国際委員会 留学体験記 増田 紘子

日本乳癌学会 留学体験記

留学だより

増田 紘子

皆様、初めまして。現在The University of Texas MD Anderson Cancer Center(MDACC)、 Breast Medical Oncology(BMO)にてPostdoctoral Fellowをさせていただいております増田紘子と申します。MD Andersonでの研修もすでに1年8カ月となり、帰国の時が迫っております。今回、昭和大学教授中村清吾先生を委員長とする、日本乳癌学会国際委員会の先生方から、今後留学を希望される先生方のために、と、この素晴らしい機会を頂きました。お役にたてるかわかりませんが、私の留学前から帰国に至るまでのお話をさせていただこうと思います。

まず、留学を決意したきっかけは?という質問ですが、私が最初にMDACCの先生方と交流を持たせて頂いたのは、J-TOPプログラムという、MD Anderson Cancer Center、Breast Medical Oncology教授、上野直人先生、Richard L. Theriault先生、国立癌センター中央病院、清水千佳子先生が中心となって活動されている、clinical trialの立案を通じ、チーム医療を学ぶworkshopに参加させて頂いた事が始まりでした。もともと臨床試験に強く興味を持っていた私は、会を通じて、チーム医療とは何かを真剣に議論し、たくさんの友人が出来たことに、大きな喜びを感じていました。そして、上野直人教授をはじめとする、MDACCの先生方と直接お話をさせて頂く中で、日本とアメリカとのシステムの違い、研究環境の違い、考え方の違い、患者さんの違いを知り、clinical researchにますます興味を持った私は、自身の目でその実情を見、そこで研究したいと思うようになりました。そんな時でした。J-TOPプログラムの主要執行委員である佐治重衡先生、そして、私の直属の上司である増田慎三先生と、ある研究会でお会いし、タクシー乗り場でタクシーを待っている時、佐治先生からお声をかけて頂いたのです。“先生、今週末が締め切だけど、日本対癌協会とMD Andersonが主催している、My Oncology Dream Awardっていうのがあるんだよ、1年間MDACCでポスドクが出来るんだよ。間に合えば応募してみたら?”と。我々fellowをいつも褒めて伸ばして下さる増田慎三先生に、“先生ならいけるんじゃない? 僕応援するよ”とすっかりその気にさせて頂き、当時岡山大学大学院にて大学院生をしていた私は、土井原博義教授にその事を相談させて頂きました。太っ腹な土井原先生は、“やってみたいなら、頑張ってやってみなさい”と快く後押しして下さいました。そして、怒涛の一週間で書類をまとめ、My Oncology Dream Awardに応募したのです。この賞を頂いたことが、留学のきっかけとなりましたが、それ以前に、臨床試験を勉強させて頂きながら、日本乳癌診療の第一線で活躍されている先生方にお会いすると、どの先生も、いつも私たち若手医師に話して下さることがありました。“これからの日本の乳癌診療のために、世界を見てきなさい、数年でもいいので、海外で研究をしてみなさい。”先生方みなさんに教えて頂いた言葉です。今、20か月の研修を終え、頂いたその言葉、ひとつひとつにとても感謝しています。

私のMDACCでの経験を、これからどのように生かすことができるのか、不安も感じますが、日本対癌協会をもとに、患者さんから頂いたこの大切な賞に恥じないよう、今後日本で日々精進して参りたいと思っています。

次は留学が決まるまで、ですね。あれは、12月、ウエスタンブロットのdataを医局でまとめていた時でした。対癌協会の小西さん、という方からお電話を頂いたのです。とってもおっとりした口調で、“どうも、初めまして、小西です。先生、MDACCでの研修, 頑張ってきてください。”と。突然のその電話に、ただただ驚いて、診療途中の土井原先生に、“先生、なんだか決まったみたいです!”と叫んだのを覚えています。アメリカ大使館で受賞スピーチをさせて頂き、日本対がん協会会長の垣添忠生先生、MD Anderson Cancer Center上野直人先生、Oliver Bogler先生、アグネスチャンさんと、写真を撮り、始まりはまるで夢のようでした。しかし、それからがなかなか大変でした。留学の準備は半年かかる。まさにその通りで、私がMDACCでの研修を開始させて頂いたのは6月初めでした。My Oncology Dream Award第一号だったこともあり、誰もが手探り状態で、いったい何から準備をすればよいのか?留学経験のある岡大の上司にご指導いただいて、必要書類を準備し、三か月以上かけて依頼した学歴、職歴証明書が、出来上がってみると医師であることが証明されていなかった時は、アメリカで私、生きて行けるのだろうか?と本当に心配しましたが、推薦状、総合保険、銀行口座、そういったものを一つずつ、準備して、J-1 visaを手にした翌日には関西国際空港に立っていました。私、留学するんだな、と落ち着いて感じたのは旅立つその当日だったように思います。

MDACCでの生活は本当に素晴らしいものでした。初めての上野先生とのミーティングで、これから私が腫瘍外科医として何を学んでいくべきか、という、留学の目標を頂きました。1.Review を書く。 2.Retrospective studyを実施する、databaseを作成管理する。3.Clinical Trialを立案、実施する。
Oncologistに何が必要なのか、どう勉強していくのか、Career developmentという考え方を教えて頂いたのは初めてだったと思います。この合理的な教育方法、システムこそが、アメリカと日本の大きな違いのように感じました。上野先生にご指導いただき、与えて頂いた多くの機会は、本当に有難く、私を成長させてくれたと思います。週に1回の上野先生とのミーティングでは、私が納得いくまでとことん議論して下さり、私の研究での希望が叶うように、ご尽力頂き、また、科を超えた、多くのcollaboratorの先生方をご紹介いただき、共に働く機会を頂きました。私はこの上野先生とのミーティングが大好きでした。20か月、上野先生のもとでご指導頂けた事を本当に感謝しています。
具体的な研究内容は、mRNA dataを用いた乳癌のサブクラス解析、target geneの発見、膨大なclinic dataを使ったretrospective research、そして自身の第1目標であったclinical trialの立案、作成というものでした。まず驚いたのは研究環境の素晴らしさです。私は上野先生がdirectorをされているMorgan Welch Inflammatory Breast Cancer Research Program and Clinicという、科を超えて炎症性乳癌について研究を行う、リサーチグループに参加して研究をさせて頂きました。非常に稀な疾患である炎症性乳癌のdataをフランス、ベルギーの先生方と協力させて頂き、解析し、また、MDACC内のDepartment of Bioinformatics and Computational Biologyの先生方にご協力いただき、炎症性乳癌、triple negative 乳癌の生物学的、遺伝的特徴を解明することを目標にプロジェクトを行いました。毎日、英語能力を含め未熟な自身の能力に歯痒い日々を送っておりましたが、collaboratorの先生方との出会いは本当に素晴らしく、楽しいものでした。この研究環境こそが、一流の研究施設、研究者とともに、臨床的にも最大の患者数を誇るMDACCの最大の強みであり、研究施設と、臨床施設の連携が難しい日本との違いを強く感じたところでもありました。それは臨床試験立案、施行の過程でも大きく影響していました。上野先生のlabでは、医師に加え約15人の研究者が、preclinical levelでの、target geneの同定、マウスモデルを用いた薬剤の腫瘍縮小効果、併用療法の相乗効果等の研究を行っておられ、最新のpreclinical evidenceに触れることが出来ました。彼らのプレゼンテーションを聞きながら、勝手に臨床試験を考えるのも私の楽しみでした。実際のtrial立案、実施においても、MDACC内で、evidenceを生み出し、デザイン、rationaleをback upしてもらえる環境は生産性が高く、素晴らしいシステムでした。BMOでは月に1度、clinical trialのprotocol meetingが行われており、月平均3-4のtrialが検討されます。その多くが遺伝子解析を含んだtranslational-trialの色合いが強く、日本との大きな差を感じました。Phase Iのtrialも多く、この臨床と基礎の連携が多くのtrialを生む原動力になっていることを感じました。
そして、私が本当にお世話になったのが、scientific publication、論文をeditingしてくださる科で、それと同時にfellowの教育のために様々なworkshopを主催している、scientific editorsの先生方です。研究とともに、MDACC内での様々なworkshopもまた、とても勉強になりました。
本当にあっという間に過ぎてしまいましたが、掛替えのない、本当に楽しくて、幸せな20か月のアドベンチャーでした。医師としてもですが、国を超えたたくさんの友人たちに出会え、切磋琢磨し、笑いあい、人間として本当に貴重な経験をさせて頂きました。この機会を下さったすべてのみなさんに感謝します。

これから帰国後、何ができるのか、不安に思うことも多いですが、私自身の医師としての目標は、mTOR inhibitorも、TDM-1もすでにアメリカでは認可されましたが、特に新薬において、日本の患者さんに、海外と同等のチャンスを持ってもらえるように、海外と協力し、global trialに積極的に参加していくこと、そして、今回立案したtrialを通じ、SWOGのメンバーに加入させて頂きました。微力ですが、帰国後もこういった活動を続け、日本の医療に還元できるよう、努力していきたいと思っています。
ありがとうございました。

2013年05月08日掲載

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