Q46.抗がん剤(化学療法薬)・分子標的治療薬の種類と用量は決められた通りに使用しなければいけないのでしょうか。

【A】治癒を目指して行う「術前術後の抗がん剤・分子標的治療」では,決められた組み合わせで,決められた量を使用することが推奨されます。しかし,生活の質の改善と延命を目的に行う「転移・再発時の抗がん剤・分子標的治療」では,からだの状態や副作用に合わせて投与量や投与間隔を変更することがあります。

術前術後に行う抗がん剤・分子標的治療の目的 ▶転移・再発したときに行う抗がん剤・分子標的治療の目的

解説

術前術後に行う抗がん剤・分子標的治療の目的

術前術後に行う抗がん剤・分子標的治療を「初期治療としての抗がん剤・分子標的治療」と呼びます。その目的は,画像でとらえることのできない微小な転移を死滅させることによって,「乳がんを完全に治す」ことです。個々の患者さんに対して推奨される抗がん剤・分子標的治療は,現在までの多くの臨床試験の結果から得られたデータ(エビデンス)をもとに,がんのタイプや進行度を考慮して決めることになります。薬剤ごとに規定された投与間隔と規定された投与量を守って,できるだけ減量はせずに治療を行っていくことが重要となります(表1)。薬剤治療の投与間隔を延ばしたり,薬剤の投与量を減らした場合には治療効果が落ちることが知られています。

 表1  代表的な化学療法・分子標的治療薬の例

治療法 投与量
(体表面積あたりmg)
投与方法 投与日 治療間隔 術後療法
サイクル数
AC (初期治療,転移・再発治療)
ドキソルビシン 60mg 静注(5~30分) 1日目 3週毎  4※
シクロホスファミド 600mg 静注(60分) 1日目    
EC (初期治療,転移・再発治療)
エピルビシン 60~100mg 静注(5~30分) 1日目 3週毎  4※
シクロホスファミド 600mg 静注(60分) 1日目    
FEC (初期治療,転移・再発治療)
フルオロウラシル 500mg 静注(5分) 1日目 3週毎  4~6※
エピルビシン 60~100mg 静注(5~30分) 1日目    
シクロホスファミド 500mg 静注(60分) 1日目    
TC (初期治療)
ドセタキセル 75mg 静注(60分) 1日目 3週毎  4※
シクロホスファミド 600mg 静注(60分) 1日目    
CMF (初期治療,転移・再発治療)
シクロホスファミド 100mg 内服 1日目から14日目まで 4週毎  6※
メトトレキサート 40mg 静注(30分) 1日目と8日目    
フルオロウラシル 600mg 静注(5分) 1日目と8日目    
3週毎ドセタキセル (初期治療,転移・再発治療)
  60~75mg 静注(60分) 1日目 3週毎 4※
毎週パクリタキセル (初期治療,転移・再発治療)
  80(~100)mg 静注(60分) 1日目 毎週※ 12回※
3週毎トラスツズマブ (初期治療,転移・再発治療)
  初回:体重1kgあたり8mg 静注(初回90分) 1日目 3週毎 1年間※
2回目以降:6mg
ビノレルビン (転移・再発治療)
  25mg 静注(1~5分) 1日目と8日目 3週毎 ×
エリブリン (転移・再発治療)
  1.4mg 静注(5分) 1日目と8日目 3週毎 ×
ゲムシタビン (転移・再発治療)
  1,250mg 静注(30分) 1日目と8日目 3週毎 ×
アルブミン混濁型パクリタキセル (初期治療,転移・再発治療)
  260mg 静注(30分) 1日目 3週毎  
3週毎カペシタビン (転移・再発治療)
  3,000~4,800mg/body 内服 1日目から14日目まで 3週毎 ×
4週毎カペシタビン (転移・再発治療)
  1,800~3,000mg/body 内服 1日目から21日目まで 4週毎 ×
テガフール・ギメラシル・オテラシル (転移・再発治療)
  80~120mg/body 内服 1日目から28日目まで 6週毎 ×
パクリタキセル+ベバシズマブ (転移・再発治療)
パクリタキセル 90mg 静注(60分) 1日目,8日目,15日目 4週毎 ×
ベバシズマブ 体重1kgあたり10mg 静注(30分) 1日目 2週毎 ×
ペルツズマブ (転移・再発治療)(トラスツズマブと化学療法薬との併用が原則)
  初回:840mg/body 静注(初回60分) 1日目 3週毎 ×
2回目以降:420mg/body
治療法 投与量
(体表面積あたりmg)
投与方法 投与日 治療間隔 術後療法
サイクル数
トラスツズマブエムタンシン(転移・再発治療)
  体重1kgあたり3.6mg 静注(初回90分) 1日目 3週毎 ×

※ 初期治療の場合
注:体表面積をそれぞれの患者さんで算出し,それを掛けた量を使用する場合,「体表面積あたり」で表記しています。例えば,体表面積あたり80mg使用する薬剤を体表面積1.5m2の人に使用する場合の投与量は120mgとなります。また,体重1kgあたりで表記している薬剤の場合,体重1kgあたり8mg使用する薬剤を体重50kgの人に使用する場合,400mg使用することになります。また,一人あたりの量を示す場合,「 /body」で表記しています。

転移・再発したときに行う抗がん剤・分子標的治療の目的

一方,遠隔臓器へ転移・再発した乳がんに対する抗がん剤・分子標的治療の目的は,初期治療で目指した乳がんの克服ではなく,QOL(生活の質)の改善と延命です。QOLの改善が転移・再発乳がんに対する治療の主要な目標であるので,抗がん剤により副作用が強く出る場合には,抗がん剤の減量を考慮します。減量しても副作用がまだ強い場合には,さらに減量したり,休薬をしたりします。状況によっては薬剤の変更も検討します。転移・再発乳がんに対して抗がん剤・分子標的治療を行う場合には,このように効果と副作用のバランスを常に考慮しながら治療を行っていくところが,初期治療に対する抗がん剤・分子標的治療とは大きくスタンスが異なります。

乳がん治療に使われる薬剤を 表2 に示します。

表2 乳がん治療に使用される薬剤一覧

一般名 商品名 投与方法 分類
ブランド薬 ジェネリック薬
(内服薬のみ)
シクロホスファミド エンドキサン 経口,静注 アルキル化薬
フルオロウラシル 5-FU 静注,経口 代謝拮抗薬
(ピリミジン系)
テガフール・ウラシル ユーエフティ 経口
カペシタビン ゼローダ 経口
テガフール・ギメラシル・オテラシル ティーエスワン 経口
ゲムシタビン ジェムザール 静注
メトトレキサート メソトレキセート 静注 代謝拮抗薬(葉酸系)
ドキソルビシン アドリアシン 静注 抗生物質
(アンスラサイクリン系)
エピルビシン ファルモルビシン 静注
ビノレルビン ナベルビン 静注 微小管阻害薬
(ビンカアルカロイド)
パクリタキセル タキソール 静注 微小管阻害薬
(タキサン)
ナブパクリタキセル アブラキサン 静注
ドセタキセル タキソテール 静注
カルボプラチン パラプラチン 静注 プラチナ系薬
イリノテカン カンプト,トポテシン 静注 トポイソメラーゼⅠ阻害薬
エリブリン ハラヴェン 静注 チューブリン重合阻害薬
タモキシフェン ノルバデックス タモキシフェン 経口 抗エストロゲン薬
トレミフェン フェアストン トレミフェン 経口
フルベストラント フェソロデックス 筋注
アナストロゾール アリミデックス アナストロゾール 経口 アロマターゼ阻害薬
エキセメスタン アロマシン エキセメスタン 経口
レトロゾール フェマーラ レトロゾール 経口
メドロキシプロゲステロン ヒスロンH プロゲストン 経口 黄体ホルモン剤
(プロゲステロン)
ゴセレリン ゾラデックス 皮下注 LH-RHアゴニスト製剤
リュープロレリン リュープリン 皮下注
トラスツズマブ ハーセプチン 静注 抗体
ペルツズマブ パージェタ 静注
ベバシズマブ アバスチン 静注
トラスツズマブエムタンシン カドサイラ 静注 抗体
ラパチニブ タイケルブ 経口 小分子化合物
エベロリムス アフィニトール 経口
抗がん剤 ホルモン剤 分子標的治療薬 分子標的治療薬+抗がん剤

 

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