Q22.リンパ浮腫や痛みなど術後の後遺症について教えてください。

【A】乳がん手術後の主な後遺症としては,リンパ浮腫(ふしゅ)や手術跡の恒常的な痛みなどがあります。リンパ浮腫(ふしゅ)とは,リンパ節郭清や放射線療法が原因でリンパ液がたまって腕が腫(は)れた状態になることです。リンパ浮腫を予防するためには,スキンケアをはじめとするセルフケアが大事ですので,日常生活の中で習慣にするとよいでしょう。
術後の痛みは,多くの場合,数カ月で和らぎますが,軽快しない場合は担当医に相談してみましょう。

リンパ浮腫の原因と予防 ▶リンパ浮腫の治療 ▶痛み(術後数年後)について

解説

リンパ浮腫の原因と予防

人間のからだには,血液が流れている血管と同じように,リンパ液が流れるリンパ管があり,全身に張りめぐらされています。リンパの流れは,栄養素や老廃物などを運ぶ働きをしています。リンパ節郭清またはリンパ節郭清と放射線療法を行うとリンパ液がたまって腕が腫れることがあり,「リンパ浮腫」と呼ばれています。

仕事や家事,子どもや孫の世話,介護などでは,とかく頑張りすぎてしまいがちですが,休憩を取りながら作業することが大切です。また,皮膚に傷ができると腕の血液の循環量が増え,リンパ液が皮下組織にとどまり浮腫を生じやすくなるばかりでなく,細菌感染が新たな浮腫の発症や悪化を引き起こす可能性があるので,注意してください。手術をした側の腕には鍼(はり)・灸(きゅう)や,強い力でのマッサージ,また美容目的のリンパドレナージやマッサージは絶対に行わないようにしましょう。

術後しばらくは,手術をした側の肩や胸・背中が腫れぼったいなどの症状が続くことがありますが,これは手術自体の影響であることが多いです。リンパ浮腫の特徴的な初期症状はありません。しかし,10mm以上腕回りが増えると,リンパ浮腫が現われていると考えられます。

近年,腋窩リンパ節手術は縮小傾向にあり,重症のリンパ浮腫を起こす頻度は減ってきましたが,センチネルリンパ節生検(☞Q21参照)を受けただけでリンパ浮腫を起こす場合もまれにあり,予防と早期治療は大切です。日頃のスキンケア(清潔・保湿)を心がけ,けがや虫刺されを予防するとともに,窮屈な衣服やアクセサリー,腕に負担のかかる運動を避けることなども重要です。手足も含めて水虫(白癬(はくせん)菌感染)があれば皮膚科で治療しましょう(蜂窩織炎(ほうかしきえん)の予防)。なお,予防の段階では圧迫療法もリンパドレナージも不要です。

リンパ浮腫の治療

リンパ浮腫の治療としては,複合的治療が有効です。一方,リンパ管吻合(ふんごう)などの外科的治療単独での効果は少ないと考えられています。また,薬による治療は有効でないばかりか,重篤(じゅうとく)な肝機能障害などの副作用が報告されており,行わないほうがよいでしょう。

複合的治療とは,①弾性着衣(スリーブやグローブ)や,弾性包帯(バンデージ)による圧迫療法,②圧迫療法をしている状態での運動療法(エクササイズ),③用手的(手で行う)リンパドレナージ(MLD),④尿素配合の保湿クリームなどによるスキンケアを適宜組み合わせる治療法です。スキンケアは基本的に予防の場合と同様の要領で行います。集中治療はこれらを2~4週間のサイクルで実践し,定期的に腕の周囲の測定や腕の体積の計測を行い治療効果を確認します。改善がみられたら,次は維持療法として,スキンケア,日中の弾性スリーブ,運動療法などを継続するとともに標準体重を保つようにします。セルフリンパドレナージや波動型マッサージ器の有効性は証明されていません。あくまでも圧迫療法を基本に組み合わせて行うことが重要で,圧迫療法以外は単独では持続的な効果が期待できません。

2008年4月より圧迫療法に用いる弾性着衣や弾性包帯は,療養費扱いとして保険適用になりました。また,リンパ節郭清を伴う手術を目的に入院した際には,リンパ浮腫に関する基礎知識や治療法などについて以前より詳しく説明を受けることができるようになりました。また,国立がん研究センターのホームページ「がん情報サービス」にてリンパ浮腫外来のある医療機関を探すことも可能です(http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/xpLymphSearchTop.xsp)。

痛み(術後数年後)について

手術を受けたことによる胸部からわき,上腕にかけての痛み,違和感やしびれなどの知覚異常は,多くの場合,術後数カ月で和らぎます。しかし,神経痛のようにきりきりとした感覚の痛みや鈍痛などは,数年以上たっても消えない場合があります。このような慢性的に痛みが続く状態は,「乳房切除後疼痛(とうつう)症候群」と呼ばれています。その原因は,はっきりとわかっていませんが,手術や放射線療法や抗がん剤治療による神経の損傷が関与するのではないかといわれています。手術後10年が経過しても約2割の患者さんに認められるという報告があり,決してまれなことではありません。多くは,再発とは関連のない術後の慢性的な痛みであり,頻度や程度は時間が経過するにつれて軽減してくることが多いのですが,術後長期にわたり日常生活上の妨げになるような痛みが続く場合は,悩まずに担当医に相談してみましょう。対処法としては他の神経痛の治療と同じような薬剤(鎮痛薬,抗うつ薬,抗けいれん薬,局所麻酔薬,医療用麻薬など)を使用することが多いのですが,現時点では乳房切除後疼痛症候群に対して有効性が証明された薬剤はなく,薬の副作用に注意しながら慎重に使用することになります。

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