Q27.病理検査でどのようなことがわかりますか。

【A】これからの治療方法を決定するのに必要な情報が得られます。

病理検査とは ▶乳がん組織の病理検査では何を検査していますか
浸潤(しんじゅん)がんと非浸潤(ひしんじゅん)がん
がん細胞の悪性度(あくせいど)とは ▶がん細胞の増殖能(ぞうしょくのう)とは
脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)とは ▶ホルモン受容体(じゅようたい)とは ▶HER2(ハーツー)とは
遺伝子検査について ▶サブタイプ分類について

解説

病理検査とは

患者さんのからだから採取された組織や細胞を染色し,顕微鏡で観察する検査を病理検査,その結果を病理診断といいます。病理検査は病理医が担当しています。乳腺に関する診療で病理検査が行われる場面は,大きく2つに分けられます。

1つは,乳房のしこりや分泌物の原因がどのような病気によるものかを判断し,症状の原因ががんか良性かを診断する場合です(☞Q7参照)。この場合の病理検査には,症状の原因と思われるところの組織を針や小さな手術で取ってくる「生検」と細い針を用いて細胞を採取する「細胞診」があります(☞Q8参照)。

もう1つは,乳がんと診断された後に,その生検標本や手術で切除された標本を観察し,乳がんの種類や性質,広がりや進み具合(どこのリンパ節,何個に転移があるかなど)を診断する場合です。手術中の断端判定や,センチネルリンパ節転移の判定も病理検査の一部です。このような情報は,その後の治療方針決定に必要不可欠です。

乳がん組織の病理検査では何を検査していますか

病理検査では,浸潤(しんじゅん)の有無,腫瘍(しゅよう)の大きさ,がんの種類(組織型(そしきけい) 表1 ),がん細胞の悪性度(あくせいど)(グレード),がん細胞の増殖能(ぞうしょくのう)(Ki67陽性がん細胞の割合など),リンパ節転移の有無と個数,脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)(がん周囲の血管やリンパ管にがん細胞がみられるかどうか),ホルモン受容体の有無,HER2(ハーツー)タンパクの過剰発現(かじょうはつげん)あるいはHER2遺伝子増幅(いでんしぞうふく)の有無などを検査しています。これらの項目と年齢,月経の状況などをもとに,術前・術後の治療を選択します(☞Q14参照)。がんの組織型のうちまれなものを特殊型がんといいますが,その中には性質が通常の乳がん(浸潤性乳管がん)とは異なるものがあります。そのため,特殊型がんの場合には,その性質に応じた治療法が選択されることがあります(☞Q28参照)。

浸潤(しんじゅん)がんと非浸潤(ひしんじゅん)がん

乳がん細胞のほとんどは,乳汁をつくって分泌する乳腺組織の一番末梢部分(乳管末梢から小葉に至る部位にあたります)に発生し,時間が経過すると,乳管・小葉の周囲(間質(かんしつ))に広がります。がん細胞が乳管・小葉の周囲に広がることを浸潤(しんじゅん)といいます。この浸潤の有無によって,乳がんは大きく非浸潤(ひしんじゅん)がんと浸潤(しんじゅん)がんに分けられます。非浸潤がんは,がん細胞が乳管・小葉の中にとどまる乳がんで,適切な治療を行えば,転移や再発をすることはほとんどありません。一方,浸潤がんは,乳管・小葉の周囲に広がった乳がんで,後述の脈管侵襲を介して転移や再発をする危険性があります(図1)

表1 がんの種類

組織型
非浸潤性乳管がん
非浸潤性小葉がん
浸潤性乳管がん
  乳頭腺管がん,充実腺管がん,硬がん
特殊型がん
  粘液がん,髄様がん,浸潤性小葉がん,腺様囊胞がん,扁平上皮がん,紡錘細胞がん,アポクリンがん,骨・軟骨化生を伴うがん,管状がん,分泌がん(若年性がん),浸潤性微小乳頭がん,基質産生がん,その他
Paget 病

Q27-図1

図1 浸潤がんと非浸潤がんと脈管侵襲

がん細胞の悪性度(あくせいど)とは

がん細胞の悪性度とは,顕微鏡で見たがん細胞の形から判断するもので,わかりやすくいうとがん細胞の顔つきのことです。浸潤がんでは,がん細胞の悪性度が高いと転移・再発の危険性が高くなります。悪性度は,グレード1~3の3段階に分けられます(図2)

Q27-図2

図2 がん細胞の悪性度

このページのTOPへ

がん細胞の増殖能(ぞうしょくのう)とは

1個の細胞が2個に,2個の細胞が4個に増えることを細胞の増殖(ぞうしょく)といいます。一般的に,細胞が増殖する能力(増殖能)の高い乳がんは低い乳がんに比べて,悪性度が高く,抗がん剤が効きやすいといわれています。Ki(ケーアイ)67は細胞増殖の程度を表す示標です。Ki67陽性の細胞は,増殖の状態にあると考えられています。したがって,Ki67陽性細胞の割合が高い乳がんは,増殖能が高く悪性度が高いと考えられるため,より厳重に対処することが望まれます。最近では多くの施設で,治療方針決定のためKi67が調べられるようになっています。具体的には,後に述べるホルモン受容体と同様,乳がん組織について免疫組織化学法(めんえきそしきかがくほう)という病理検査を行います。しかし,今のところ,病理標本のつくり方や,陽性細胞をどのように数えるか,また,陽性の細胞がどれくらいあれば陽性率が高いと考えるのかなどについて,一定の決まりがありません。そのため,Ki67をどのように調べるのが一番良いのかについての研究が,わが国を含め,世界的に行われています。

脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)とは

血管やリンパ管は脈管(みゃっかん)ともいい,がん周囲の血管やリンパ管の中にがん細胞がみられることを脈管侵襲といいます(図1)。乳がんが,肺や骨・肝臓などの乳腺以外の臓器に転移する場合,必ず,がん細胞は脈管を通ります。このため,病理検査で脈管侵襲が確認されると,転移・再発する危険性が高くなります。

ホルモン受容体(じゅようたい)とは

ホルモン受容体とは,エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体のことで,乳がんにこのどちらかがあれば,ホルモン受容体陽性がんといいます。ホルモン受容体陽性がんでは,エストロゲンが,ホルモン受容体(じゅようたい)にくっついて,がん細胞が増殖するように刺激します。乳がんの70~80%がホルモン受容体陽性がんで,このような乳がんでは,エストロゲンをブロックするホルモン療法が有効です。ホルモン受容体の有無は,乳がんの組織を用いた免疫組織化学法(めんえきそしきかがくほう)という病理検査でわかります。ホルモン受容体陽性乳がんでは,ホルモン受容体の免疫組織化学法を行うと,がん細胞の核が茶色く染まります(図3)

Q27-図3

図3 ホルモン受容体陽性の乳がん

このページのTOPへ

HER2(ハーツー)とは

HER2(ハーツー)とは,Human Epidermal Growth Factor Receptor type 2(ヒト表皮成長因子受容体2型)の略です。HER2タンパクは,細胞の表面に存在して,細胞の増殖調節などに関係しますが,たくさんある(過剰発現といいます)と,細胞増殖の制御がきかなくなります。乳がんの15~25%では,がん細胞の表面に正常細胞の1,000~10,000倍ものHER2タンパクが存在しています。このような乳がんを「HER2タンパクの過剰発現がある乳がん」と呼びます。このような乳がんでは,HER2タンパクをつくるように司令を出す遺伝子の数も増えており,この状態を「HER2遺伝子(いでんし)の増幅(ぞうふく)がある」といいます。

HER2タンパクの過剰発現あるいはHER2遺伝子の増幅がある浸潤がんは,そうでないものに比べて転移・再発の危険性が高いと考えられています。また,トラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)やラパチニブ(商品名 タイケルブ)などは,HER2タンパクに対する薬で,HER2タンパクの過剰発現あるいはHER2遺伝子の増幅がある浸潤がんに対して使用されます。HER2についての検査は,がんの転移・再発の危険性を予測したり,トラスツズマブやラパチニブなどの有効性を予測するために行われ,現在の乳がん診療においてはとても重要な検査の一つです。具体的には,乳がん組織を用いてHER2タンパクの過剰発現を調べる免疫組織化学法(図4),またはHER2遺伝子の増幅を調べるin situ hybridization(ISH)法で検査します。ISH法には,FISH法やDISH法などがあります。通常は,まず免疫組織化学法でHER2タンパクを検査し,必要に応じて,ISH法でHER2遺伝子検査を追加します。

Q27-図4

図4 HER2タンパクの過剰発現がある乳がん

遺伝子検査について

最近,患者さん一人ひとりの乳がんの性質をより詳しく知るために,乳がん細胞にある遺伝子の発現の仕方や活性度を調べることが欧米を中心に行われています。現在,商業化されているものにはOncotypeDX(オンコタイプディーエックス)やMammaPrint(マンマプリント)があります。手術で取った乳がんの組織について,Oncotype DXは21個の遺伝子を,MammaPrintは70個の遺伝子を解析し,再発の危険度を予測します。患者さん個人個人に合った,最適な治療計画を立てる(特に化学療法を加えるかどうかの決定の)助けになることが期待され,日本でも検査が可能です。2016年5月現在,保険の適用がなく,高価な検査ですが,特にOncotype DXについては日本人を対象とした研究も行われており,とても有用であることが確かめられています。検査実施のためには,通常の臨床情報や病理検査結果に基づく条件が細かく規定されています。

サブタイプ分類について

最近,医師から,「あなたの乳がんのタイプはルミナルAタイプです」など,「サブタイプ分類」の説明を受ける患者さんが増えてきました。サブタイプ分類は,本来,遺伝子検査の結果によってわかるものなのですが,遺伝子検査をすべての患者さんについて行うのは大変なので,遺伝子検査の代わりに,前に述べた免疫組織化学の結果で便宜的に分類して,サブタイプ分類を模した名付けをされることがあるのです。あくまでも便宜的なものであり,本来の遺伝子検査によるものではないため混乱を招きやすいのですが,実際の治療方針は免疫組織化学の結果に基づいて決定されますので,気にしすぎるのは望ましくありません。なお,「トリプルネガティブ乳がん」とは,エストロゲン受容体,プロゲステロン受容体,HER2いずれも陰性のがんのことをいいます(☞Q35参照)。

このページのTOPへ

 

ガイドライン

PAGETOP