理事長挨拶

理事長挨拶

 

一般社団法人日本乳癌学会 理事長
杏林大学医学部 外科教授
井本 滋

 去る第145回理事会にて理事長に信任されました井本です。本学会は2004年に理事長制が導入され、坂元吾偉先生、園尾博司先生、池田正先生、中村清吾先生に続いて第五代理事長となります。どうぞよろしくお願いいたします。

 乳がんの診断と治療は、画像診断による乳がん検診に始まり、一人一人のがんの性質に応じて、手術療法、薬物療法、放射線療法を適切に組み合わせた治療が行われます。残念ながら乳がんが進行再発した場合は、薬物療法と放射線療法によってより良い生活の質を保つことが治療の目的となります。治療は患者・家族の意向を尊重しつつエビデンスに基づいて提供することが重要です。私のミッションは、「国民が安心できる乳がん診療を提供する」ことです。そのために幾つかの課題に取り組んで参ります。

 まず、これまでの取り組みとして患者向けガイドラインと診療ガイドラインを通して乳がん診療への理解と質の向上を目指します。会員施設によるNCDへの登録事業を推進し、quality indicatorによる診療レベルの改善を図ります。日本では、年間10万人近い方が乳がんと診断され治療されていますが、NCDに登録されたいわゆるビッグデータを基に、日本人女性の乳がんの特性を解析し診療のあり方について検討を進めます。喫緊の課題については、班研究として2年間でその成果をまとめ学会誌である「Breast Cancer」に報告していきます。

 次に、乳がんを専らとする医師には、専門技能に加えて多岐にわたる知識と適切な判断が求められます。これまで、乳腺専門医は5年間の修練と論文作成・学会報告などの業績を積んだ認定医が取得可能な資格として本学会が認定して参りました。しかし、今年から開始された新専門医制度では、乳腺専門医は基本領域の専門医を取得した専攻医が取得可能なサブスペシャリティとして本学会と日本専門医機構が定める資格となります。現在、乳腺専門医は外科専門医のサブスペシャリティとして日本専門医機構から承認されていますが、今後は内科、放射線科、産婦人科など基本領域の学会と連携を深め、幅広い基本領域の専攻医が取得可能なサブスペシャリティとなることを目指します。さらに、本学会は女性医師の割合が年々増加し乳腺専門医も増えています。一方、乳がん診療の均てん化を目指す上で地方における乳腺専門医の不足も深刻な課題です。以上から、女性医師のキャリアパスや地方における専門医の育成に配慮した制度を設計して参ります。

 新たな専門医制度では、専門医の更新要件として症例経験・業績のみならず、研修実績が重視されます。すなわち、乳がん診療の最新情報の理解と習得、医療安全・医療倫理などの定期的な研修が求められます。本学会では会員への啓発活動として学術総会における教育セミナー・看護セミナー・画像診断セミナー・病理セミナー、地方会における教育セミナーを企画しています。但し、限られた開催回数と地理的・時間的制約から参加が困難な方もいます。専門医取得のための専門医セミナーのみならず、各種セミナーのあり方を検討した上で、2020年度からe-learningの導入を予定しています。将来的には、会員、医療関係者、患者・家族への情報発信と啓発活動のツールとなれば幸いです。

 最後に、様々な疾患において遺伝子の特性に応じたゲノム医療が社会に実装されつつあります。乳がんではBRCA変異を標的とした分子標的療法が臨床に加わります。これまでの薬物療法と大きく異なる点は、生殖細胞系列変異の検査に基づく医療である一方、その親族に保因者が2分の1の確率で存在することが判明することです。これまで、乳がん・卵巣がんなどの家族歴から遺伝カウンセリングを経てBRCA検査が行われました。今後は、治療のためにまず検査ありきとなります。遺伝子の変化を忌み嫌うのではなく、がんの個性の一部として理解し、がん未発症者を精神的に社会的に支援し、適切な検診を行い、予防的な乳房切除・卵巣卵管切除を行うことが求められます。幸いにも、本学会は多職種から構成されています。会員・評議員・役員の叡智を結集し、関連する学会・団体と共同し、患者・家族のご支援を賜りながら、ゲノム医療を一歩一歩進めます。

 本学会へのご指導とご鞭撻をどうぞよろしくお願い申し上げます。

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