日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

アルコール飲料の摂取は乳癌発症リスクを増加させるか (疫学.予防・リスク―生活習慣と環境因子・ID41130)

CQ1 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(012-013ページ)
エビデンスグレード Probable(ほぼ確実) アルコール飲料の摂取により乳癌発症リスクが増加することはほぼ確実である。

背景・目的

 アルコール飲料に含まれるエタノールおよびその代謝産物であるアセトアルデヒドには発癌性があることが実験的に示されている(二次資料①)。アルコール飲料の摂取により癌のリスクが増加するメカニズムとして,エタノールの代謝に伴う酸化ストレス,性ホルモンレベルの増加,葉酸欠乏に伴うものなどが想定されている(二次資料①)。乳癌との関連についても,欧米諸国を中心に多くのエビデンスが報告されており,それらに基づいた因果関係評価の現状について概説する。

解 説

 国際的な因果関係評価として,World Cancer Research Fund(WCRF)が2007年11月に出版した報告書では,エタノール摂取と乳癌との関連を検討したコホート研究25件,症例対照研究29件,地域相関研究4件を選択している(二次資料②)。エタノールを1日10 g摂取することによるリスク増加は,症例対照研究6件のメタアナリシスでは6%,コホート研究9件では10%であった。また閉経前を対象とした5件のコホート研究では,同様のリスク増加が9%,閉経後を対象とした11件のコホート研究では8%であり,閉経前後により関連に違いは認められなかった。これらの結果に基づき,「アルコール飲料が閉経前乳癌と閉経後乳癌の原因となるというエビデンスは確実である」と結論し,「用量反応関係は明瞭」で「閾値は同定されなかった」と総括している。この報告書は,2005年末までの文献検索結果に基づくものであるが,その後,2007年末までの結果に基づく更新版がWCRFのウェブサイトに公開された(二次資料③)。更新版では,4件のコホート研究を追加し,閉経後を対象にメタアナリシスを実施したが,エタノールを1日10 g摂取することによるリスク増加は8%と,2007年の報告書と同様の結果であった。さらに,国際がん研究機関(IARC)のヒトの癌に対する発癌性評価に関する2012年の報告書でも,アルコール飲料の摂取は乳癌に対して「発癌性あり」と評価されている(二次資料①)。

 一方,日本人を対象としたエビデンスに基づく評価として,厚生労働省研究班が実施した日本人を対象とする疫学研究のレビューが,2007年8月に報告された1)。本研究では,MEDLINEと医学中央雑誌を用いた文献検索により,1996~2005年に出版されたコホート研究3件と症例対照研究8件を選択した。その結果,3件のコホート研究では,飲酒によるリスク増加を認めたものが1件,有意差のないリスク減少を認めたものが1件,関連なしが1件だった。また,8件の症例対照研究では,リスク増加が2件,リスク減少が1件,関連なしが5件だった。これらの結果に基づき,本研究は,日本人女性が飲酒により乳癌発症リスクが増加するか否かについて,データ不十分と結論している。なお,本研究の詳細は,研究班のウェブサイトで参照できる(http://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/795.html)。本レビューの後にコホート研究から2件の報告があり,1件2)はリスク増加,1件3)は関連なしであった。しかし依然,日本人を対象としたエビデンスは少ない。

 以上より,日本人の研究がいまだ少数であることから,世界におけるWCRFの結論を主として考慮し,アルコール飲料の摂取により,乳癌の発症リスクが増加することはほぼ確実である。なお,「用量反応関係は明瞭」で「閾値は同定されなかった」とするWCRFの総括を考慮し,飲酒量に関する閾値(2杯以上で危険増など)は設けないこととした。

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,Alcohol Drinking,Riskのキーワードを用いて行った。検索期間は2012年9月~2014年9月とした。

参考にした二次資料

① ‌IARC Working Group on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Personal habits and indoor combustions. Volume 100 E. A review of human carcinogens. IARC Monogr Eval Carcinog Risks Hum. 2012;100(Pt E):1—538.

② ‌World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer:a Global Perspective. Washington DC, AICR, 2007.

③ ‌World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Breast Cancer 2010 Report:Food, Nutrition, Physical Activity and the Prevention of Breast Cancer. http://www.wcrf.org/int/research—we—fund/continuous—update—project—findings—reports/breast—cancer

参考文献

1) Nagata C, Mizoue T, Tanaka K, Tsuji I, Wakai K, Inoue M, et al;Research Group for the Development and Evaluation of Cancer Prevention Strategies in Japan. Alcohol drinking and breast cancer risk:an evaluation based on a systematic review of epidemiologic evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2007;37(8):568—74.
→PubMed

2) Suzuki R, Iwasaki M, Inoue M, Sasazuki S, Sawada N, Yamaji T, et al;Japan Public Health Center—Based Prospective Study Group. Alcohol consumption—associated breast cancer incidence and potential effect modifiers:the Japan Public Health Center—based Prospective Study. Int J Cancer. 2010;127(3):685—95.
→PubMed

3) Kawai M, Minami Y, Kakizaki M, Kakugawa Y, Nishino Y, Fukao A, et al. Alcohol consumption and breast cancer risk in Japanese women:the Miyagi Cohort study. Breast Cancer Res Treat. 2011;128(3):817—25.
→PubMed

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