはほぼ確実です。糖尿病と診断されている方または治療中の方は,定期的な乳がん検診を受けるようにしましょう。

2-5 マンモグラフィの乳腺濃度と乳がん発症リスクの関連について教えてください。

【A】マンモグラフィで乳腺濃度が高い人は低い人と比較して乳がん発症リスクが高いことは確実です。

解説

乳腺は周辺の脂肪組織に比較してX線の透過率(通過する割合)が低いのでマンモグラフィでは白く写り,逆に脂肪の部分は黒く写ります。そして乳房全体に占める乳腺の割合(つまり白く写っているところの割合)のことを“乳腺濃度”といいます。乳腺濃度が高いということは乳腺の密度が濃いことを表します。乳腺濃度が高いことを“デンスブレスト”といいます。一方で高齢になるほど乳腺は萎縮しますので乳腺濃度は低くなり,また,太っている場合も脂肪組織の割合が増えますので乳腺濃度は低くなります。

この乳腺濃度は客観的評価や数値化が可能ですので,古くから乳がん発症リスクとの関連が非常に多く研究されています。ほとんどすべての研究で乳腺濃度が高ければ高いほど乳がん発症リスクが高いと結論付けられています。したがって,乳腺濃度が高い人は低い人に比較して乳がん発症リスクが高いことは確実です。

マンモグラフィでも一般的に乳がんは白く写るため,乳腺濃度が高い人は乳がんをみつけにくいことがあります。このような人には超音波検査が役に立つことがあります(☞Q6参照)。

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