Q35.再発予防のための薬による治療はどのように決定されるのでしょうか。

【A】薬による治療は,乳がんの性質と再発の危険性(リスク)を予測する因子,患者さんの全身の状態,治療法に対する希望や意向,月経の有無を考慮して決定します。

薬による治療の目的 ▶薬の種類と使用する薬の決め方 ▶乳がんの性質に応じた薬の選択 ▶再発のリスクを予測する因子 ▶薬による再発予防の治療を行う根拠とその限界について

解説

薬による治療の目的

乳がんは薬がよく効くがんとして知られています。どんな薬をどう使うかは,治療の目的,すなわち,①手術前にしこりを小さくするためか(術前化学療法☞Q17参照),②術後にからだのどこかに潜んでいるがん細胞を根絶するためか(術後化学療法☞Q45参照,術後内分泌療法☞Q51参照),③最初から他の臓器に転移があった場合や再発を治療するためか(再発・転移の治療☞Q39参照),によって変わります。本項では,術後にからだのどこかに潜んでいるがん細胞(微小転移といいます)を根絶して,再発を予防する目的で行う薬物療法について説明します。

薬の種類と使用する薬の決め方

再発予防効果が確認されている薬物療法は大きく分けて,抗がん剤,ホルモン剤,抗HER2薬である分子標的治療薬のトラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)の3種類があります。これらの薬を術前もしくは術後に使用するかどうかは,乳がんの性質と再発のリスクを考慮して決定されます。ホルモン剤と抗HER2薬は,がん自体がもっているホルモン剤や抗HER2薬に反応する部分を攻撃するので,患者さんご自身のがんがこれらの性質をもっている場合にのみ使用します。

乳がんの性質に応じた薬の選択
(1)ホルモン受容体陽性乳がん

乳がんが,その細胞内に「ホルモンを取り入れるための口」であるホルモン受容体(エストロゲン受容体)をもっている場合,女性ホルモン(エストロゲン)を取り入れて増殖する性質があります。ホルモン剤を投与するとエストロゲンを取り入れられなくなり,がんの増殖を抑えることができます(☞Q50参照)。したがって,ホルモン受容体(エストロゲン受容体もしくはプロゲステロン受容体)をもっているかを病理検査で調べ,もっている乳がん(ホルモン受容体陽性乳がんといいます)にはホルモン療法を行います。がん細胞のホルモン受容体陽性細胞の割合が多いほど,ホルモン療法の効果は高くなります。閉経前と閉経後では女性ホルモンがつくられるところが異なりますので,使用する薬剤も異なります。

ホルモン受容体陽性乳がんに抗がん剤を使用するかどうかは,下記の再発リスクを予測する因子を考慮して決定します(☞Q45参照)。OncotypeDX(オンコタイプディーエックス)やMammaPrint(マンマプリント)といった遺伝子検査(多遺伝子アッセイ)を用いることもできます(☞Q27参照)。

(2)HER2陽性乳がん

細胞表面にHER2タンパクをもっている乳がんは,増殖が盛んなことが知られています。トラスツズマブは,このHER2タンパクにくっついて,がん細胞の増殖を抑えます(☞Q49参照)。したがって,がん細胞がHER2タンパクをもっているかどうかを調べ,HER2タンパクをもっている場合(HER2陽性乳がんといいます)にはトラスツズマブと抗がん剤を使用します。

(3)ホルモン受容体陰性・HER2陰性乳がん(トリプルネガティブ乳がん)

上記のエストロゲン受容体やプロゲステロン受容体,HER2タンパクのいずれももっていない乳がん(トリプルネガティブ乳がんといいます)は,ホルモン療法や抗HER2薬の効果が期待できないため,これらの治療は行いません。からだのどこかに潜んでいるがん細胞を根絶するためには,術前もしくは術後に抗がん剤治療を行うことで対処します。トリプルネガティブというと極端に悪いがんという印象があるかもしれませんが,抗がん剤の効果が高い場合もありますので,必ずしもそうではありません。また,腺様囊胞(せんようのうほう)がん(☞Q28参照)などの再発のリスクが低い特殊な乳がんに対しては抗がん剤治療を行わないこともあります。

再発のリスクを予測する因子

再発のリスクを予測する因子は,腫瘍の大きさ(大きいほうがリスクが高い),リンパ節転移の状態(転移があるほうがリスクが高い),がん細胞の悪性度(組織学的悪性度,グレードが高いほうがリスクが高い☞Q27参照),がんの増殖能(Ki67が高いほうがリスクが高い☞Q27参照),がん細胞のHER2の状態(HER2があるほうがリスクが高い),脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)〔切除した標本を顕微鏡でみて,がんの周りの脈管(リンパ管や血管)にがん細胞がどの程度入り込んでいるかを調べる。脈管侵襲があるほうがリスクが高い〕などです。腫瘍の大きさ(☞Q14参照)が0.5cm未満で腋窩(えきか)リンパ節転移がなく,上記のリスク因子を伴わない場合には再発の可能性が少ないため,抗がん剤やトラスツズマブは使用しません。

薬による再発予防の治療を行う根拠とその限界について

再発予防の治療は,本来であれば,「再発する人」と「再発しない人」を特定して,再発する人にだけ行うのが理想的です。しかし,どの人が再発するかしないかを正確に予測することは現在の技術をもってしても不可能で,上述したように,「再発の危険性を予測する因子」を組み合わせて,「再発の危険性の高い群,中くらいの群,低い群」に区別するのが精一杯です。したがって,「再発の危険性の高い(高リスク)群」の人でも再発しない人もいれば,「再発の危険性の低い(低リスク)群」の人でも再発する人はいます。

「再発の危険性の高い群」の人には,再発予防の治療を受けることが強く勧められるのですが,その理由は,「その中の誰が再発するかしないかわからないので,可能性が高いとされた人に全員に勧める」ということにあります。いま,仮に「再発の危険性の高い群」の人が100人いたとします。術後何もしないと,10年の間に100人中60人(60%)が再発し,残りの40人(40%)は再発しないと仮定します。この100人に,再発予防の抗がん剤治療(AC療法を行った後,タキサン系の抗がん剤治療)をしたとすると,再発する人が60人(60%)から40人(40%)にまで減らせることがわかっています。抗がん剤治療をしても再発した40人の人は治療の効果がなかったわけですが,60人から40人を引いた20人の人は,「治療を受けたことで再発しなかった」わけで,治療による利益があったことになります(図1)。「100人中20人が利益を受けるために,100人全員が治療を受けないといけないのか」と思われるかもしれませんが,どの人が再発するかしないか,薬が効くか効かないかを正確に予測することができませんので,100人全員に治療を勧めることになるわけです。

再発はできる限り避けたいので,副作用を考えても利益が高いと思われる治療は受けておくことをお勧めします。治療法の選択に患者さんの希望や意思を取り入れるのは当然ですので,担当医とよく相談して決めてください。

Q35-図1

図1 抗がん剤による再発予防効果の考え方

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