【A】乳がんの腫瘍マーカーは,再発した乳がんに対してその治療が効いたかどうかを知りたい場合に,よい指標となることがあります。しかし,乳がん手術後の再発の有無をチェックすることや,乳がん検診としての乳がんの早期発見には役に立ちません。
解説
腫瘍マーカーとは
腫瘍マーカーとは,がん細胞がつくる物質,または,がん細胞に反応して正常細胞がつくる物質のことで,血液や体液などの中に含まれています。血液を検査して,その物質がどのくらい存在するかをみて,体内にがんがあるかどうかを推測したり,治療の効果が出ているかどうかを判断したりします。
ただし,がんが体内にあれば必ず腫瘍マーカー値が高くなるということではなく,高値にならないタイプのがんもあります。また,別の病気や喫煙などで高値になることもあります。したがって,腫瘍マーカーをチェックしていれば,乳がんの再発や転移をみつけられる,というわけではありません。
腫瘍マーカーにはさまざまな種類があり,乳がんでは, CA15-3, CEA, NCC-ST-439などがあります(表1)。
CA15-3 | 25.0U/mL以下 |
CEA | 5.0ng/mL 以下 |
NCC-ST-439 | 7.0U/mL以下 |
腫瘍マーカーの役割
乳がんの腫瘍マーカーは,再発したり全身に広がった乳がんに対して,治療が効いたかどうかを判断するために,よい指標となることがあります。また,血液を調べるだけで簡単に検査できるので,再発の治療中は,定期的に検査をして,治療効果を確認したり次の治療を検討したりする際に参考にします。なお,腫瘍マーカーの数値の高低には大きな意味はなく,高いからといって何かが悪いということではありません。あくまでも変動をみて治療の効果や病状の変化を知るためのものです。
一方,腫瘍マーカーは,乳がん手術後の再発をチェックする目的にはあまり役に立ちません。Q36で述べられているように,手術後に腫瘍マーカーを測定し,再発を早期に診断できたとしても,その後の生存期間,QOL(生活の質)には変わりがないことがさまざまな研究で明らかになっています。腫瘍マーカーは100%正確にがんの再発を示すものではなく,腫瘍マーカーの数値が高くなったとしても必ずしもがんが再発したということではありません。一方,腫瘍マーカーの上昇がなくても再発している場合もあります。したがって,腫瘍マーカーの役割はあくまでも補助的なものです。また,腫瘍マーカーは早期の乳がんで上昇することは少なく,乳がん検診としての目的にも役に立ちません。
治療後の経過観察中に腫瘍マーカーを測定し,数値が上昇していた場合は,1~3カ月後に再度検査して慎重に経過を観察するとともに,他の検査も併せて行い転移がないかを探します。
腫瘍マーカーは結果が数値で表れるため,患者さんにとっては比較的わかりやすいものですが,腫瘍マーカーだけで何かがはっきりわかるわけではありませんので,数値に一喜一憂しないようにしましょう。