Q54.食生活と乳がん再発リスクとの間に関連はありますか。


「治療後にどのような食生活を送れば再発を予防できるか?」というテーマは非常に重要で,なおかつ関心の高いテーマです。実際に,脂肪,大豆製品やイソフラボン,乳製品,肉類の摂取など,再発リスクとの関連について関心の高い食品や栄養素は多々あります。なかでも大豆製品に多く含まれるイソフラボンは,Q1の「食生活と乳がん発症リスクとの関連」にもあるように,その構造が女性ホルモンのエストロゲンと似ているため,体内でエストロゲンと同様の働きをし,乳がんの発症リスクや再発リスクを高めるのではないか? という懸念があります。現時点で,乳がんと診断された後の大豆製品の摂取状況と予後との関連をみた研究が6件ありますが,いずれも再発リスクを高めるという結果は出ていません。むしろなかにはリスクを低くするという結果もありますが,いずれにしてもまだ結論を出すには至っていません。また,乳製品や肉類の摂取については,これまでのところほとんど研究結果が出ていないのが現状です。

そのため今の段階でわかっていることは残念ながらわずかですが,逆に積極的に食生活を変えることを勧める研究結果も今のところありません。乳製品や肉類をまったく取らないといったように,これまでの食生活を極端に変える必要はありません。ここではその中でも比較的信頼性の高いエビデンスがある肥満,脂肪摂取,アルコール,乳製品,大豆製品と乳がん再発リスクとの関連を取り上げて解説します。

また,治療を受けなかった乳房に,新たに発症するかもしれない乳がんのリスクも重要な問題です。したがって,Q1の「食生活と乳がん発症リスクとの関連」を参考に食生活を見直すことを,治療後の生活においてもお勧めします。

54-1 肥満は乳がん再発リスクと関連がありますか。
54-2 脂肪の摂取は乳がん再発リスクと関連がありますか。
54-3 アルコール飲料の摂取は乳がん再発のリスク因子になりますか。
54-4 乳製品の摂取と乳がん再発リスクについて教えてください。
54-5 大豆食品の摂取と乳がん再発リスクについて教えてください。

54-1 肥満は乳がん再発リスクと関連がありますか。

【A】最初に乳がんと診断されたときに肥満であった患者さんの乳がん再発リスクと乳がん死亡リスクが高いことは確実です。また,乳がんと診断された後に肥満になった患者さんの乳がん死亡リスクが高いこともほぼ確実です。すべての乳がん患者さんで,適切なカロリー摂取と適度な運動によって肥満を避けることが強く勧められます。

解説

乳がんと診断されたときの肥満について

乳がんと診断されたときに肥満であったかどうかが,乳がん再発リスクと関連するかどうかを調べた報告はたくさんあります。ほとんどの研究で肥満の患者さんの乳がん再発リスクは1.4~1.8倍高いことが示されています。その原因としては,肥満の患者さんではホルモン療法のアロマターゼ阻害薬の効果が劣る可能性があること,化学療法の効果が劣ることなどが考えられています。この分野は非常に研究が盛んで,患った乳がんのタイプや受けた薬物療法の種類によっては肥満と再発・死亡リスクは関連がないとする報告もされるようになりました。しかし,いまだ確定的ではないので今後の研究成果が待たれます。

乳がんと診断された後の肥満について

乳がんと診断された後に体重が増加した患者さんで,乳がん再発リスク,死亡リスクを調べた報告はわずかしかありません。ただ,その中の信頼性の高い報告では,体重がおおむね5kg以上増加すると乳がん死亡リスクが1.6倍程度増加することが示されています。

以上より,すべての乳がん患者さんで,適切なカロリー摂取と適度な運動により肥満を避けることが強く勧められます。また,今現在肥満の患者さんには,健康維持の観点から体重のコントロールをお勧めします。

54-2 脂肪の摂取は乳がん再発リスクと関連がありますか。

【A】脂肪の摂取と乳がん再発リスクの関連は明らかではありません。しかし,肥満と再発リスクには明らかな関連がありますので,肥満を避けるために適切なカロリー摂取と適度な運動を心がけましょう。

解説

肥満と乳がん再発リスクには明らかな関連が示されています(☞Q54-1参照)。では,肥満を招くおそれのある脂肪を多く含んだ食事を取ると乳がん再発リスクは増加するのか,この点を検討した報告は多くありません。ただほとんどの研究で,脂肪を多く含んだ食事摂取と乳がん再発リスク,死亡リスクとの間に関連は認められませんでした。

ただし,脂肪を多く含んだ食事を取ると太りやすいのは事実です。そして肥満が乳がん再発リスクを増加させるのは明らかです。脂肪摂取そのものが再発リスクを高めるわけではありませんが,日常生活において大切なことは,過度に脂肪摂取を制限するのではなく総カロリー摂取を制限し,適度な運動によって肥満を避けることです。脂肪を含む食事を必要以上に避けるのではなく,毎日たくさん食べない,総カロリーを調整する,運動でカロリーを消費するなどのバランスをとる工夫によって,太らないように注意することが大切です。

54-3 アルコール飲料の摂取は乳がん再発のリスク因子になりますか。

【A】アルコール飲料の摂取が乳がん再発リスクを高めるかどうかは結論が出ていません。ただし,新たな乳がんの発症リスクを考えると,飲酒はしないか,飲酒する場合も控えめにしておくことが大切です。

解説

飲酒により乳がん発症リスクが高くなることはほぼ確実です(☞Q1-2参照)。しかし,治療後の飲酒が乳がん再発リスクと関係するかどうかについての研究は多くありません。また,その結果も一致していないことから,現時点ではアルコール飲料の摂取が乳がんの再発リスクを高めるかどうかについては結論が出ていません。

ただし,飲酒は治療を受けていない乳房の乳がん発症リスクや,他のがんの発症リスクも高めますので,お酒は飲まないか,飲む場合も控えめにすることが大切です。

54-4 乳製品の摂取と乳がん再発リスクについて教えてください。

【A】乳製品の摂取と乳がん再発リスクの間には明らかな関連性は認められていませんが,研究が少なく一定の結論を導き出すのは困難です。肥満を招かない程度の適量の摂取なら問題ありません。

解説

乳製品全般の摂取によって乳がん発症リスクが低くなる可能性があると近年いわれています(☞Q1-5参照)。では,乳がんと診断された患者さんでは,乳製品の摂取と再発リスクとの関連性はどうでしょうか。乳がんと診断されたときにバターやチーズなどの乳製品を多く摂取していた患者さんとそうでなかった患者さんの再発リスクの比較,そして乳がんと診断されてから乳製品を多く摂取した患者さんとそうでなかった患者さんの再発リスクの比較に関しては,少数ではありますが研究報告があります。いずれも乳製品の摂取量と再発リスクの関連性は明らかではなかったと報告されています。しかし,研究の数が少なく,一定の結論を導き出すのは現時点では困難です。一方で乳製品の多くが脂肪を含むのは事実で,大量の乳製品の摂取は肥満を招くおそれがあります。乳がんと診断されてから肥満になった患者さんの乳がん死亡リスクが高いことはほぼ確実ですので(☞Q54-1参照),乳がん患者さんにおける乳製品の摂取に関しても,肥満を招かない程度の適量の摂取が望まれます。

54-5 大豆食品の摂取と乳がん再発リスクについて教えてください。

【A】大豆イソフラボンの摂取で乳がん再発リスクが低くなる可能性があります。しかし,再発リスクを下げる目的でイソフラボンをサプリメントの形で多量に摂取することは,効果と安全性が証明されていませんので勧められません。通常の大豆食品から摂取するように心がけましょう。

解説

通常の食事における大豆食品やイソフラボンの摂取では乳がん発症リスクが下がる可能性があります(☞Q1-3参照)。では,乳がん再発リスクとの関連はどうでしょうか。現時点ではこれに関する研究は非常に少なく,中国での研究が4つ,米国での研究が2つあるだけです。しかし,これらの研究では一貫して,大豆イソフラボンの摂取が多い患者さんは,少ない患者さんに比較して乳がん再発リスクが低かったことが報告されています。特にホルモン療法を受けていた患者さんやホルモン受容体陽性の患者さんでその傾向は強かったとされています。また,3つの研究では大豆イソフラボンを多く摂取していた患者さんにおいて,これによる有害な出来事はなかったことが報告されています。

いまだ研究は限られていて,日本人を対象とした研究もないのですが,大豆イソフラボンの摂取で乳がん再発リスクが低くなる可能性があります。しかし,再発リスクを下げる目的でイソフラボンをサプリメントの形で多量に摂取することは安全性が証明されていませんし,その効果も不明ですので勧められません。通常の大豆食品から摂取するように心がけましょう。

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