Q1. 食生活と乳がん発症リスクとの間に関連はありますか。

近年,日本で乳がんの患者さんが増加しているのは,食生活の変化が大きな原因の一つではないかと考えられています。食生活と乳がん発症リスクとの関連を明らかにするためには,大勢の女性を対象に一人ひとりが取った食べ物の種類や量を調査し,長期間の追跡調査で乳がんの発症の有無を調べ,それらの間にどのような関連があるのかを検討しなければなりません。こうした研究をまとめて,2007年に「世界がん研究基金(WCRF)」と「アメリカがん研究所(AICR)」が『食事,栄養と運動のがんの予防に関する報告書』(以下,WCRF/AICR報告書)を出版しました。これは世界で最も信頼性の高い報告書とされています。ここではその報告書と日本での研究結果をもとに,肥満,アルコール,大豆イソフラボン,サプリメント,乳製品と乳がん発症リスクとの関連を取り上げます。

1-1 肥満は乳がん発症リスクと関連がありますか。
1-2 アルコール飲料の摂取は乳がん発症リスクを高めますか。
1-3 大豆食品やイソフラボンを摂取することは乳がんの発症に関連がありますか。
1-4 乳がんの予防のために健康食品やサプリメントを摂取することは勧められますか。
1-5 乳製品の摂取は乳がん発症リスクを高めますか。

1-1 肥満は乳がん発症リスクと関連がありますか。

【A】肥満は乳がん発症リスクを確実に高めます。肥満はさまざまな生活習慣病の大きな原因にもなりますので,日常生活で太りすぎないように気をつけることはとても大切です。

解説

肥満は,心臓病や脳卒中,糖尿病など生活習慣病の原因の一つとされており,あらゆる死亡のリスクを高めます。欧米では多くの女性が肥満状態にあり,乳がん発症リスクと肥満との関連についても高い関心が寄せられています。

WCRF/AICR報告書では,肥満と乳がん発症リスクとの関連を,閉経の前後に分けて別々に検討しています。世界的には,閉経後の女性では肥満が乳がん発症リスクを高めることは確実です。閉経後の女性で肥満が乳がん発症リスクを高めるのは,血液中の女性ホルモンの増加が原因ではないかと考えられています。

一方,閉経前の女性では世界的には,肥満は乳がんのリスクを下げることが確実視されています。しかし,日本人を対象とした研究では,閉経前であっても肥満が乳がん発症リスクを高める可能性があることが示され,世界のデータと異なる結果となりました。いずれにしても,肥満はさまざまな生活習慣病のリスクも確実に高めますので,日常生活で太りすぎないように気をつけることはとても大切です。

ちなみに肥満の指標としてよく使われるBMI[Body Mass Index:体重(kg)÷〔身長(m)×身長(m)〕]では25未満を正常,25~30未満を過体重,30以上を肥満と定義します。

1-2 アルコール飲料の摂取は乳がん発症リスクを高めますか。

【A】アルコール飲料の摂取により,乳がん発症リスクが高くなることはほぼ確実です。飲酒は控えめにしましょう。

解説

アルコール飲料の摂取がどのようなメカニズムで乳がんの発症に影響を与えるのかはまだよくわかっていません。WCRF/AICR報告書では,閉経の前後を問わずアルコール飲料が乳がん発症リスクを高めるのは確実で,摂取量が増加するほどリスクも高くなるとしています。

日本人を対象とした研究のまとめは2007年に報告されていますが,日本人女性ではアルコール飲料が乳がん発症リスクを高めるかどうかは十分なデータがないため結論が出されていません。

1日に1杯程度のアルコール飲料の摂取〔日本酒なら1合(180mL),ビールなら中ジョッキ1杯(500mL),ワインならワイングラス2杯(200mL)など〕はリスク因子にならないとする報告もありますが,飲む量が増えるほど乳がん発症リスクが高まるのは確実です。お酒を楽しむときはほどよい量にしておきましょう。

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1-3 大豆食品やイソフラボンを摂取することは乳がんの発症に関連がありますか。

【A】大豆食品やイソフラボンの摂取で乳がん発症リスクが低くなる可能性があります。しかし,イソフラボンをサプリメントとして服用することで乳がん発症リスクが低くなることは証明されておらず,安全性も証明されていません。イソフラボンは通常の大豆食品からの摂取を心がけましょう。

解説

大豆イソフラボンについて

イソフラボンは女性ホルモンであるエストロゲンによく似た構造をしているため,「植物エストロゲン」とも呼ばれます。乳がんの多くはエストロゲンの作用で活発に増殖しますから,大豆イソフラボンを多く摂取することで乳がん発症リスクが高くなるのではないかという心配もよく聞かれます。一方で,大豆イソフラボンは乳がんの治療薬であるタモキシフェン(商品名 ノルバデックス)と同じような構造をしていることもわかっていて,乳がんを予防する効果も期待されています。

大豆食品を多く摂取することで乳がん発症リスクは低くなりますか

大豆食品をたくさん摂取することで乳がん発症リスクが低くなることが,最近の研究でわかってきました。アジア人を対象とした研究では,大豆食品を多く摂取する人はそうでない人と比較して乳がん発症リスクが少し低かったことが報告されています。日本人を対象とした研究でも,大豆食品やイソフラボンの摂取で乳がん発症リスクが減る可能性があるとされています。イソフラボンはエストロゲンと構造が似ていることから乳がん発症リスクを上げるのではないかという心配もありますが,食事により得られる程度の量であればリスクは上がらないことがわかっています。

イソフラボンのサプリメントを摂取することで乳がん発症リスクは低くなりますか

イソフラボンをサプリメントとして大量に摂取した場合については乳がん発症リスクを下げることは証明されていません。これまでの研究でイソフラボンのサプリメントの摂取により乳がん発症リスクが上がることも示されてはいませんが,その安全性も証明されていません。よって乳がん発症リスクを低下させるためにイソフラボンのサプリメントを摂取することは勧められません。イソフラボンの摂取は適量であれば乳がん発症リスクを下げる可能性がありますので,通常の大豆食品からの摂取を心がけましょう。

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1-4 乳がんの予防のために健康食品やサプリメントを摂取することは勧められますか。

【A】乳がん発症リスクを低下させるために健康食品やサプリメントを摂取することはお勧めできません。

解説

健康食品やサプリメントと薬の違いは何ですか

健康食品はあくまでも食品であり,薬ではありません。サプリメントも食品として分類されています。いくら錠剤やカプセルの形をしていても,薬ではないのです(☞「コラム」参照)。

例えばイソフラボンのように,食品の中からがんの予防に役立つ可能性があると考えられる成分を抽出して,錠剤やカプセルのような形のサプリメントとして販売しているものもあります。ただこれらは,いくら形が薬に似ていてもあくまでも食品であり,当然,乳がんの発症を予防する効果はありません。また,副作用についても十分に調べられていませんので,思いがけない健康被害が出ることもあります。

サプリメントや健康食品を摂取することで乳がん発症リスクは低くなりますか

サプリメントを摂取することが乳がんの予防につながるかという点については,WCRF/AICR報告書で「がんの予防目的にサプリメントを摂取することは勧められない」と記載されています。乳がんの発症予防に関しても,ビタミンA,ビタミンC,ビタミンB6,葉酸(ようさん),ビタミンB12,ビタミンD,ビタミンE,カルシウム,鉄,カロテン類,イソフラボンなどで有効性が検討されましたが,乳がん発症リスクが低くなる可能性はないと結論付けられています。つまり,サプリメントや健康食品を摂取することで,乳がんの発症リスクが低くなることはありません。

また,同報告書ではがん予防全般に対する栄養の摂取について,「食物を通して十分な栄養を取ること」を目標としています。現在の日本の食生活では,病気のために食事摂取が不可能な場合を除いて,食品以外から補わなければならない栄養素はほとんどありません。食品の栄養素を補うという本来のサプリメントの定義から考えてみると,普通に食事が取れている方であれば,がん予防の観点からはサプリメントを摂取することは勧められないというのが報告書の基本的な考え方です。さらに一部サプリメントでは,乳がんの発症リスクを高める可能性も指摘されています。こうした観点からも乳がんの予防を目的としてサプリメントを摂取することはお勧めできません。

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1-5 乳製品の摂取は乳がん発症リスクを高めますか。

【A】乳製品の摂取によりむしろ乳がん発症リスクは低くなる可能性があります。ただし,牛乳そのものと乳がんリスクの関係についてはよくわかっていません。

解説

過去には乳製品は乳がんの発症リスクを高めるという報告や低くするという報告などさまざまあり,この関連性を見出すことは困難でした。しかし,最近の研究報告で,乳製品全般を多く摂取している人は摂取の少ない人に比較して乳がん発症リスクが少し低くなることが示されました。牛乳に限っては明らかな傾向は認められませんでした。また,乳製品摂取に関しては,低脂肪乳を摂取している人や閉経前の人ではより乳がん発症リスクが低い傾向が認められました。一方で,脂肪を多く含む乳製品の摂取では乳がん発症リスクは高くなるとの報告もあり,どのような乳製品をどの程度摂取すれば発症リスクが低下するかということについては不明です。

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