Q 67 将来,妊娠・出産を希望しています。 どうしたらよいでしょうか。

【A】妊娠や出産,授乳が乳がんの再発の危険性を高めるという証拠はありません。また,乳がんの治療後に妊娠・出産をしても,胎児に異常や奇形が起こる頻度は高くなりません。また,抗がん剤の中には卵巣機能に傷害を与えて恒久的に月経を止めるものがあり,治療後に妊娠できなくなることがあります。

解説

かつては,妊娠が乳がんの再発の危険性を増やす可能性や抗がん剤による催奇形性(さいきけいせい)(胎児に奇形を起こしやすくすること)などの問題を漠然と危惧(きぐ)して,抗がん剤治療後の妊娠はあきらめるべきだとする風潮がありました。しかし,さまざまな研究の結果,このような考え方は必ずしも正しくないことがわかってきました。

乳がん治療後に妊娠したり授乳したりすると,再発しやすくなるのでしょうか
治療終了後に妊娠した場合,胎児の奇形の可能性は増えるのでしょうか
抗がん剤治療によって妊娠できなくなる可能性はどの程度あるのでしょうか
乳がんの治療後はいつから妊娠が可能でしょうか

乳がん治療後に妊娠したり授乳したりすると,再発しやすくなるのでしょうか

再発しやすくなるとは考えられていません。乳がん治療後に妊娠した患者さんと妊娠しなかった患者さんを比較した研究の結果がいくつか報告されており,そのほとんどが「妊娠しても再発しやすくはならない」と結論付けています。また,授乳により乳がんが再発しやすくなるという根拠はなく,乳児に対しても悪影響を及ぼすことはないと考えられています。

治療終了後に妊娠した場合,胎児の奇形の可能性は増えるのでしょうか

そのようなことはありません。抗がん剤治療を受けた方においても,治療終了後の妊娠・出産で胎児に異常や奇形がみられる頻度は,一般女性の妊娠・出産の場合と変わらないことがわかっていますので,特に心配はいりません。

抗がん剤治療によって妊娠できなくなる可能性はどの程度あるのでしょうか

閉経前の乳がん患者さんが抗がん剤の投与を受けた場合,抗がん剤によって卵巣がダメージを受け,抗がん剤治療中や治療後に月経が止まってしまう患者さんが少なくありません。卵巣機能に障害を引き起こす可能性のある代表的な抗がん剤はシクロホスファミド(商品名 エンドキサン)であり,この薬剤をどれだけ投与したかが月経にかかわる要因の一つとして考えられています。この抗がん剤はAC療法, FEC療法やCMF療法など乳がんに対する代表的な抗がん剤レジメン(組合せ)治療に含まれています。抗がん剤により無月経となってしまう割合は,抗がん剤のレジメンの種類だけではなく,患者さんの年齢によっても異なり 表1 に示す通りです。40歳未満の方の場合は抗がん剤治療中に月経が止まってしまっても,治療後に回復する場合が多いのですが,40歳以上になると卵巣の機能そのものが低下してきますので,抗がん剤で月経が止まってしまった場合は恒久的である可能性が高くなります。タキサン系薬剤(パクリタキセル,ドセタキセル)についてはどの程度月経停止が起こるか,まだ明らかになっておりません。

現在,抗がん剤による卵巣へのダメージを減らす方法について,さまざまな研究が進められていますが,まだ研究段階で明確な結論は得られていません。そのほかに,無月経になった場合のことを考えて卵子や受精卵を凍結保存しておくことも可能です。受精卵の凍結保存に比べて,凍結融解未受精卵子を用いた場合の生産率は約半分(22.4% 対 9.9%)と報告されています。卵巣組織を凍結する方法もありますが,こちらはまだ試験的な取り組みとされています。

表1 抗がん剤の組合せと,それにより月経がなくなる割合

30歳未満 30~39歳 40歳以上
CMF 19% 30~40% 80~95%
CEFなど ほとんどなし 10~25% 80~90%
AC データなし 13% 57~63%

[N Engl J Med 2000; 313(15): 1086-94 より一部改変]

乳がんの治療後はいつから妊娠が可能でしょうか

どのような薬剤でも妊娠前期に使用すると胎児へ影響を与える可能性があります。特に抗がん剤やホルモン剤は,妊娠前期に使用すると胎児の奇形が増すなど,胎児に影響を与える可能性がありますので,治療中は妊娠しないように気をつけましょう。妊娠中期からの抗がん剤治療は可能といわれてます。

治療終了後は妊娠が可能です。抗がん剤による卵巣への直接の影響は,抗がん剤使用直後の月経周期に対してだけですが,薬によっては数週間~数カ月間,内臓に影響が残る薬剤もありますので,念のため,数回月経を確認したあとで妊娠するほうがよいと考えられています。また,タモキシフェン(商品名 ノルバデックス)の場合,薬が体内から出るまでには,約2カ月かかるという報告があります。このため,タモキシフェン終了後は,念のため2カ月間は妊娠を避けたほうがよいでしょう。

しかし妊娠・出産しても,万一早期に再発してしまっては,育児という母親としての役割が十分に果たせなくなるかもしれません。再発の危険性には個人差がありますが,再発する方の多くが術後2~3年以内にみられることから,少なくとも術後2年間は妊娠を避けたほうがよいかもしれません。患者さんによって状況が異なりますので,妊娠・出産を希望される場合には担当医にご相談ください。

なお,乳がん治療と妊娠出産,生殖医療について詳しくお知りになりたい方は,「乳がん患者の妊娠出産と生殖医療に関する診療の手引き2014年版」(金原出版)をご参照ください。

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