Q6. 乳がん検診について教えてください。

【A】40歳以上の女性に対してマンモグラフィ検診を行うことにより,乳がんによる死亡の危険性が減ることが証明されています。このため,現在,40歳以上の女性に集団検診としてマンモグラフィによる乳がん検診(マンモグラフィ検診)が行われています。しかし,一部の乳がんはマンモグラフィで写し出せない場合があることも知られており,マンモグラフィ検診を受けていれば万全ということではありません。マンモグラフィ検診を受けて「異常なし」と判定されていても,自己検診などでご自分の乳房に何か気になることがあれば医療機関を受診してください。

日本人の乳がんの状況自己検診についてマンモグラフィ検診について
超音波(エコー)検診についてMRI検査による乳がん検診について
PET検査による乳がん検診について

解説

日本人の乳がんの状況

日本では乳がんが年々増加し,女性が罹患するがんの第1位になっています。現在,毎年約7万人の人が乳がんにかかっています。乳がんになりやすい年齢をみると,30歳代後半から増えてきて,40歳代後半にピークがあり,70歳を過ぎてもそれほど減りません(図1)

Q6-図1

図1 日本人女性における乳がんの年齢階級別罹患率(2011年)と死亡率(2014年)(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」)

自己検診について

乳がんは自分で発見できる数少ないがんの一つであり,自己検診が大切です。月に一度は自己検診を行ってください。自己検診で乳房の変化を感じた人は,乳がん検診を待たずに,医療機関を受診してください。なお,自己検診の方法は, 図2 を参考にしてください。自己検診だけでは乳がんの早期発見には不十分ですから,自己検診で異常がなかった人も,乳がん検診を定期的に受けましょう。また,乳がん検診で「異常なし」といわれた場合でも,自己検診は続けましょう。 図3 の検診サイクルを繰り返してください 。

マンモグラフィによる集団検診の対象とはなっていない40歳未満の人も,自己検診をしっかり行うことが大切です。

Q6-図2

図2 自己検診の方法
a:鏡に向かい,腕を上げて,乳房の変形や左右差がないかをチェックする。
b:渦(うず)を描くように手を動かして,指で乳房にしこりがないかをチェックする。
c:‌仰向けになって外側から内側へ指を滑らせ,しこりの有無をチェックする。
〔実施時期〕
閉経前の人は,月経終了後1週間くらいの間に行う(排卵から月経終了までは乳房が張るため)。
閉経後の人は毎月,日にちを決めて行うとよい。

Q6-図3

図3 乳がんから自分を守るための検診サイクル(→)

マンモグラフィ検診について
(1)マンモグラフィ検診の対象者

日本では1987年から問診・視触診による乳がん検診が開始されました。しかし,乳がんの死亡者数を減らすという効果は得られませんでした。これに対してマンモグラフィ検診は,しこりとして触れる前の早期乳がんを発見できる可能性があり,欧米では乳がんによる死亡者数を20~30%減少させたと報告されています。現在,マンモグラフィ検診の対象は40歳以上で,40歳未満に対する効果に関しては報告がありません。30歳代後半から乳がんは増加しますが,それでも40歳未満は乳がんになる人が少ないため検診の効率が悪いということと,40歳未満では乳腺が発達しているため,マンモグラフィでは乳腺の異常がわかりにくいということがその理由です(☞「超音波(エコー)検診について」参照)。

(2)マンモグラフィ検診の利益と不利益

日本では40歳以上の女性に対してマンモグラフィを含む2年に1回の検診が推奨されています。定期検診を受けることで自覚症状がまったくないときでも,疑わしいものがあればチェックできるので有益です。一方で最近欧米ではマンモグラフィ検診の効果の見直しが行われ,マンモグラフィ検診による不利益があることもわかってきました。その不利益とはマンモグラフィ検診の偽陽性(マンモグラフィ検診では「がん疑い」とされたものの精密検査で「がんではない」と診断されること)や過剰診断(生命予後に関係のない乳がんの発見・治療)です。日本の厚生労働省研究班による「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版」では40歳代,50歳以上のマンモグラフィ検診は「科学的根拠があり,実践するように推奨する」とされていますが,2015年度版では50歳以上での推奨する程度を1ランク下げています。

なお,ご家族や血のつながっている方に乳がんにかかった方がたくさんいる場合など,遺伝的に乳がんにかかりやすいと考えられる方は,20~30歳頃からMRIを含めた検診を定期的に受けることが勧められます(☞Q5参照)。まずは専門医にご相談ください。

(3)マンモグラフィの撮影方法

マンモグラフィは,板と板の間に乳房を引き出して挟み,圧迫し薄く伸ばして撮影します(図4)。透明な板によって平らになっている乳房の中の情報が,後ろの板の中にあるフィルム上に記録されます。マンモグラフィは痛いので撮影したくないという声もときどき聞かれますが,上手にマンモグラフィを受けるためには,なぜ,このように撮影するかを理解されるとよいと思います。

Q6-図4

図4 マンモグラフィの撮影方法(内外斜位方向)

乳房を引き出す理由は,できるだけ多くの部分を撮影するためです。撮影する放射線技師による乳房の引き出しが不十分であったり,患者さんが怖がって腰を引いたりすると,乳房の根元の部分が板の間に入らなくなり,フィルム上に写らなくなります。すると,その部分に万一がんがあっても,「異常なし」という結果になってしまいます。

乳房を圧迫する理由はいくつかあります。圧迫で乳房が薄くなると,撮影に必要な放射線が少なくて済み,また,がん以外の正常な部分が邪魔をしなくなるので診断がしやすくなります。さらに,圧迫によって乳房が動かなくなるので,ブレのない撮影ができます。ただし,圧迫することによって痛みが生じます。通常,多くの人が我慢できる程度の強さで乳房を圧迫しますが,痛みには個人差がありますので,痛みを我慢できなければ遠慮しないで担当の放射線技師に伝えてください。

マンモグラフィを女性の放射線技師が撮影する施設が多くなってきましたが,日本では女性の放射線技師が少ないため,男性の放射線技師が撮影を担当している施設もあります。気になる方は,あらかじめ女性が撮影しているかを施設に問い合わせてください。

(4)マンモグラフィ検診の結果の解釈

マンモグラフィの結果でどれくらいがんが疑われるかの指標として「カテゴリー分類」というものがあります(表1)

表1 マンモグラフィのカテゴリー分類

カテゴリー1 異常なし
カテゴリー2 良性病変のみ
カテゴリー3 がんを否定できず(がんの確率は5~10%)
カテゴリー4 がん疑い(がんの確率は30~50%)
カテゴリー5 マンモグラフィ上はがん(がんの確率はほぼ100%)

マンモグラフィで写ってくるものは,乳がんのみではなく,良性で明らかに治療の対象にならないものや,良性と悪性の区別が難しいものもあります。明らかな良性所見で,病院に行って精密検査や治療を受ける必要のない場合には,「所見はあるが異常なし」というお知らせがいくことがあります。カテゴリー2がこの「所見はあるが異常なし」ということになります。カテゴリー3以上は悪性の可能性があるので,「異常あり,精密検査が必要です」というお知らせがいくことになります。

乳がん検診で「異常あり」といわれた人は,医療機関を受診してください。検診で異常を指摘されても必ずしも乳がんというわけではありませんので,過度に心配することはありません。しかし,「異常なし」の人と比べるとがんの可能性は高いので,精密検査を受ける必要があります。精密検査で「異常なし」とされた場合は,前述したように,自己検診と乳がん検診のサイクル(図3)に戻るか,医療機関で経過観察をするかの指示を聞いてください。

欧米では2年に1回の割合でマンモグラフィ検診を受診する人が60~80%に達していて,乳がんで亡くなる人は減少しています。日本のマンモグラフィ検診受診率は最近少しずつ増えてきているとはいえ,ようやく30%を超えた程度で,乳がんで亡くなる人は増え続けています。日本人女性が乳がんで亡くなることを防ぐために,多くの人がマンモグラフィによる乳がん検診を利用するよう願っています。

(5)デンスブレスト (dense breast) (☞Q2参照)

近年,デンスブレストという考え方が提唱されています。デンスブレストとは日本語では高濃度乳腺と訳されており,乳腺濃度が高いためにマンモグラフィで「白く」写る乳腺のことです。一般に日本人は欧米人と比べて乳腺濃度が高いためにデンスブレストの比率が高いといわれています。デンスブレストの問題点は大きく2つあります。1つはマンモグラフィではがんも「白く」写るためみつけにくいこと,もう1つはデンスブレストの人はがんの発症リスクが高くなることです。自分自身の乳腺濃度を知ることは大切で,米国ではマンモグラフィを受けた本人に乳腺濃度の情報を提供するように法整備が進んでいます。

超音波(エコー)検診について

マンモグラフィ検診は確かに有効ですが,閉経前でいわゆる高濃度乳腺(デンスブレスト)の人では,正常な乳腺組織の中にある乳がんを区別してみつけることが難しい場合があります。その場合,超音波検査が乳がんの発見に役立つことがあります。マンモグラフィでは乳腺も乳がんも白く描出されますので,その区別が難しいのに対して,超音波検査では,乳腺は白く,多くの乳がんは黒く描出されるため,比較的発見しやすいという利点があります。

超音波検査は,放射線被曝(ひばく)もなく,欧米人に比べて乳房の小さい日本人では効率的に乳がんをみつけることができる可能性があります。さらに,超音波検査は乳房のしこりが良性か悪性かを判断するのに大変有効で,日常診療には欠かせない検査となっています。このため,人間ドックや検診施設などで,希望される方に超音波検査による乳がん検診が行われています。現在,その有効性を調べる全国的な研究の解析が進んでおり,その結果40歳代の女性で超音波をマンモグラフィと併用するとマンモグラフィ単独より多くの乳がんがみつけられることがわかってきています。しかし,超音波検査はマンモグラフィに比べると,治療の必要のない良性の変化を拾い上げすぎる欠点があるという研究結果もあり,本当に超音波検診が乳がん死亡率低下に有効かどうかについてはもう少し検討が必要です。また,全国的に集団検診として超音波検診を行うためには,見落としのない高い技術をもった検査技師,医師が全国に十分な人数いるかどうかも重要ですし,治療の必要のない病変を検診で拾い上げすぎることも避けなければなりません。現在,このような診断技術の高い検査技師や医師の育成,超音波装置の整備など超音波検診を行うための体制作りも進められています。

MRI検査による乳がん検診について

MRIは磁気を利用した検査法で,乳がんをみつける能力が最も高いといわれています。このため,欧米では遺伝的な原因などにより乳がんにかかるリスクが非常に高い人に対して,ご本人が希望すればマンモグラフィと一緒に年1回MRIを行うことが勧められています。現在,日本人にも遺伝的に乳がんにかかりやすい人が欧米人と同じくらいの割合でいることがわかってきました(遺伝性乳がん☞Q5参照)。しかし,日本ではこのような乳がんにかかりやすい人に対して,MRI検査による乳がん検診を行うための体制はまだ十分に整っておらず,実際に行っている施設は非常に限られています。早急な体制の整備が望まれるところです。一方,乳がんを発症するリスクが高くない一般の方に関しては,MRI検査を行うことにより費用が多くかかり,また本来治療の必要のない良性の変化が多数発見されることがあるため,不必要な検査が増加するなど,不利なことが多くなります。このため,一般の方のMRI検査による乳がん検診は勧められていません。

PET検査による乳がん検診について

がん細胞のような活発に活動している細胞は,正常の細胞よりも栄養源として多くのブドウ糖を取り込むという特徴があります。PET検査では,FDGというブドウ糖に似た薬剤を注入します。このFDGは微量の放射線を放出しますので,体外から検出することができます。体内に注入されたFDGは,ブドウ糖と同じようにがん細胞に多く取り込まれるため,FDGが多く集まっている部位を探すことで,がんをみつけることができます。もちろんPET検査により乳がんをみつけることはできますが,早期の乳がんや特殊な乳がんの一部は検出できないことがあり,マンモグラフィよりも乳がんをみつけ出す能力が優れているわけではありません。また,乳がん以外の炎症や良性の病変も発見されるという欠点があります。さらにFDGは微量の放射線を放出しますので,体内に注入することで,わずかではありますが放射線被曝をするという欠点もあります。このため,乳がんをみつけることを目的とした乳がん検診としてPET検査を行うことは勧められていません。

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