Q43.骨転移について教えてください。

【A】骨は,乳がんが転移する場所としては一番多く,痛みや骨折,脊髄(せきずい)の麻痺(まひ)などを起こすことがあります。QOL(生活の質)を損なわないために,いろいろな治療法があります。

骨に転移するとはどういうことですか ▶骨転移の症状 ▶骨転移の検査 ▶骨転移の治療

解説

骨に転移するとはどういうことですか

乳がんが転移する場合,約30%の患者さんでは最初に骨に転移が起こります。血液の流れにのって乳がん細胞が骨に移り,そこで分裂・増殖するのです。骨にあっても「骨のがん」ではなく,あくまで乳がんですので,乳がんとしての治療を行います。乳がんの手術をしてから10年以上たっても骨に転移することがあります。転移の多い部位は,腰椎(ようつい),胸椎(きょうつい),頚椎(けいつい)といった椎骨(ついこつ)(背骨(せぼね))や,骨盤(こつばん),肋骨(ろっこつ),頭蓋骨(ずがいこつ),上腕骨(じょうわんこつ),大腿骨(だいたいこつ)などです。乳がんの場合には,肘から先の腕や手,膝(ひざ)から下の脚や足の骨にはほとんど転移は起こりません。

骨転移の症状
(1)痛 み

骨転移の部位に応じて,腰椎→腰痛,胸椎→背中の痛み,大腿骨→股関節や太ももの痛み,骨盤→腰骨のあたりの痛み,上腕骨→腕の痛み,などが現れます。このような痛みは骨転移以外の原因でも現れますが,数日にわたって痛みが消えないような場合には,骨転移の可能性も考えなくてはいけませんので,担当医に相談しましょう。

(2)骨 折

体重のかかる部分の骨が弱くなり,骨折することがあります。通常,かなり激しい痛みを伴います。腰椎・胸椎では圧迫骨折を起こします。大腿骨が骨折すると立っていることもできなくなります。

(3)脊髄圧迫

脊椎(せき つい)転移によって脊髄が圧迫され,手足のしびれや麻痺が現れることがあります。この場合は急いで治療をしないと,しびれや麻痺が永久に回復しない場合があります。緊急な治療を要する場合があるので速やかに担当医や病院へ連絡しましょう。

(4)高カルシウム血症

乳がんが転移した骨からカルシウムが溶け出す結果,血液中のカルシウム濃度が高くなることがあります。カルシウム濃度が高くなると,のどが渇く,胃のあたりがむかむかする,尿の量が多い,お腹(なか)が張る,便秘気味になる,なんとなくぼーっとする,などの症状が現れます。治療が遅れると脱水症状が強くなり,腎臓の働きが落ちてしまうので,早めの治療が必要です。

骨転移の検査
(1)骨シンチグラフィ

症状があって骨転移が疑われる場合に実施する検査です。全身の骨を一度に調べることができます。骨シンチグラフィは,わずかな骨転移でもみつけることができますが,骨転移とは関係のない骨折や変性(骨がすり減ったような状態)でも異常として現れるので注意が必要です。

(2)PET,PET‒CT

症状があって骨転移が疑われる場合に実施する検査です。骨シンチグラフィと同様に全身の骨を調べることができます。PETやPET-CTでは骨転移以外のがん病巣も診断できるメリットがあります。一方,骨転移のタイプによっては,骨シンチグラフィのほうが優れる場合があります。

(3)骨X線写真

骨転移がある程度進んでいる場合は,骨が溶ける形で現れる溶骨性骨転移と,骨にカルシウムが異常に沈着する造骨性骨転移をともに診断することができます。乳がんの骨転移は,溶骨性骨転移が多いのですが,造骨性骨転移の形で現れることもあります。骨X線写真は,骨転移を確実に診断しなければならないときや,骨折の危険性を診断するときに役に立ちます。

(4)MRI

骨転移が疑われる場合に実施する検査です。骨転移の部位や範囲を診断することができます。骨シンチグラフィよりも小さな転移を診断することもできますが,全身を一度に検査することはできません。

(5)血液検査

血清中のカルシウム値が基準値より高くなっていれば,高カルシウム血症と診断します。骨転移がある場合,骨に含まれるコラーゲンが分解され血液中に流れ出すため,骨のコラーゲンの分解産物である1CTP(骨代謝マーカーの一種)が増えることがあります。その他,アルカリフォスファターゼ(ALP)なども高い値を示すことがあります。

骨転移の治療
(1)痛みの強い部位がない場合や,骨折が起こる可能性がほとんどない場合

乳がんに対する抗がん剤治療(☞Q45参照),分子標的治療(☞Q49参照),ホルモン療法(☞Q51参照)などの全身治療を行います。また,骨X線写真,MRIなどで明らかに骨に転移が確認された場合にはゾレドロン酸(商品名 ゾメタ)やデノスマブ(商品名 ランマーク)による治療を行うことで,骨折の頻度を減らし,疼痛などが起きる頻度を下げることができます。転移が肋骨や頭蓋骨など体重がかからない骨で,痛みがない場合には照射しません。

ゾレドロン酸やデノスマブの副作用として起こる「顎骨壊死(がっこつえし)」には注意が必要です。これらの治療を受ける場合には,事前に歯科を受診して歯や歯周病などの治療を受けておくことが必要です。治療が始まってからは口の中を清潔に保つことが重要です。基本的には抜歯をしたり,歯髄(しずい)(歯の中の神経や血管)に及ぶような歯科治療をしてはいけません。歯科治療を受ける場合には,ゾレドロン酸やデノスマブでの治療中であることを伝えたうえで歯科医とよく相談してください。

また,デノスマブによる治療では,低カルシウム血症を起こすことがありますので,カルシウムとビタミンDの内服を行います。

(2)痛みの強い部位がある場合や,骨折が起こりそうな場合

前項で説明した治療に加えて,放射線療法や整形外科的な手術を行う場合があります。骨転移による痛みがあり,その部分が狭い範囲に限られているようなときには放射線療法を行うことで,痛みをやわらげたり止めたりすることができます。大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ),腰椎,胸椎,骨盤など,体重が加わる部位に溶骨性転移が起きている場合は骨折予防の効果も期待して放射線が照射されます。

大腿骨頚部や大腿骨の中央部に転移がある場合,骨折を起こす前に人工骨頭置換術や,髄内釘(ずいないてい)を打ち込むといった整形外科的な手術を予防的に行う場合もあります。また,腰椎や胸椎に転移がある場合には,圧迫骨折を起こす前に人工セメントを注入するといった方法が行われることもあります。

(3)高カルシウム血症の場合

血清中のカルシウム濃度を下げるための治療が必要です。ゾレドロン酸の点滴がとても効果的ですが,副作用として腎臓の働きが悪くなることがあるので,注意深く治療を進めます。輸液(水分を点滴する治療)を行い,たくさん尿が出るようにして,カルシウムを尿中へ排泄させます。脱水状態になっている場合には,輸液で脱水を改善してからでないと,ゾレドロン酸によって腎不全になることもあります。

(4)鎮痛薬

骨転移による痛みは我慢しないようにしましょう。消炎鎮痛薬,麻薬系鎮痛薬(オピオイド)などさまざまな薬があります。詳細はQ62を参照してください。

(5)塩化ストロンチウム(ストロンチウム‒89)注射液

放射性物質「ストロンチウム(商品名 メタストロン)」を静脈から注射する治療です。注射した薬剤が骨に転移した部位に取り込まれ,その部位に内部から放射線を照射することで,痛みを緩和することができる治療です。

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