Q55.生活習慣と乳がん再発リスクとの間に関連はありますか。


治療後の生活習慣と予後の関連についても,食生活と同じように重要なテーマでありながら,やはり研究数が少なく,まだ十分な結果はそろっていません。近年では,治療後の患者さんの生活習慣を調べて,その後の予後との関連を臨床データや治療の違いなども考慮しながら検討する研究が進められており,今後,新しい研究成果が出てくることが期待されます。ここでは,代表的な生活習慣である喫煙と運動,それに関心の高いストレスと乳がん再発リスクとの関連を取り上げ,現状を紹介します。

また,乳がんになっていない側の乳房に,新たに発症するかもしれない乳がんのリスクも重要な問題です。したがって,Q2の「生活習慣および持病と乳がん発症リスクとの関連」を参考に生活習慣を見直すことを,治療後の生活においてもお勧めします。

55-1 喫煙は乳がん再発リスクと関連がありますか。
55-2 乳がんの再発を予防するためには,運動を多くしたほうがよいでしょうか。
55-3 心理社会的な要因は乳がん再発リスクを高めますか。

55-1 喫煙は乳がん再発リスクと関連がありますか。

【A】喫煙により死亡リスク(乳がん死亡のほか,あらゆる原因の死亡を含みます)が高くなる可能性があります。健康維持の観点からも,禁煙を強くお勧めします。

解説

喫煙により乳がん発症リスクが高くなることはほぼ確実です(☞Q2-1参照)。しかし,治療後の喫煙が乳がん再発リスクと関係するかどうかについての研究は多くありません。ただし,死亡リスク(乳がん死亡のほか,あらゆる原因の死亡を含みます)との関連では,喫煙者の死亡リスクが高いという報告が複数あります。したがって,あらゆる方で喫煙により死亡リスクが高くなる可能性があります。

煙草の煙の中には,さまざまな化学物質が含まれており,その中にはがんの引き金になる物質が数十種類含まれています。喫煙は,肺がんをはじめとする複数の部位のがんの原因となっているだけでなく,心筋梗塞や脳卒中などの循環器の病気,糖尿病,慢性閉塞(へいそく)性肺疾患などの呼吸器の病気の原因でもあります。治療後においても,喫煙によりこれらのQOL(生活の質)を著しく損なう生活習慣病のリスクが高くなり,死亡リスクも高くなりますので,健康維持の観点からも禁煙を強くお勧めします。

55-2 乳がんの再発を予防するためには,運動を多くしたほうがよいでしょうか。

【A】乳がんと診断された後に適度な運動を行う女性は,行わない女性に比べて乳がんの再発や死亡のリスクが低くなることはほぼ確実です。また,診断後の適度な運動は,QOLにも好影響を及ぼすことが明らかです。乳がんと診断された後は,無理のない範囲で運動を心がけるのがよいでしょう。

解説

乳がんの発症には,運動や食事といった生活習慣が影響すると考えられていますが,乳がんと診断された後でも,それまでの生活習慣を見直し,改善することが,よりよい健康のためには重要です。

乳がんと診断された後の運動とその後の健康状態との関連を検討したこれまでの報告をまとめてみると,乳がんと診断された女性のうち,ある一定以上の運動(週に1時間程度のウォーキングに相当)を行った女性では,ほとんど運動をしていなかった女性に比べて,病気が原因によるすべての死亡リスクがおよそ40%低くなっていました。また,運動を行っていた女性では,乳がんの再発リスクがおよそ25%,乳がんによる死亡リスクがおよそ35%低くなっていました。これらの運動により再発や死亡リスクが低下する効果は,肥満の有無に関係なく認められています。しかし,非常に激しい運動をすれば,より高い効果が得られるというわけではありません。

さらに,乳がんと診断された後に,適度な運動を行っている女性のQOLは高く,からだの症状や日常の活動性,心理面(不安や抑うつ),社会面(家族や友人との関係)がより良い状態であることが,いくつもの研究で明らかになっています。

乳がんの治療が一段落しましたら,無理のない範囲で定期的な軽い運動(少し汗ばむぐらいの歩行や軽いジョギングなどを週に1時間以上)を心がけるとよいでしょう。

55-3 心理社会的な要因は乳がん再発リスクを高めますか。

【A】心理社会的な要因と乳がん再発リスクとの間には明らかな関連はありません。また,心理社会的な介入が再発までの期間の延長をもたらすという根拠は認められていません。

解説

心理社会的な要因と乳がん再発との関連については,これまでにいくつかの報告があります。心理社会的な要因としては,どのようにがんと向き合うか(コーピングといいます),心理的な負担,ストレスになる生活上の出来事が多く取り上げられ,再発までの期間との関連が調べられています。しかしその結果はさまざまで,前向きなコーピング,心理的負担が少ないこと,ストレスになる出来事を経験しないことが再発までの期間を延長するかどうかについては,一定の結論が出ていません。

心理社会的な介入(教育,精神療法,グループ療法など)と乳がん再発との関連についても多くの報告はありません。その中には,心理社会的介入を行ったグループは行わなかったグループよりも再発までの期間が長かったという報告もありますが,研究の方法に問題点が指摘されるなど,現在までのところ,心理社会的な介入が再発までの期間の延長をさせるという十分な根拠はありません。

ただ,心理社会的な要因と再発との関連は明らかではないものの,再発への不安を含めストレスを感じながら生活されている方は多いと思います。この場合,心の中に湧き上がる不安をなくすことは,とても難しいということを理解しておいてください。むしろ不安が生じるのは当然だと考え,そうした気持ちを無理に打ち消そうとするのではなく,不安をもちながらも,目の前のことを普段通りに行っていくことが大切です。しかし,不安が続き日常のことが手につかない,眠れない,食欲がない,気分が落ち込むといった症状が続くようであれば,早目に専門家にご相談ください(☞Q53参照)。

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