Q45.抗がん剤治療(化学療法)は何のために行い,どれくらい効果があるのでしょうか。

【A】①初期治療における抗がん剤治療は,再発率・死亡率を低下させるために行います。
②遠隔転移治療における抗がん剤治療は,延命効果を得たり,症状を緩和することでQOL(生活の質)を向上させるために行います。

抗がん剤治療を行う目的 ▶術後化学療法の効果 ▶遠隔転移に対する抗がん剤治療の効果 ▶抗がん剤の投与方法

解説

抗がん剤治療を行う目的

乳がんの広がりに応じて抗がん剤は,①術前化学療法,②術後化学療法,③遠隔転移に対する化学療法の3つの場合に用いられます。術前化学療法についてはQ17を参照してください。

非浸潤(ひしんじゅん)がんのように乳がんが乳管内にとどまっている場合には,ほとんどが手術や放射線療法などの局所治療だけで治癒します。しかし浸潤がんの場合,発見された時点で血液やリンパの流れにのって他の臓器に転移している可能性があります(☞Q27参照)。手術の際に画像検査でみつからないような小さな転移を微小転移といいます。微小転移が数カ月~数年かけて大きくなると,乳がんが再発したと診断されます(☞Q38, 39参照)。

術後に抗がん剤治療を行う目的は,どこかに潜んでいる可能性のある微小転移を根絶させることです。一方,他の臓器に転移している場合や,再発した場合には,がん細胞を完全に根絶させることは困難ですので,進行を抑えることで延命効果を得たり,症状を和らげる目的で抗がん剤を用います。

抗がん剤は全身の正常細胞にも影響を与え,吐き気,脱毛,白血球減少などさまざまな副作用を起こす可能性があります。副作用の出方や程度は薬剤によって異なり,個人差もあります(☞Q47参照)。よって抗がん剤治療はその目的と副作用のバランスを考慮しながら行うことが大切になります。

術後化学療法の効果

手術後の抗がん剤治療によって再発率,死亡率が低下します。術後治療では抗がん剤を1種類ではなく,何種類かを同時に使用することで,効果が最大になることが臨床研究で明らかになっています。例えば,CMF治療(☞Q46参照)による再発軽減率は24%で,1,000人が再発すると仮定すると,その24%である240人の再発を防ぐことができます。アンスラサイクリン系薬剤を含む治療(CEF治療など)はCMF治療に比べてさらに12%再発を減少(760人中の12%すなわち91人の再発を減少)させます。アンスラサイクリン系薬剤にタキサン系薬剤〔パクリタキセル(商品名 タキソール)またはドセタキセル(商品名 タキソテール)〕を追加することによりさらに17%の再発を減少(669人中の17%すなわち114人の再発を減少)させます。したがって,アンスラサイクリンとタキサンを投与する治療は,治療をしない場合に比べて44%の再発予防効果があると考えられます。これにより1,000人のうち445人の再発を防ぐことができます(図1)

Q45-図1

図1 化学療法によって防ぐことのできる再発

術後に抗がん剤治療を行うかどうかは,乳がんの性質と再発リスクによって決定されます(☞Q35参照)。ほとんどのHER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんに対しては抗がん剤治療を行います。ホルモン受容体陽性乳がんにはホルモン療法の効果が期待できるため,例えば 表1 のような基準をもとに抗がん剤を追加するかどうかを決めていきます。

表1 エストロゲン受容体陽性HER2陰性乳がんに対する化学療法の追加基準

   化学療法追加   ホルモン療法単独 
グレード  3
増殖指数(Ki67)  高い 中程度  低い
ER,PgR陽性割合  低い   高い
腋窩リンパ節転移  4個以上 1~3個 陰性
腫瘍周囲脈管侵襲  広範   なし
病理学的浸潤径  >5cm 2.1~5.0cm  ≦2cm 
患者さんの意向  利用可能な治療希望   化学療法の副作用は避けたい 
多遺伝子アッセイ
(OncotypeDXやMammaPrint)
 高スコア  中間スコア 低スコア 

遠隔転移に対する抗がん剤治療の効果

肺や肝臓,骨に転移した乳がんは,「肺がん」や「肝臓がん」ではなく,乳がんの「肺転移」,「肝転移」なので,乳がんに効果のある抗がん剤を使用します。抗がん剤によって,進行を抑えることで延命効果を得ることができます(☞Q46参照)。また,症状を緩和させることで,QOL(生活の質)の改善が期待できます。遠隔転移の治療では基本的には1種類の抗がん剤をできるだけ副作用がないように使用していきます。病状が進行したり副作用でQOLが低下したりする場合には,他の抗がん剤への変更もしくは抗がん剤の中止を検討します。病状の進行が早い場合や命を脅かす転移がある場合には,何種類かの薬を同時に使用して,より効果的な治療法を選択します(☞Q39参照)。HER2陽性の乳がんに対しては,抗HER2薬と抗がん剤を組み合わせた治療を行います(☞Q49参照)。

骨転移がある場合には,ゾレドロン酸(商品名 ゾメタ)などのビスフォスフォネート製剤やデノスマブ(商品名 ランマーク)をホルモン剤または抗がん剤と同時に用いることによって,骨転移に伴う痛みや骨折などの頻度を減少させ,症状の進行を遅らせることができます。

新しい薬や治療法も次々と開発されています。その効果や副作用を調べることを目的とした臨床試験や治験に参加されてもよいでしょう(☞Q13参照)。

抗がん剤の投与方法

抗がん剤治療で使う薬は,飲み薬と点滴に分かれます。点滴による治療では腕などの静脈に注射針を刺して薬を投与します。点滴回数は初期治療の手術前や後の場合には4~30回,遠隔転移の場合にはより長期間にわたり点滴が必要になることがあります。

抗がん剤の投与を腕の静脈から何度か行っていくうちに,血管が傷つき,血管に針が入りにくくなることがあります。アンスラサイクリン系の抗がん剤やビノレルビン(商品名 ナベルビン)などといった抗がん剤は血管の炎症を起こしやすく,血管が固くなったり,痛みを起こしたり,血管がつまったりすることがあります。血管に針が入りにくくなると抗がん剤の血管外漏出(ろうしゅつ)(血管から漏れてしまうこと)の危険性が高まってきます(血管炎 ☞Q47参照)。

これらを防ぐために鎖骨付近や上腕や頚部などからチューブ(カテーテル)を心臓近くの静脈に入れて,チューブ先端の薬の注入口を皮下に埋め込む方法があります(図2)。このカテーテルと薬の注入口本体をポートといい,ポートを埋め込む手術には局所麻酔で約30分~1時間程度の時間がかかります。

ポートを使用するメリットとしては,簡単・確実に針を刺すことができること,点滴する薬剤による血管炎を起こさないこと,血管外漏出の危険性が少ないこと,検査で採血や造影剤の注射も可能となることなどが挙げられます。デメリットとしては,カテーテルを挿入する際に小さな手術が必要で,針が動脈に当たって出血をしたり,まれに肺に当たって肺がしぼんだり,挿入部が感染することがあります。その際は適切な処置を行います。また,体内でカテーテルが破損したり,ポートが感染を起こしたり,ポートが詰まったりすることもまれにあり,ポートの入れ替えが必要になることもあります。適切な管理によってこれらのトラブルはある程度防ぐことができます。

Q45-図2

図2 皮下埋め込みポートの例(鎖骨下静脈から入れた場合)

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