診療ガイドラインとは?

─本サイトの読み方・使い方─

診療ガイドライン委員会委員長 向井 博文

本屋さんに行くと,「これでがんが治った」「驚異のがん治療……」などというタイトルの書籍を目にすることがあると思います。「がん」の告知を受けたとき,誰しもが「藁にもすがりたい」気持ちで,さまざまな情報を集め,自分にふさわしい治療法を求めようとします。そのようなとき,このような耳当たりのよい言葉に,ついつい惹かれてしまうことは仕方のないことです。

それに比べると,本書のタイトル「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」はそれほど目立ったものではないかもしれません。でも,この「診療ガイドライン」が大変重要な用語です。

医療の世界では,世界中の医師たちが「診療ガイドライン」を参考にして患者さんの診療にあたっています。診療ガイドラインとは,医師たちが医療現場で適切な判断が下せるよう支援する目的で作成された文書(あるいは書籍)のことです。現在,ガイドラインはよくある疾患(病気)に対してはおおむね作成されていて,また医学の進歩とともに定期的に新しくされています。乳がんの診療ガイドラインは初版が2004年につくられ,現在2年ごとに改訂されています。

この本は,そんな「診療ガイドライン」を患者さん向けにつくったものです。といっても,医師向けのガイドラインの文章を一般の方向けにわかりやすく書き直しただけ,というものではありません。患者さんと医師とでは,抱く疑問や知りたいことが異なりますので,本書の内容は医師向けのそれとは大きく違うものとなっています。一方,診療ガイドラインには定められた作成方法があり,それに沿ってつくられた点は医師向けのものと同様です。

本書は,「日本乳癌学会」という乳がんの専門家たちが集まっているわが国で最も大きな組織が,責任をもって編集しています。その作業としては,学会から選定された専門医たちが吟味を重ねて文章を書き,乳がん専門の看護師,薬剤師が難しすぎる内容になっていないかをチェックしました。また,患者さんの視点を本の内容に反映しようと乳がん患者会の方にも作成委員になっていただいて,さまざまな話し合いを経て完成されたものです。

ここには乳がんに関する情報がつまっています。それらの情報は原則として根拠と科学的データに裏付けられたものです。その意味ではまさに乳がんに関する本としては最も信頼性の高いものといっていいでしょう。

もちろん個々の患者さんで置かれている状況は少しずつ違いますし,また人生観や価値観によって,最終的にどの治療法を選択するかが異なるのは当然です。そのうえ,根拠と科学的データに裏付けられた情報といっても,確からしさという点においてはかなりの幅があり(強くそういえるものから,十分なデータはないけれどもこれまでの慣習でそう信じられているというものまで),またまったくデータのない事項も少なからずあります。

しかしながら,今ある科学的データを最大限尊重しながら,それに医療者側の豊富な臨床経験や患者さん側の人生観,価値観が加味されて,一つひとつの医療が実践されていくことが最良の診療であると考えられます(図)

本書の読み方-図1

図 医療における診療ガイドラインの位置付け

まずは,「乳がん診療を正しく受けていただくために」を眺めてみてください。乳がん診療全体の中で,今あなたがどこの位置に立っているのかが大まかにでもわかることと思います。次に,ガイドラインの「目次」をご覧になることをお勧めします。ここでは患者さんがよく抱く疑問を,時間軸での診療の流れに沿って並べてあります。この「目次」が本書のまさに中心となるページです。基本的には各疑問(Q)ごとに独立していますので,そこだけ読んでいただいてもご理解いただけるようになっています。また,関連する記載は適宜「☞」で示し,読みやすいように工夫しました。「マインドマップ」は,頭に浮かんだキーワードから関連するQを探したいときにご利用ください。さらに,「質問集」もあなたの疑問を解く助けになってくれることと思います。

がんとの闘いは情報戦,とよくいわれます。これは,正しい情報に基づいて正しい闘い方をしないと,がんという相手は難敵のため簡単には勝てないということを意味します。本書をうまく使うことによって,是非がんとの闘いを有利に進めていただきたいと思います。そして,本書が乳がん患者さんたちにとって,診療のガイド役のみならず心のガイド役になってくれることを願っています。

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