Q50.ホルモン剤(内分泌療法薬)はなぜ効き, どれくらいの効果があるのでしょうか。

【A】ホルモン剤は女性ホルモンであるエストロゲンを減らしたり,乳がん細胞内のエストロゲン受容体とエストロゲンが結びつくのを邪魔することで,がん細胞の増殖を防ぎます。ホルモン受容体陽性の患者さんでは手術後のホルモン療法で再発が半分ほどに減ります。

ホルモン療法の作用 ▶ホルモン剤の種類

解説

ホルモン療法の作用

乳がんには,エストロゲン(女性ホルモン)をエサとして増殖するものと,そうでないものがあります。ホルモン剤は,エサである体内のエストロゲンの量を減らしたり,がん細胞がエストロゲンを取り込むのを邪魔したりすることで,がんの増殖を抑えます。

ホルモン療法の効果が期待できるのは,エストロゲンを取り込んで増殖する性質をもった乳がんで,「エサを取り込む口」である「ホルモン受容体」をもっており,乳がん患者さん全体の70~80%です。ホルモン療法が効くかどうかは,手術や針生検によって採取した乳がん組織を調べて判断します。エストロゲン受容体かプロゲステロン受容体(エストロゲンの働きによってつくられる受容体)の少なくともどちらか一方があれば,「ホルモン受容体陽性」といい,ホルモン療法が有効な可能性があります。どちらもなければ,「ホルモン受容体陰性」といい,ホルモン療法の効果は期待できません。

ホルモン療法は,ホルモン受容体陽性の患者さんの手術後の初期治療として行うことで再発や転移を半分ほどに減らし,進行・再発乳がんでは生命予後を改善します。

ホルモン剤の種類

ホルモン療法には,作用の異なる2つの方法,すなわち,①体内のエストロゲンの量を減らす方法と,②乳がん細胞内のエストロゲン受容体とエストロゲンが結びつくのを邪魔する方法があります。体内のエストロゲンを減らすホルモン剤としては, LH-RHアゴニスト製剤とアロマターゼ阻害薬があります。がん細胞内のエストロゲン受容体とエストロゲンが結びつくのを邪魔するホルモン剤としては,抗エストロゲン薬があります。閉経前と閉経後とではエストロゲンの分泌の経路が異なるので,薬剤もそれに合ったものを使用します。

(1)体内のエストロゲンの量を減らす方法

エストロゲンは,閉経前の女性では主に卵巣でつくられ,卵巣機能が低下した閉経後は副腎や脂肪組織でつくられます。

閉経前の女性では,脳の視床下部(ししょうかぶ)というところから下垂体(かすいたい)に,性腺刺激(せいせんしげき)ホルモン(LH)を出す指令〔性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)〕が出されると,下垂体は性腺刺激ホルモンを出して卵巣を刺激し,卵巣はエストロゲンをつくります。

LH-RHアゴニスト製剤は,LH-RHとよく似た構造をもつ物質で,LH-RHの働きを邪魔するため下垂体から卵巣への指令が出なくなり,その結果エストロゲンがつくられなくなります(図1)

一方,閉経後は,卵巣の機能が低下するので,卵巣ではエストロゲンがつくられなくなります。その代わりに,副腎(腎臓のすぐ上にある臓器)皮質から分泌されるアンドロゲンという男性ホルモンからエストロゲンがつくられるようになります。アンドロゲンがエストロゲンにつくりかえられる過程で働いているのが脂肪組織などにある「アロマターゼ」という酵素です。したがって,アロマターゼの働きを阻害する薬(アロマターゼ阻害薬)を使用することで,エストロゲンがつくられなくなります(図2)

(2)がん細胞がエストロゲンを取り込むのを邪魔する方法

エストロゲンをエサにして増殖する細胞は,「エサを取り込む口」であるエストロゲン受容体をもっています。抗エストロゲン薬は,乳がん細胞内のエストロゲン受容体とエストロゲンが結びつくのを邪魔しますので,がん細胞の増殖が抑えられます(図3)。抗エストロゲン薬には,タモキシフェン(商品名 ノルバデックス),トレミフェン(商品名 フェアストン),フルベストラント(商品名 フェソロデックス)などがあります。フルベストラントは,進行・再発乳がんに対して使用します。

(3)その他のホルモン剤

上記以外にも,間接的に体内のエストロゲンの量を調節することでがんの増殖を抑える薬として,酢酸メドロキシプロゲステロン(商品名 ヒスロンH)があります。進行・再発乳がんで,他のホルモン療法が効かなくなったときに使用します。

Q50-図1

図1 閉経前のエストロゲンの分泌とLH-RHアゴニストの作用

 

Q50-図2

図2 閉経後のエストロゲンの分泌とアロマターゼ阻害薬の作用

Q50-図3

図3 抗エストロゲン薬(タモキシフェン,トレミフェン,フルベストラント)の作用
抗エストロゲン薬はがん細胞の女性ホルモン(エストロゲン)を取り入れる口(受容体)をふさぐマスクのような働きをします。この結果,がん細胞はエストロゲンが食べられなくなって増殖できなくなります。

 

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